花鬼

くのいち

第1話謹慎上等

|「全くなんと浅ましいというか…これだから話をするのは嫌だったんだ…。」



けれど自分の胸の内に収めて置くことも出来ず、誰かに聞いて欲しかったのも事実。但し無用な騒ぎだてとなるのは、いささか心外な事なので、何も知らぬふりを徹そうとせっかく与えてもらった辻斬り探査の役目をさぼっていた。何故かそれが抜け駆けだと難癖を付けられる!


「吟味方の下っぱふぜいに何が出来ると言う事だろうよ…。」


何とも息苦しいものよな…何の妬みも買うつもりは無かったのに、売り言葉に買い言葉、余計な事を言って、結果相手が刀に手をかける寸前まで煽った自分の行為の愚かさに引けなくなった。其所に…嫌がらせは見苦しいと刀に手をかけ、背後から助太刀に入った部外者がいた。普請方の同心脇坂小弥太と言う方だった。



「いや、すまぬ!お主が挑発に乗るなと鉄扇で牽制してくれたのにちっとも勘が働かなくて…。自分に剣術の腕等ありもしないのに、気がつけば刀に手をかけていた。本当にすまぬどうかしていた。」


奉行所にてこのような騒ぎ、嫌がらせを仕掛けた側だって無傷では終われまい?それが狙いだったのに、吟味方と普請方の闘争寸前にまで発展、事態の収集を穏便に図ろうとした上役殿の努力も水の泡となってしまった。その事を小弥太様ご本人が大変に気にかけたようで、内密に収めようにも上役から舅殿の耳に騒ぎが漏れてしまった。舅殿は婿が無事だっただけほっと胸を撫で下ろしている…舅殿が大騒ぎの上、新婚夫婦の所に居着く訳にも行かぬだろうから、暫く隠居宅へ来て貰えまいかと居候を薦めて下さった。娘を信じているからと、この実直、誠実な婿殿の人柄を…心底気にいっているようでもある。巻き添えをくわせたと何故か信じて疑わない婿殿が…ある目的で居候の所に足しげく通って来る。その間には、あの屋敷の噂も落ち着く事だろうか…?速見栄となった今でも、兄の敵を捜している。敵討ちが無意味だと諭されていても…そうしなければ居られなかった。その真意を軽んじた訳ではなかったのに…事故死だと知っていたのに。



「速見栄様はまだ此処においででしょうか?」


そろそろ騒ぎも…自分の跡を嗅ぎまわる胡散臭い連中も途絶えた頃、若い法印が訪ねて来た。舅殿とは、何故か旧知の仲らしく一通りの挨拶を交わすと



「この度は、私事で大変ご迷惑をおかけしました。無事、妻の火葬もすんだとのお話ありがとうございます。誠に申し訳ない限りで、一言詫びを申し上げねばとお許しをもらい下山しました。」


相手側がその家を狙ってこのような騒ぎだてを仕掛けたのは、栄の思惑通りだったが…何故自ら窮地に立つような降るまいを脇坂がしたか解らず大いに困惑した。栄は実直男脇坂の賢さを知り、腹を抱えて大笑いした。上司が脇坂という男を守る羽目に陥るとは、色々と性格に難のある婿養子を家族から外したかったのに…あの方も妙な手はもはや下せまい…法印はその事をわざわざ栄に告げに来た。問題は…上司の身内にあった。



「脇坂様から、仇討ちは無用だと諭されましたが…他のやり方が自分には、わかりません。だから当分は法印のまま、諸国を漫遊するつもりです。」


剃髪した法印は、妻以外の人間を愛すつもりなんか毛頭無い。死亡したとわかっていても変わらない無駄な事だ。その事は栄にも理解出来た。



「金谷のお嬢さんが無事なら、俺にはどうでもいい事さ。こちらは頼まれただけだし、本当に迷惑が及びそうだったのはあの人なんだから…辻斬りが愚か者と相討ちだって良かったんだが…岡っ引きの奴妙に張り切っちまって。焦ってた所だったんだ。」



捕まえたのは、岡っ引きだったが盗賊の一味を捕らえようとしたついでの出来事。本来の相手と手柄が逃げてしまった。岡っ引きにわざと盗賊を泳がせろと指示を出した事に、手柄が欲しい先輩から面倒な横槍を入れられる。火付け盗賊改が内定しているんだぞ?そっちの邪魔をしてどーするつもりだと此処でも足の引っ張り合い?手柄など本当はどうだろうと良かった。その内輪揉めが何故か盗賊の手下の耳に全て筒抜けに…邪魔者は消すに限ると…盗賊の笑いが聞こえそうなお粗末様。案の定、夜の女が密かに消されていた。脇坂様はその廃屋に用事があったのだろうか?前後の動きから考えると、遺体を発見する気はなかったようだ。愚か者が余計な手を出さなければ、栄は何事も起こすつもりはなかった。



「吟味方の下っぱには、サボる事しかできねーだろう?脇坂様と世間勉強かねていたのさ…抜け駆けなどとんでもない?出逢い茶屋で鉢合わせしたなどつまらねー話さ、こっちは忘れて居たよ。」


実は脇坂様、出逢い茶屋の相手の連れは誰か、気付いてわざと知らぬふりをしたらしい。相当な役者の腕前を持っている。栄の感心はその事にしかなかった。法印はこんなつまらない話をしに寄ったのでは、あるまい。脇坂様があの通りの低姿勢なので、婿養子だと勝手にまわりが思い込んでいた。この状況はむしろ逆、元々がかなり腰の低いお人柄らしい。栄のような口から出るのは全て毒、観音様のような外見からは想像もつかないほど毒舌家で目的以外の事には、ほとんど無頓着とは大違いの人物だと、先に謹慎を食らった仲間の珍獣が言っていた。脇坂様は、尾行した男性の後を追って入った屋敷の惨状をつぶさに見て、冷静に人足を呼び、速やかに中を整えた事といい、その手腕は…その辺りの剣客すら、凌駕していた。見回りしていた火消し隊の連中もあっさり口止めに応じてくれたから騒ぎにならずにすんだ。


「速見様に折り入ってお願いがございます。脇坂様は、兄上の名誉を望んでいるのでは、ありませんか?ならばその助太刀、お願い出来ませんか?速見様剣客としても相当な腕だと、脇坂様から伺っておりますが…。」


飄々として低姿勢の脇坂が腕だけ自慢の相手にキレた意味を始めて知った。脇坂様は…剣客であった。剣客の次男坊として生まれたのに才能がまるでない、女房に頭が上がらぬ恐妻家でもなかった。


「道場で業を見せて欲しいと頼まれたが…剣術など習った覚えが無くてな…木刀で、これが出来るかどうか自信がなかったんだ。脇坂様に恥かかす訳行かねーしよ…。速見家を乗っ取った俺の噂は、耳にしているだろう?当主が兄嫁でも女系だからかまわなかったんだが…ある事情でね…何故か跡を継ぐ羽目になってしまった。だから先に謹慎させられた珍獣のほうが良かろうと道場に行ってもらったのさ。」


相手の顔が驚きに変わる。栄は道場に行った事がない。本来なら女形の役者を継ぐ身、鳴り物入りで女形となる筈だったのに兄だと言う栄の死で運命が一変する。速見栄として速見家を継ぐ事となってしまった。元々速見家は女系の家柄なのに当主だった大奥の女官が失脚すると兄が当主となって、立て直す事に…人の良い兄が迷惑を押し付けられただけだと思っていた。速見家の剣は吉原の女の剣と何故か馬鹿にされて居た…踊りの扇子を剣に見立てて剣術を体得させている。それが並みの物ではないと脇坂は感心していた。栄の戸惑いは其所にある、脇坂様は剣術に対して何故か貪欲、その執念は好きを通りすぎている。


「俺は剣客の名誉なんてこの通りでわからい!何か事情があるとは思っていたが…。脇坂様の身内の事となれば話は別だから、いろいろわかる人物に、町道場の内情を見てもらったんだ…あれは俺に言わせれば、脇坂様の実家では無いぞ?まあ俺の感覚が普通じゃねぇのか?わからないがな、追い出しといて、助けてなんて虫のいい話だろうが…だから犯人に狙われたりするんじゃないのか?」


江戸文化の担い手が武士から中流の町民階級に迄広がりつつある。町人も上流階級の真似をしたいのだ。それが一部の階級には、面白くないらしい…。脇坂様の出自をあれこれ取り沙汰した者がいたのは、ただ出世がしたいばかりでは、なかった。あわよくば失脚させて這い上がろうと、醜さを晒しただけかも知れぬ。出逢い茶屋の連れは、思わぬ情報を脇坂様に持ち込んだ。道場の悪い噂を立てたのは、スリの嫌疑をかわす為だったと。


「しかしあの道場の人間を全部ぶっ飛ばしても…意味はねぇしな。あの世の人間が、何んか望むなんて生きてる方の勝手な都合だろう?恥の上塗りしただけだよ。奴等が勝手に盗賊の女の敵を討ってくれたら良い感じ位にしか、思っちゃいなかったんだが…ただ余計な事を言ってしまったと金谷のお嬢さんが気にしてね…。浅ましい奴は、植木屋の関係者激怒させたんだ!彼処の怒りを買ったら出世は無いだろうと脇坂様が笑ってたが?あんた二階で聞いて居たりして?」


巷の噂等、脇坂殿の耳にあまり入れたくなかった。道場で馬鹿にされても、もくもくと素振りに励んでいる。自分で納得する迄止めない。陰口等聞こえ無い。自分が思い描く人間に少しでも近く、素振りは千を超え手の豆が潰れ。血が滲むそれでも満足出来ないでいる自分がとなりにいる。脇坂の素振りはまるで修羅、剣術がうまく成りたい執念は…異常だと思った。気がつけば剣客の心構えを教えて欲しいと誰にも下げぬ頭を下げていた。その事すら、物知らずと嘲笑った道場に義理はない。剣客なら兄の方がずっと相応しいし栄の心中には亡くなった今でも…兄が存在していた。兄を侮辱する者は…何者だろうが栄は許せない!軽はずみにその事を言った相手が、出逢い茶屋からいそいそと出て来た時、脇坂様が隣にいてくれなかったら…。自分は冷静に行動したか…検討もつかぬことだった。そいつに誘われて嫌々行った道場では、不快な思いしかしなかった。何気に女扱いされるのは、もっとも厭な感情しか沸かない。


「普請の方の同心脇坂様が、何で辻斬りを探っていたんだ?あの道場の馬鹿どもが何に巻き込まれたか?知っていたら教えてくれ俺が謹慎程度で済んだのも、先に謹慎食らった珍獣のお陰かもなぁ…あいつ暴走する岡っ引きに巻き込まれてたが?なかなかの奴だった。俺の所で噂が何故かねじ曲げられて気にはなっていたんだ。」



脇坂様は辻斬りの探索を願って休職届けを出した訳では無い、それ以外の目的がある筈と知り合いが言ったのは、脇坂様の舅を知る人物でもあったから。栄の上司は以外に知恵が回って、意のままにならぬ、面倒な暴れ馬どもを…脇坂様に押し付けるつもりだったようだが、かえって暴走する町奴の面倒をみる羽目となり、自分の首を絞める行為だと判断したらしい…。辻斬りを捕らえた若い岡っ引きは護身術を習う為、あまり評判の宜しくなかった町道場に通っていた。ただそれだけではあきたらず、貪欲に強くなる事を願っていた。そのための恥ならいくらでも重ねて構わない。法印は岡っ引きの為に辻斬りを生かして捕縛していたものの、義理難い岡っ引きは、納得しなかった。手柄はその人のもので、自分を助けた恩人を何とか捜して欲しいと頼んだだけなのに、無視された事に腹を立てていた。頼んだ事は無視されて、何故か盗賊から岡っ引きの命が狙われる話だけが勝手に1人歩きしてしまっていた。



「一つ大暴れと行こうじゃねぇか?妻殺しの馬鹿野郎を何人も作ったってしょうがねぇしな…。盗賊を一網打尽で我慢しろと向こうにも伝えておく、どうせまとめて謹慎させられてるんだ!謹慎上等だよ!油断させて大暴れする舞台は整ってるさ。寺で勝手に謹慎している岡っ引きにも伝えてくれ!あんたが行ったら、奴はきっと納得すると思うから。」



黙って居たって自滅するんだ!馬鹿は他人なんか巻き込まねーで欲しいよな?そう言って栄は豪快に笑ったその姿正に鬼!火付け盗賊改めの邸宅に盗賊一味が投げ込まれたのは、後の祭りであった。華々しく目立つ岡っ引きを栄に捕らえさせようとした先輩のもくろみは、水の泡と…出逢い茶屋からいそいそ出て来た人間達を、脇坂様が確認していたのは、また別の理由だった道場にはそれを確かめる為向かっただけ。目的の少年は自分の父を信用出来ず、嘘の証言を信じた。誘拐騒ぎうんぬんが起こったのは、その直後だろう…未成熟な少年故の暴走だろうと…脇坂様は推測していた。迷惑をかけたと脇坂様が詫びたのは変な目で見られたのと、事は出逢い茶屋の店主に話した方が、案外速く解決の糸口を見つけられた筈と詫びたのである。店主は、岡っ引きが変に脚光を浴びた事を心配していた。岡っ引きは自分が主役になりたいから、強くなりたいのではなかった。



「ここはこういう場所ですから、客同士が顔を会わせないようになっていますが、どうやら岡っ引きの銀二は、誰かに手柄を立ててもらいたかったのではありませんか?けど…あいつの事はよく知っていますが…とんでもない馬鹿ですからね…逆に恨みを買ったんじゃないかと心配しているんですよ。」


生まれて初めて、誰かに頼りにされたと張り切っていたが出逢い茶屋の店主は刃傷事件を恐れて、相談する相手が欲しかったのだ。案の定岡っ引きの銀二は、自分が陥れられた罠に気付いて居なかった。


「栄が岡っ引きを追い込んでくれるだと?ふざけやがって!俺がやりたいのはそんな事じゃ無いんだ。あの馬鹿のおかげで、刃傷沙汰なんて冗談じゃねーだろう?父親憎んでいるなら自分で殺しゃ済んだんだよ!」


いい加減屑と手を切りたい出逢い茶屋の相手元役者は、洗いざらいその事を…様々な所で囀っていた。ただ盗賊が悪用するとは、考えが及ばなかったらしい…。囀りが止まった現場は牢の中


「仇討ち無効の意味が違ってよろしいではありませんか。休職をとかれて、これで後釜に譲れます。道場の大暴れ見事だったとお伝え下さい。」


まぁ当分彼奴があの娘を怖がらせてくれたら御の字なんだが…あの娘が解き放ったもう一つの辻斬り事件の顛末を聞きそびれちまったじゃねーか。陰間の野郎、台本のネタにも成らねーって嘆いているけど…それで良かったと教えてやろうかな?全く余計な角を立てやがって…掴んでたら間違いなく世の中から俺は消してた。もっと面白い芝居なら、頼んでやっても良かったのによ…小悪党にも程がある。話の通った出逢い茶屋は、朝顔やおもとを変える理由で、金谷文の実家である植木屋を良く利用する事にしたらしい。その事で嫌がらせが植木屋の方へ行ってしまった。



「目の前の生一本で、我慢してればいいのに、変な欲を出すから…腐らすのよね…。ありゃ文吾ちゃんでも遠慮するわよ…けどこれじゃいつ刃傷事件が起きてもおかしくないでしょう?だから話を聞いたんだけど…なんだか凄く怖い目にあったらしいの?」


隠居宅に押し掛けた、金谷文の容赦無い言葉が、隣で恐縮している婿養子の不安を一掃する。栄は道場で不快な気分にさせたとわざわざ土下座したこの人の性格を、噂とは違うと思った。妻が何に怯えているのか?全て白状したらしい。


「速見栄と言う人物に、不穏な噂を立てたのは、河原者だともっぱらの噂を立てた人間が身内に居たと、脇坂は嘆いていた。その真偽を確かめたかったので、道場に寄ったのだが…誰かわからなかったのだ。本当にすまぬ!」


必要異常に、栄が怖いと怯える妻に違和感を感じていた。ある意味育ちの良い旦那様に、金谷文は女同士の汚い世界を説明出来ずにいた。


「お前等、栄が相手にしないだろうと言ったのだが…なんだか人事に不満のある奴が妻を煽っているらしいのだ。だがなぁ…疑い合いでは務めが立ち居かなくなってしまう。狙いがそこなら、妻は騙されているのではないかと思うのだが…?」


妻ほど夫は馬鹿ではない!上司は婿養子に呆れられて出戻りする前に、娘と向き合うつもりだった。隠居するには、立場が重すぎただけだった。


「当分は謹慎を解かないで欲しいとお伝え下さい。若造なんかでは簡単に丸め込まれてしまいますよ。敵は手強いし、河原者なんてこんなものですよ…疑われる自分が悪いんです。これ以上下手につつかない方が無難でしょう…。何で怯えているかは、こちらでも伺っておきます。」


人の悪い文は、ご機嫌伺いに付き合って吟味与力のお嬢さんが悲鳴を圧し殺したまま、ハイハイで逃げ帰った所をしっかり見ていた。もう一度行く勇気は消滅した事だろう。これに懲りて地雷を踏む事は無いだろうが、全ての事を白状してしまった。


「事件をでっち上げている人間等存在しないのに、おかしな事になったものだ…。父上が嘆いておられる。」


銀二を庇って辻斬り事件の真相を知った珍獣金谷文吾が、先に謹慎処分となっていた。キレた文吾が盗賊の罠にはまったとだけ火付け盗賊改めの関係者から、その事が栄には訃げられた。何故わざわざそんなことする必要があるのか?脇坂様は犯人が悪意に動かされていると判断していた。黒幕を知ったら、自殺するだろう事も…


「銀二の恨みを買った理由はわかりますが、火付け役が何を考えていたのかわかりませんでした。あれではまあ、奥さんかなり怖い思いしたでしょうね…銀二の事も気味が悪いと避けるでしょう。」


問題は、嘘の辻斬り事件を銀二が本当にしてしまっていた事と巧妙な悪意を知らないうちに銀二がかわしてしまっていた事。


「それじゃ栄さんの手柄には、成りませんね…剣客の腕を期待したのにがっかりだな。」


悪意の火種は、銀二なら絶対しない…無用心な一言から始まっていた。この男の母親についた嘘が全ての悪夢の始まりだった。


「銀二は気付いて居ないようだし…相手は母親以外の死体が出て混乱したでしょうね…?脇坂様がこっそり死体をかたずけたとは知らないのでしょう?出逢い茶屋で密会の真っ最中だったし…。」


栄は、大嫌いな女に愛想するほど無駄な事は無いと思っている。町人対侍なんて、歌舞伎の演目だけにして欲しい、町人代表の銀二を守ってやりたいの発言に、ある種の違和感を栄は感じていた。銀二は自分の限界を知って強くなりたいと思い込んでいた。


「一人でやることなんて、あっしの頭じゃ知れてますから、頭の良い人を守ってあげたいんです。」


銀二という岡っ引き論理はめちゃくちゃだが、何故か心に、細波が立つ発言をしやがる。銀二は医者を脅して患者を見て貰っただけなんである。


「夜鷹があの人と繋がりを持ちたかった理由は、道場だけとは限りませんね。あの女の住所が何処かわかりましたか?」


現実の辻斬り事件発生で歯車が狂う男の恐怖を栄は見ている。袈裟懸けに斬り捨てられた女の死骸を、奴は茫然と見ていた。


「何をしている!これしきの事で…吟味方等勤まらんぞ!」























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