2章 [ ⅩⅨ太陽]

“トーラ地方”西部に位置する大国“ペンタゴン帝国”。五つの要塞に囲まれた国土は“属国オベイ”も含めると、“トーラ地方”全体の1/3にも及ぶ。在位30年にもなる賢帝アーマー・マンリーはよく国を導き、トーラ史上帝国が最も繁栄した時代を作ったのだった。

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“ペンタゴン帝国‐帝都サイパイヤ‐アーマー城内サンフラ庭園”

庭園内に光が満ちたかと思うと、城壁で囲まれた庭の角に一人の少女とくたびれた少年が立っていた。

「おかしいよイブ。まだお城の中だ。イブの故郷の“ホーリネス”ってところに帰るんじゃなかったの?」

これ以上担いでいるのは御免だといった調子で、少年ハルキが背中の荷を投げ出す。轟音を立てて崩れたそれらは、一部の包みが破けて金品や布類がはみ出している。

「ちょっと!なんてことすんのよ!」

「イッタ!」

イブのキックが座り込んだハルキの脇腹にヒットする。

「全く…いつにも増して暴力的な…」

「まだ、やられ足りない?」

「イエ、トンデモナイ」

イブが猛犬を彷彿とさせるような睨みを利かせると、ハルキは腹を押さえて更に小さく丸まった。

「帝国“ペンタゴン”の財宝なんて、時空旅行をしていてもそうそう手に入るような物じゃないんだから、もっと丁寧に扱ってよね。」

「でも、あの王様は国が滅ぶから好きなだけ持って行けって言ったんだよ。そんな風には見えなかったけど、なんか気分悪いなぁ。」

「私の知ったこっちゃないわ。とにかく、コインの不具合で足踏みを喰っちゃったけど、今度こそ帰るわよ!」

「しっかり頼むよ。」

そう言うとハルキは欠伸をしながら荷物を背負い、イブはコインを取り出した。


ガサガサガサ…


「お姉ちゃん達だ~れ?」

しかし、イブがコインに力を込める前に庭園にある広大な向日葵畑の小路から、白い子馬を伴った茶髪の少年が出てきた。

「誰でもないわ。」

イブが興味なさそうにシッシッと手で少年を追い払おうとする。

「イブ。いくらなんでも無愛想過ぎるよ。ごめんね。驚かせちゃって。僕達すぐに出ていくから。」

ハルキは少年に笑顔を向けるとイブにコインを使うよう促した。

「待て!」

しかし、それを少年が妨げる。そしてハルキを指差して、

「おまえ!泥棒!」

と叫んだ。

「へっ!?」

間抜けな声を上げたのはハルキである。

「あら、ハルキ。とうとう法に触れるようなことでもやったの?」

「まさか、僕がそんなこと出来る訳ないだろ!っていうか、同じ行動してきたイブならわかるだろ、僕が泥棒なんかしてないって!」

「さあ?どうだったかしら?」

「イーブー!」

斜め上を見上げすっとぼけているイブに憤慨するハルキ。

「おまえも泥棒!」

「な、なんですって~!」

しかし、そんなイブにも少年の指が向けられる。

途端に、イブの顔色が変わって、蒸気を噴き出すように息巻く。それを見て、ハルキはすぐさま後方に避難したが、少年は怯まない。

「それ、パパの宝物!おまえらが持っているのはおかしい!どうやって宝物を盗んだんだ。白状しろ、泥棒!」

そう言うと少年はヒラリと白馬に跨がり、腰に差していた短い剣を抜いた。

「行くよ!フューチ!パパの宝物を取り返すんだ。」

フューチと呼ばれた小馬はいななき、少年を乗せてイブへと一直線に向かう…のではなく、ハルキに向かって、まっしぐらに駆けてきた。

「わああああ…」

叫び声を上げながら逃げるハルキだが、元々庭園の隅にいたのに更に壁に向かって逃げたのでは、すぐに逃げ場がなくなってしまう。

「馬鹿ハルキ!こっちよ!」

イブがそう言って向日葵畑へとハルキを誘導する。ハルキは背負っていた。重たい荷物をほおり捨て、向日葵畑へとダイブした。

臆病なハルキはそれでも馬に追いかけられた恐怖が収まらないようで、イブの袖を引っつかんで、向日葵畑の更に奥へと駆け出した。

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「偉いぞ、フューチ。よくやった。パパの宝物を取り返したぞ!」

その頃、ハルキ達を追い払った少年は馬を撫でて戦利品を確認していた。

「うん、やっぱりパパの宝物だ。」

少年はハルキが投げ捨てて行った荷物の中から、“ペンタゴン帝国”の紋章の入ったペンダントやカップを取り出して、満足げに眺めた。

「でも、パパの宝物庫から盗みを働くなんて、きっと凄腕の泥棒に違いない。見つけたら今度は捕まえなくちゃ。でも、その前に…」

少年は聖樹を模った冠を掴む。

「へへ。これ、一度かぶってみたかったんだよね。」


THE SUN


馬がいななく庭園で、冠をかぶり無邪気に笑う少年の笑顔はまさに太陽そのものだった。

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「きっと、“ペンタクル”の力で僕らは、僕らがアーマー・マンリー帝に会う前の時代の“ペンタゴン帝国”に来ちゃったんだよ。だから、あの子に泥棒なんかに間違われて、馬に追いかけられる嵌めに…って痛い、痛い、痛い、痛い…関節技は止めてぇ…」

「だったら、呑気に考察する前に私に言うことがあるでしょう!」

向日葵畑の奥深く、ハルキを締め上げるイブと締め上げられるハルキの姿があった。

「ご、ごめんなさい!お土産全部置いて来てしまって…」

「ふぅ、分かってるならいいの、分かってるなら。」

イブが力を抜くと、ハルキが安堵のため息を漏らす。

「さて、それじゃあ。これ以上ややこしい誤解をされない内に、さっさと行くわよ。」

イブが光り輝く“ペンタクル”を取り出しながら言う。

「ふぅ…やっと、“ホーリネス”に行けるんだね。」

「何言ってるの?」

「えっ?」

イブがハルキを笑顔で見つめる。ハルキは冷や汗を流しながらそれに応える。

「馬鹿ハルキがお土産全部パーにしたから、もう一度一から集め直すに決まってるでしょう!」

「え~~~!」

「先ずは“コマース”辺りから回るわよ!」

光が満ち、そして消えた時には“サンフラ庭園”に二人の姿はすでになかった。


ⅩⅠⅩ太陽 ~僕の初仕事~...fin

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Tora's Data -3-

ソート-suits's

*この古文書は損傷が激しく、完全に復元する事が出来ません。

“トーラ×方”に古くから伝わると××れる祭器。絵画や文献で×、形の違×四つの道具の姿で表され×××多い。

伝説では、四つの“ソート”がそれぞれ×、×、×、土を司り、起源の時代に創造者××う一人の人間に依っ××の世界は創造されたとされる。

創××後にそれぞれの“ソ××”は創造××四人の子孫に一つずつ受け継××××伝説は伝える。単体でも果て×××力を持つ“ソート”は×××盛り立てたが、ある時代に皆、力××××とい×。

しかし、××らの話は全て伝説××り、実在×××性は皆無×××。また、例××××の品が現存したとし××、今日で××の力の片鱗を見るに過ぎ×××××。

“ソート”に関する伝承はあら×××々を魅了し、著×××物では“ペンタゴン××”の賢帝アー××・××リーや××師のオールなどが挙××れる。

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