第15話 やっぱりレアだよね
いつもの見慣れた通学風景。
今日も神社にはセミロングストレートをした後ろ姿の女の子がいた。
「なんでいつも後ろ姿なんだよ……」
電車の中で文句を言いつつ、すぐに見えなくなった神社の方向を見つめ続ける。たまに見かけることは見かけるが、いまだに顔を見たことがないのだ。たまたまタイミングが合わないだけなのかはわからない。
……そこまで興味はないつもりだったが、こうも顔を見れないと気になってくる。……気にはなってくるんだが、通学前に神社に寄ってまでとなるとなんとなく面倒くささが出てくる。遅刻はしないと思うんだが、何かあったらあれだしなぁ……。
むしろ顔がわからないからこそいいのかもしれないと思いなおす。『こま』さんだって相手がわからないからこそなのかもしれないしな。きっと実際に会ってしまったらがっかりするに違いないんだ。
通学前に見に行かない理由を無理やりひねり出して自分を納得させる。
これで『こま』さんと神社の女の子が同一人物だったりしたら笑えるな。
もやもやする気持ちを無理やり納得させつつ、ありえない確率の可能性を思いついてすぐに否定する。
性別と神社好きくらいしか合ってないし、さすがに日本全国探せば神社好きな女の子なんて、それこそいっぱいいるだろう。
「おいーっす」
気が付いたらもう学校だ。
「ういーっす」
相変わらず空閑はいつも先に学校に来てるな。ふと見回しても青羽と夕凪はまだ来ていない。これもいつものことだ。だいたい授業の始まる十分くらい前に着くようにしているが、電車は十分おきなので一本遅らせると遅刻するかもしれないのだ。
……あー止めだ止め。いい加減電車を一本遅らせて神社に寄らない理由探しは止めだ。いくら気になるからって無理して行く必要はない。気分が乗ったら行くでいいじゃねぇか。誰かわかったところで知り合いじゃない可能性の方が高いし、ましてや『こま』さんである可能性なんてほぼゼロだ。
「……どうした?」
いつまでたっても席に座らない俺に違和感を覚えたのか、隣の空閑から訝しむ声が聞こえた。
「いや、なんでもない……」
「……ふーん?」
空閑もそれ以上は追求してこない……、と思ったが眉間にしわが寄ったままだ。
「昨日何かあったのか?」
「何もねぇって言ってるだろ」
「……ほーん、じゃああれか。通学中に気になる女の子でも見つけたか?」
半ば確信を持ってニヤリと口をゆがめる空閑。
「……な、なんでそうなるんだよ」
思わず動揺して言葉に詰まってしまうが、それを見逃す空閑ではない。
「えっ、マジで?」
「いや、だから違うって……」
「まぁまぁまぁ、オレとお前の仲だろ」
ゆっくりと立ち上がって肩を組んでくると、周りに聞こえない小さな声で言葉を続ける。
「何があったか教えてくれてもいいんじゃないか」
……何がって言っても、同じ学校の制服着た女子生徒の後ろ姿を見かけたってだけなんだが。……うん? 言われてみれば隠すほどのことでもないな。むしろ逆につまんねーとか後で文句言われそうだ。
「いや大したことじゃないんだ」
「なら話しても大丈夫だな!」
だがどうしても空閑は話を聞きたいらしい。
「……そんなに聞きたいのか? あとで文句言うんじゃねぇぞ」
「おう」
組んでいた肩を外して聞く体制になる空閑に、通学中に通る神社で見かける女子生徒の話をしてやる。
「……で、誰なの?」
「知らん」
「えー。声でもかければいいのに」
案の定不満そうだが声なんぞかけられるわけがないだろ。まぁ物理的に不可能というのもあるが、俺自身にいきなり声をかける勇気なんぞねぇわ。
「……っていうか、通学中に神社なんて通るんだ」
どうやら神社を通ることに興味を持ったらしい。まぁ全く情報のない女子生徒の話を掘り下げられても無理なので、話が変わったことは歓迎だ。
「神社の境内を電車が突っ切ってるんだよ」
「何それ? マジで?」
「おう、かなりレアだろ? だから毎日神社通らないと学校来れないわけよ」
「あー、なるほどね。それじゃ声かけられねぇじゃん」
「そういうこと」
若干話は戻ったが、どっちにしろこれ以上は深くツッコまれないだろう。
「おはよう。そんな神社があるんだ」
そこに現れたのはセミロングストレートの髪型をした青羽だった。
「おう、オレも初めて知ったよ。思ったより近場にレアな場所があるなんてな」
ちょっとだけ電車が通る神社で盛り上がる二人だが、青羽を見てふと神社で見かける女子生徒を思い出した。そういえば二人とも髪型は似てるよなぁ……。
「そこってなんていう神社なの?」
「ん?」
いや髪型が似てるだけで別人か。さすがにちょくちょく足を延ばす神社の名前を知らないとかさすがにない……よな?
「うーん……、ってか俺も神社の名前までは知らないな……」
すぐ裏にあるでかい古墳の名前なら知ってるが、毎日通るとはいえ神社の名前までは知らない。もしかすると入り口には名前が書いてあるかもしれないが、何せ電車で通るのは境内のど真ん中だ。
「えー、毎日通ってるんじゃないの?」
青羽にからかわれるがそういう理由があるから仕方がない。これ以上神社の話で盛り上がることもなく、チャイムが鳴ると一時間目の授業が始まった。
ふと気になったので休み時間に夕凪にも聞いてみたんだが、案の定神社の名前は知っているわけもなかった。
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