第12話 学食
「終わったーーー。昼飯行こうぜ昼飯!」
四時間目の授業が終わると同時に、空閑が大きく伸びをして立ち上がる。授業の終了を告げた先生がまだ教壇で片づけをしているというのに行動の早いやつだ。と思ったら前の席から青羽がやってきた。
「お昼行くなら一緒に行かない?」
「うん?」
いつも弁当だと思ったが今日は違うのか。ってかその手に持ってるのは弁当じゃねえか。たまに弁当持って学食で食ってるやつはいるけど、いつもは夕凪と教室で食ってたような気がするんだが。
「遥がね、今日お弁当忘れたんだって」
胡乱げな俺の表情で気が付いたのか、青羽が理由を話してくれる。どうやら学食で何か買って教室で食べることはしないらしい。
「ふーん……」
何とはなしに相槌を返すが、この話の流れからすると夕凪とも一緒に昼飯を食うことになるんだろう。一瞬顔を顰めそうになったが、さっき空閑に言われた言葉で踏みとどまる。
……なるほど、確かに俺にも問題があったんじゃないかとすげぇ自覚したわ。顔に出してたつもりはなかったが、今すげぇ出そうとしてた。本人がいないところだったのが救いだが、ちょっと気を付けないとダメだな。
「まぁいいんじゃね?」
特に気負いなく空閑は答えるが、俺の意見を聞く気はないらしい。いやまぁいいけど……。
「よかった。……じゃあ行きましょうか」
青羽を先頭にして廊下側の席に座る夕凪に声をかける。
「遥~、学食行こっか」
「えっ?」
後ろに控える俺たちに気が付くと、驚きと困惑の表情を浮かべる夕凪。本人も想定外だったのか?
「ほらほら、お弁当忘れたんでしょ」
反論はさせまいとするかのうように急かし、俺たちは学食へと向かう。遅くなれば混むし、早く行くに越したことはない。俺も顔に出ないように気を付けてはいたが、表情をじっくり見られることがないのであればひとまず安心だ。
……と思ったところで眉間にしわを寄せる。
なんで俺がこんなに気を使う必要があるんだ。いつまでもこんな雰囲気じゃダメなのはわかるが、なんとなく理不尽を感じてしまった。空閑もそうだが、青羽も俺と夕凪の雰囲気をどうにかしたいと思ってくれているのはわかる。
うーむ、よくよく考えると空閑と青羽っていいやつだよな。おせっかいとも言うが。それを思えば俺と夕凪は同じ立場か……。案外俺と同じこと思ってたりしてな。……まぁどうでもいいが。
そんな益体もないことを考えながら、俺たちは学食へと到着した。
学食はもちろん学校の敷地内ではあるが、道路を挟んだ向こう側に学食はある。俺はもう慣れたが、一度学校を出るということもあって、ちょっと学校内とは違う雰囲気を感じる。
「おぉ……、ここが学食」
夕凪から何やら感動の声が聞こえてくる。もしかして学食に来るの初めてなのか? ……なんとなく俺が初めて来たときと同じ反応だ。
「へぇ……、ここが……」
青羽からも何か関心したような言葉が聞こえてくる。一年とちょっと学校に通ってて今まで学食に来たことないのか。……学食って男が多いのは確かだが。それに全校生徒の人数を考えれば、うちの学校の学食って狭いよな。来たことないやつのほうが多いのかもしれない。
「入り口で突っ立ってないで並ぼうぜ」
ほかの生徒の邪魔にならないように夕凪を急かす。こうしている間にもカウンターに並ぶ人間が増えていくのだ。早くしないと昼飯にありつけるのが遅くなる。
「う、うん」
気後れしながらも素直に頷く夕凪の横を通り抜け、そのまま列へと並ぶ。後ろからトコトコとついてくる夕凪を確認すると、メニューへと意識を向けた。
「わたしは先に席取ってくるね」
「あっ……」
弁当持参の青羽に何かを言いかけるも、どうやら間に合わなかったようだ。後ろ姿を見つめたまま言葉が続かない。
「じゃあ俺も一緒に席取ってるわ。白石、いつものよろしく」
「――はぁ!?」
てっきり一緒に並ぶと思ってた空閑の言葉に絶句する。おまっ……、あれだけ学食行こうと急かしておいて何言ってんだ!? っつーかいつものって何だよ! そんなに並ぶのが嫌なのか!
理解が追い付かないうちに空閑はそのまま行ってしまう。とはいえ長テーブルしかない学食では、一人で四人分の席を確保するのは難しいのだ。結局は引き留めることはできそうにない。
「ねぇ」
若干の理不尽さを感じていると、何やら裾を引っ張られる感触とともに声をかけられた。振り返ると微妙な表情をした夕凪が、俺からメニューへとさっと顔を向けるところだった。
「あん?」
自分から声をかけておいて顔を逸らすとかなんだよ。思わず不機嫌な声で返事してしまったが……、落ち着け俺。落ち着くんだ。それこそ相手は夕凪とはいえ、ここで声を荒らげてもただの八つ当たりだ。
「……どうした?」
心の中で深呼吸をすると、ちょっと優しさを込めて改めて夕凪に声をかけると。
「えっと……、何かおすすめってある……?」
びくっと反応した夕凪が、恐る恐る尋ねてくるのだった。
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