猫が退色していきます、俺は忘れていきます、猫! 猫、猫!

@ryuhnosuke

そして

そして俺は死んだ。俺を勧誘していた死神は、じつに肩をおとして弔辞を述べた。

「こんなにも死ぬに値する生命が、他にあっただろうか。残念だ。アーメン」

 俺を追い回していた生神は、喜々としてなんでも三日三晩パーティを開いたそうだ。

「こんなにも生きる価値のない生命が、他にあっただろうか? 神よ、正義をありがとう。ビバ! 世界!」

 情報番組が、トップニュースを放送する。うららかな四月の日本の、片隅、花見のために酒を買い出しに行く人もいる、慣れない電車に不安気に乗る、新生活人、そんな中、俺は誰にも知られず、人生を、終えた

「君は死んだことがあるか?」

 俺は通りすがりの清掃業者に話しかけた。実につまらない目つきの制服を着崩した男は、ごみ袋の口を閉じながら、答えた。

「あるよ、毎日。今朝も死んできとこ」

 死んだといっても何かが変わる訳じゃない。幽霊になる訳でもない。はたまた遺骨に成る訳でもない。桜を見れば散ることをイメージして、美しい、と思う。

「お邪魔して、ごめん。さ、仕事を」

 俺は清掃人に頭を下げて、どう死人としての人生を過ごそうかと、本屋に向かう。水嶋書房はデカいから、’死人として生きる楽しみ’の書いた自己啓発書ぐらい、一時間もあれば見つかるはずだ。

 あの猫いがいに俺は遺す感情はない。もともとだって。俺は生きてやしないのだから。

 猫。

 ああ、あの猫が弱っている。死臭、手首に今朝つけたブルガリの香水に交じって猫の放つ死臭が尾行にはいずり入ってきてしまう。

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