PM2:02
「ふぅ……どうにか間に合ったか」
約80の魔術書を朝礼台の上に積み上げ、俺は汗を拭った。
結局10分くらい掛かった。点在してる勇者達に駆け寄り、それなりに重量のある魔術書をひたすら回収。地味に重労働だった。
多分これだけで、俺は今日の体育を頑張ったと言い張れる程度には疲労困憊だ。重箱でため込んだカロリーを発散させるいい機会になったと思おう。
「さて、そろそろかな」
ネクロノミコンの纏う光は、もうほとんど尽きようとしていた。冷静に考えれば、これは俺が発動した魔術なのだし、俺の意思で時間を動かすこともできるんじゃないか、とも思ったけれど、今さらだな。
そんな事を考えている間に、凍った世界が動き出す。
「あ、あれ? 修二は……」
動き出した勇者達は、見失った俺を探してきょろきょろしている。俺は魔王らしく朝礼台に寄りかかりながらふんぞり返ってみた。
「こっちだ。その程度か? 勇者さん達よ」
一斉にこちらを見る勇者達。おおぅ、お前ら思いっきり俺を獲物として見てるな。目が怖ぇよ。
だが、臆さない。圧倒的な優位を示すことで、この闘いに終止符を打つのだ。
「さて、まだやるか?」
「もっちろん! 修二をこの手でボコボコに……って、あれ?」
手に魔術書がない事に気付いたんだろう。戸惑いの声が連鎖していく中、朝礼台の上に積まれた魔術書をポンと叩く。
「残念ながら既にゲームオーバーだ。……じゃ、俺は疲れたからもう教室に戻るぜ? あかみちん」
「あ、あぁ……」
呆けた顔のあかみちんに背を向け、校舎の方へ歩き出す。自分の魔術書に群がる勇者たちの声が、チャイムに混じってグラウンドに響き渡った。
そして、そんな彼の背中を見やる影。
「見ましたね? 三崎修二、そしてネクロノミコン……もはや疑いようがありません」
「……うん」
呟きは、勇者達の声に潰されて消えた。
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