AM11:22

「で、三崎君。今朝買ったって事は、これで魔術を使ったことはないのかしらぁ?」


 と、先輩がそんなことを言う。


「はぁ、まぁ……魔術どころか、1度も中を見てません」

「そうなのぉ。それならぁ」


 悪戯っぽく笑い、先輩が俺を手招きしながら歩き出す。何のつもりか分からず動けない俺に、周りのヤツらが囃し立ててくる。


「ほら、呼んでるよ三崎君。早く行った方がいいって」

「先輩、怒ったら怖いの知ってるだろ? 巻き添えで俺らも怒られるのはマジで勘弁だからな」

「くくく、我が闇の眷属よ。今こそ覚醒の時だ、ゆけ!」


 とりあえずお前は黙れ中二病。


 仕方なく、俺は立ち上がった。先輩はもう教室を出て行ってしまっている。早足で後を追った。


「こっち、こっちよぉ」


 先輩はそのまま階段を下りていく。どこに行くつもりなんだ、という疑問をぶつけようにも、ゆったりした足取りのくせに先輩の足が異様に早くてなかなか追いつけない。これも悪魔故なのか。


 2段飛ばしで階段を駆け下りる。先輩にようやく追いついた時には、3階から1階まで下りてきてしまっていた。


「せ、先輩……どこまで、行くんすか……?」

「あらぁ、情けないわねぇ。この程度で息を切らすなんてぇ」


 文化部の体力の悲惨さをナめんな……と思ったが、さすがに自分でも疲れ過ぎだと思う。多分俺、凛よりも体力無いと思うし。


 何となくショックを受ける俺を尻目に、先輩はさらに歩き続ける。マジでどこまで行くんだ、と心中で呪詛を吐きながら、俺は半分執念で先輩を追った。


 行先は、グラウンド。幸いにも、先輩はグラウンドに足を踏み入れて少し行った辺りで足を止めてくれた。


「よぉし、この辺りで良いかしらぁ」

「い、良いって、何がっすか……?」

「もちろん、試し撃ちよぉ。これの、ねぇ?」


 ネクロノミコンを掲げ、先輩はうきうきとした笑顔で言うのだった。

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