AM10:33

「って、そうだ。本題はそんなんじゃなくて」


 保手浜が思い出したように言う。うん、やっぱ俺を気遣うつもりはなかったって事だな? この野郎。


「本題? まさかお前も宿題絡みじゃねぇだろうな」

「違う違う。トイレ行かね? ってだけ」


 ああ、トイレね。そういや、今朝は色々ごたごたしてたから登校前に行けてないな。


「俺はパスで」

「なんだよ、付き合い悪いぞ? 湯川」

「だってさっき生き返ったばっかだし」

「ああ、それもそうか」


 新発見。死んで生き返ると、尿意はリセットされるらしい。……トリビアレベルで役に立たねぇ情報だな。


「じゃ、三崎は? 来るよな? な?」

「あー……」


 保手浜の謎の押しの強さはさておき、俺の心は理性と本能の狭間で揺れていた。


 本能は『行け』と言う。理由? そりゃあ、その……行きたいからだよ。察しろよバカ。


 理性は『やめとけ』と言う。理由は単純で、そこが〝イカれポイント〟かどうかも分からない場所へは、なるべく行きたくないからだ。


 どっちの主張も納得できるけど、どっちかを選ばなければならない。俺は数秒間、たっぷり悩み、


「ん、行くわ」


 頷く。どのみち、どこかで通らなくてはならない道だ。保手浜こんなヤツとはいえ、誰かと一緒の方が心強いだろう。


「よし、さすが! それじゃあとっとと行こうぜ!」


 と、急かすように俺の肩をバンバン叩く。痛ぇ。


「いや、行くから。なんだよ、そんなに限界なのか?」

「限界に決まってるだろ!」


 ならわざわざ誘わずに1人で行けばよかったのに。寂しがり屋か。


 そんな事を思ったけど、なんかめんどくさかったので言わない。湯川に見送られ、俺達は少し早足で教室を出た。

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