AM9:45

「きりーつ、れーい」

「よろしくお願いしまーす」

「はい、よろしくお願いします。それじゃあ授業を始めましょうねぇ」


 10分の休憩時間が終わり、2時限目開始。


 がたがたがた、と俺達がまばらに席に座り直す中、御柳みやなぎ先生は穏やかに笑った。


 御柳先生はもう60近い定年間近のお婆ちゃん先生で、マイペースな事で有名な先生だ。


 滅多な事じゃ怒ったりしないし、いつもニコニコ生徒の話に耳を傾けるし、例え授業で生徒が間違っても最大限フォローしてくれる。なんつーかまぁ、ホントに生徒全員の〝おばあちゃん〟って感じだ。


 なので生徒からの好感度も高い。マスコット的、とでも言おうか。


 担当教科は古文なのだが、眠くなりそうな教科なのに対して居眠りをする生徒は少ない。眠るのは申し訳ない、って心理でも働くんだろう。俺も眠ったことは……まぁ、数えるほどしかない。


「みなさん、宿題はちゃんとやって来たかしら?」

「バッチリです!」


 元気よくそんなことを言ったのは、凛。


 おう、謎の自信過剰やめろや。ついさっきまで俺のノートとにらめっこしてたのはどこのどいつだ、あぁん?


 幼馴染の図太さにもはや感心してしまった俺。御柳先生がにっこりとほほ笑む。


「偉いわね。そんな風花さんには飴玉をプレゼントしましょう」


 そう、御柳先生は授業の途中で生徒に飴玉をあげる事がよくある。これもまた、みんなのおばあちゃんな立ち位置を決定づけているんだが……よくよく考えれば、これってあまりよくない事なんじゃなかろうか。教師が生徒にむやみやたらと物をあげるってのは。


 ま、御柳先生だから、って事で誰も気にしないだろうけど。先生はポケットから飴玉を取出し、凛に手渡す。遠目で見た色合いから察するに、イチゴ味っぽい。


「ありがとうございます、先生」


 貰った凛も、子供みたいにはしゃいでいた。多分、本心から喜んでるんだろう。


 しかし……自分の功績を横取りされた感じでなんかムカつくな。


(……?)


 と、先生をの目を盗み、凛がノートの切れ端をこちらに向けた。そこには短くこう書かれていた。


『あとで半分に分けようね』


 いらんわバカ野郎。

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