個性的な授業風景

AM8:51

 芸術棟。その名の通り、芸術に関する教科の部屋だけで構成されている校舎。


 1階は書道室。2階は美術室、3階は音楽室で、それぞれの準備室も含めて全部で6部屋だ。


 美術の授業は、正しくは芸術の授業の中での選択授業の1つだ。2クラスごとに3つの授業に割り振る形式となっている。


 俺達は2年5組は、芸術棟の前でいつものように分離した。書道室に入っていく面々を見やりながら階段を駆け上った俺は、3階へ向かうヤツラを横目に美術室に飛び込む。


「遅ぉい!」


 途端、俺達を出迎える怒声。美術教諭、五十嵐いがらしだ。


 どこからどう見てもムサいおっさんで、美術とは欠片も縁のなさそうなヒゲ面オヤジだが、こう見えて美術界隈ではわりと有名人だそうな。人間、見た目だけじゃ分からないもんだと切に思う。


「クラス丸ごと遅れるとは良い度胸だな。言い訳があるなら聞くぞ?」


 仁王立ちで腕を組んで俺達を待ち構える五十嵐。先に準備していた6組の連中の視線も突き刺さってくる。


 俺達は顔を見合わせ、同じく美術を取っていた保手浜が代表して言った。


「バカがベルゼブブに喰われて大変でした」

「そうか、なら仕方ないか」


 仕方なくねぇよ。仮にも教師なら色々とツッコむとこがあるだろうがよ。


『またかよ5組~』『もしかして湯川君?』6組の連中がにわかにざわつく中、5組勢は早足で自分の席に着く。だん、と五十嵐が教卓をそのデカい両手で叩いた。


「よし、どっちのクラスも全員居るな?」

「5組、休みいません」

「6組もで~す」

「よし、んじゃあ出欠確認は省略!」


 相変わらず大雑把だな。世界がイカれちまっても、こういうとこは平常運転らしい。いや、さらにイカれてないだけマシか。


「さて、諸君。芸術はぁぁぁ……!」


 あ、来たよお決まりの言葉が。1年の時から美術を取ってるけど、絶対にこれだけは欠かさないんだよな、五十嵐のヤツ。


「爆発だぁぁぁぁ!!!」


 うっせぇな相変わらず、いい歳したおっさんが叫んでん


 ちゅどぉぉぉぉぉぉん!!


 はるか遠くから聞こえた、冗談みたいな爆音。


 俺はその時、この世界がイカれている事を改めて思い出したのだった。

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