AM8:40

 俺はゆらりと立ち上がり、カバンを拾い上げる。パンパンとズボンについたほこりを払い、1つ深呼吸。


「よし、教室に入るぜ凛!」

「へ? いやいや、なんでいきなりそんなテンション?」

「バッカ野郎、遅刻しただけでこれだぞ? 気ぃ張ってかねぇと、どうなっても知らねぇぞお前」

「別にこれくらい、よくある事じゃん」


 お前の中ではな! 心の中で絶叫し、俺は教室のドアの前に立つ。


 ホームルームは終わっているらしい。確かに、教室の中からはざわざわと喧騒のような声が聞こえてくる。


 遅刻した身で教室に突入したら妙な注目を浴びること請け合いだが、今俺を支配している緊張はそれとはまったく別のものだ。


 さぁ、足を踏み出せ俺。何度も言うが、まだ起きて1時間程度しか経ってねぇんだぞちくしょー。


 がらり、と勢いよくドアを開け放つ。その先には、


「お、三崎遅刻かよ? 良いご身分じゃん」

「風花さんも一緒? 確か2人って幼馴染だったよね。仲良いんだ?」


 拍子抜けするくらい、いつも通りの風景があった。


「別に仲良くなんてないってば。ただ、修二が自転車ぶっ壊して途方に暮れてたから、優しい私が助けてあげたら巻き込まれたってだけ」


 凛がそんな事を説明しながら一足先に中へ。俺も後に続く。


 自分の机に向かう間、俺と凛をからかうようなヤジが飛ぶ。……折角なので、もう一度言っておこうか。


 幼馴染とそういう関係になるってのは、創作話の中だけの話だ。


 俺と凛はただの腐れ縁。それ以上でも以下でもないのだ!


 ……まぁ、イカれた何かに出迎えられるよりはよほどマシではあるけど。ようやく机に辿り着き、俺はどさりと席に着く。


 やぁっと一息つけるぜ,。さて、一時限目の授業の準備を……と思った矢先、視界の端にそれが移る。


 隣の席の湯川。1年の時も同じクラスで、今もわりと仲が良い。


 そいつが、見覚えのある作業に従事している。


 無視しようかと思った。どうしようもなく無視したかった。


 けど、それを放置した場合、さらなる面倒が起きかねない事は、今朝体験済みだった。


「……なぁ湯川」

「ん? なんだよ三崎」

「何してんだ?」

「見れば分かるだろ。悪魔召喚だよ」


 デーモンサモン、再び。

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