AM8:39

 俺の脳天目掛けて構えられ、目の前に暗く覗く銃口。


 引き金に掛けられた津島さんの細い指。


 本能で逃げ出そうとする俺。


 飛び掛かってきた凛に羽交い絞めにされて一瞬動けなくなる体。


 唐突に蘇り加速度的に駆け抜けていく幼い頃の記憶。


 穏やかに俺を送り出してくれたルシファーの笑顔。



 かち、と。

 


 永遠にも思えるほど長い一瞬の後、俺の耳に飛び込んできた無機質な音。津島さんの指は、引き金を引き絞っていた。


「……あ~、残念。ハズレかぁ」

「6分の1とはいえ、たまには当たって欲しい、かな」


 え、何? この2人の中では俺の頭が吹っ飛ぶ方が当たりなの? ねぇ?


 そんな事を心の中でツッコみながら、遅れて助かったことを自覚する。俺はへなへなと情けなくその場に座り込んだ。


「あはは、怖かった? まぁ初めてだとそうなるよね、普通は」


 初めてじゃなくても怖いわ、普通は。


 さっき津島さん、今日は手伝ってあげる、って言ってたよな。それってつまり、慣れてきたら自分で弾込めて引き金引いてね(はぁと)、って事か? 鬼ですか。


 てか、なんで俺最後にルシファーの顔なんか思い浮かべた? それが地味に一番イヤだわ。


「それじゃあ三崎君、次は当たりかもしれないから、遅刻しないように気を付けてね?」

「ハイ、キヲツケマス……」


 俺の返答に満足したか、津島さんは教室の中へと消えて行く。ぴしゃり、と再びドアが閉め切られた


 要するにこれ、遅刻再発防止のための罰ゲームなのか。まぁ確かに効果はあると思うけど。


 ……ん? もうリアクションしないって言った、だと?


 あのな、物事には限度ってもんがあるんだよ。今ので全く動じなかったら、もう完全にこのイカれた世界に染まり切ってるって事じゃん。


 俺はどんだけ体を犠牲にしたしても、魂まで売ったつもりはないんだよ……発言がブレブレ? お黙りなさい外野共。


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