AM8:08

「これって……?」


 その時になってようやく、ドナドナファンタスティックが目に入ったらしい。凛は目を見開き、覗き込むようにその亡骸を眺めた。


 その間、なんか知らんが俺の心臓がバクンバクンと跳ねていた。こんなのでも、俺と同じ常識を持ち合わせてくれているのならかなり心強い。


 ある程度慣れたつもりだったけれど、俺は味方が欲しかったんだろう。緊迫の数秒、凛が改めて俺を見る。


「ドナドナファンタスティックじゃん! ちょっと、何やったのよあんたこれ!」


 よし、普通の反応だ! てかお前、よく俺の愛車の名前覚えてたな!


「自衛隊の演習にでも巻き込まれたの? それか、悪ガキどもの爆竹ドッヂボールにでも巻き込まれたの?」

「この辺に自衛隊の基地なんかねぇし、爆竹程度で俺の愛車がこんな事になるかよ。あと、いつから俺はそんな巻き込まれ体質だと思われてたんだ」


 そもそも爆竹ドッヂボールなんてヤバい遊びなんてあるわけ……ねぇとも言い切れないか。手榴弾が普通に手に入るんだから。

 てか、この流れ……ヤバくね?


「じゃあ何やったのよ! ほら、お姉さんに正直に話しなさい!」

「俺の方が2ヶ月年上だバカ。……いやさ、手榴弾投げられたんだよ、さっきすれ違った小学生に」

「はぁぁぁ!?」


 一際声を荒らげた凛は、呆れたように息を吐いた。


「それ、あんたが不審者じみた行動したって事でしょ? 自業自得じゃん」


 ……凛、お前もか。


 いや、分かってた。ホントは最初から分かってたよ。幼馴染だけが都合よく正常なままでいるなんて事、それこそ二次元の特権だ。


「はぁ、心配して損した。で? あんたはそれで途方に暮れてた、ってわけ?」

「まぁ、そうなるな」

「オッケー。じゃあ、ほら」


 そう言って、親指で後方を指さす。乗ってけよあんちゃん、とばかりに。


「……いいのか?」

「ぐだぐだうっさい。見捨てるなんて気分悪いじゃない」

「そか。ありがとな」


 ポジティブなとこも、お節介なとこも、俺の知る風花凛となんら変わりない。

 やっぱり、本質的な部分から人を変えてしまうような、そんなイカレ方じゃないって事か。


(……ま、考えたってしょうがないよな)


 俺は自転車の後ろに足を掛けて立ち、凛の肩を掴んだ。


「んじゃまぁ、よろしく頼むわ。凛、それとララバイメランコリー」

「任せて! ……てか、よく人の愛車の名前覚えてたわね、あんた」


 ……まぁ、腐っても俺達は幼馴染って事らしい。




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