AM8:01
ヤツらは、唐突に現れた。
野球部でもなければ、弓道部でもない。
この流れだとまた高校の部活どもが俺を阻むんだろう……そんな風に考えさせられた時点で、俺は敗北していたのだろう。
そう、俺の前に現れたヤツら。それは、
(しょ、小学生、だと……っ!?)
ランドセルを背負った子供が2人。背が高い方が女の子で、もう一人は男の子。顔立ちも何となく似ているので、姉弟なのかもしれない。
風になっていた俺は2人を視界に収めたその瞬間、頭がパニックに陥った。
朝のニュースで仕入れた、不審者には死あるのみ、という驚きの情報が、警鐘を鳴らしたから。
けど思えば、焦る必要なんて塵一つもなかった。あの子達は小学校に向かう途中で、俺は高校に向かう途中。通学中ですれ違っても何もおかしな事などない。
けれど、その時の俺にとって2人は大災害であり、無邪気な悪意だった。
(Uターンして逃げる……っ、いや、それは失礼に値する。まずは自転車を止めて、いや、それだけじゃダメだ。自転車を降りて不審者じゃないアピールを……!)
さながら、大名行列に出くわした百姓の気分。対応を誤れば、爆死。
高速で思考を終えた俺は、それを行動に移す。
「のわっ!?」
だが、極限の焦りはろくな結果を生まない。何を思ったか、俺はUターンをしつつブレーキを掛けながら自転車を降りる、という無茶な動きをしようとして、案の定派手に転んでしまった。
からからから、と横転しながらも健気に車輪を回転させるドナドナファンタスティック。俺はそれよりもさらに投げ出され、ずざざざざ! とマンガみたいな音を立てて地面を滑った。
顔を上げるとそこには、怯えた表情の小学生2人。
「……えぇと。怪我はありませんか? お嬢ちゃんにお坊ちゃん」
俺は努めて上品な声でそんな事を言った。どうして敬語かって? 察しろ。
2人は顔を見合わせた。そして、ほぼ同時にランドセルの中に手を突っ込む。
(くっ、どうする!? どうすればこの状況から俺が不審者じゃないことを証明できる!? もはや土下座するしかないか!!?)
(……いやいや、待て待て。落ち着けよ俺。あのニュースの子供は多分都会の小学生だ。こんな田舎にまでアレが普及してるとは限らない。普通に防犯ブザーを鳴らされるだけで済むんじゃないか?)
脳内で俺その1と俺その2が議論を繰り広げる中、俺は姉弟の動きをぼんやりと見やるしかなかった。
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