AM7:59

 一言で言えば、俺は油断してしまってたんだろう。



 俺の家と高校の距離は比較的近く、自転車を飛ばせば10分足らずで辿り着く。 このぶっ壊れちまったらしい世界。目的地が近いのは、地味に助かる。


 とはいえ、平穏無事に辿り着くことは出来ないだろう。風となってドナドナファンタスティックを駆りながらも、そんな確信が俺の中に芽生えていた。


 そして、あまり嬉しくはないが予想は的中する。

 最初の刺客は、曲がり角を折れた瞬間に俺に襲い掛かって来た。


「おらおらおら! もう一本! 気合い入れてくぞぉぉぉぉぉ!!」

『おぉぉぉぉぉぉ!!!』


 何だ何だ何だ!? 風になっていた俺は、一瞬で現実に引き戻された。


 見やると、俺が進もうとする道を走ってくる大量の人影。その異様に膨れ上がったような装いには見覚えがある。俺の通う高校のアメフト部だ。


 グラウンドに帰れバカ共! なんてツッコミに何の意味もない事は分かってる。問題は、雪崩の如きタックルで襲い掛かってくるそいつらをどうするか、だ。


 今の俺は言わばボールを持っているような状況。ヤツらの追撃から逃れ、ゴールへと辿り着かなければならないわけだ。

 

 へっ、上等だ……!


「うぉぉぉぉぉ!!」


 ヤツらの熱量に負けないよう、俺は叫ぶ。そして、10年以上乗り続けて磨いた俺のドライビングテクニック(もちろん自転車)で華麗にアメフト部のタックルを捌ききった。


「ざまぁ見やがれ! 今の俺はこの程度じゃ」

『はぁぁぁぁぁ!!』


 息つく間もなく、さらに曲がり角を折れた俺の前に新たな集団が現れる。


 アメフト部とは正反対の軽装のユニフォーム。そして、ヤツら全員がサッカーボールを蹴っている。言うまでもなく、サッカー部だ。


 見たところドリブルの練習中のようだが……アレか? 俺は障害物のカラーコーン役か?


 相手はサッカー部と、不規則にバウンドするサッカーボール。直線的だったアメフト部とは違い、フェイントも交えてきやがる。難易度は、こちらが格段に上。


「ははっ、舐めんじゃねぇぞぉぉ!」


 風になった俺に、敵はない。愛車ドナドナファンタスティックも俺の手足のように完璧な動きを披露してくれる。勢いのまま、俺はサッカー部も突破した。


 さぁ、次は何だ?

 野球部のサウザンド千本ノックか?

 弓道部のアローレイン矢の雨か?


 どこからでも、掛かってきやがれ……! 俺は意気揚々と次の角を爆速で曲がる。

 

 けれどやはり、俺は油断してしまってたんだろう。


 「なぁっ!?」


 ついさっき見たばかりの恐ろしいニュースを、完全に忘れ去ってしまっていたんだから。


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