AM7:57

「それでは行ってくるよ」

「ええ、行ってらっしゃい。修二も遅刻しないようにね」

「分かってるよ」


 朝食を食べ終えた俺は手早く学生服に着替え、カバンを持って玄関に。

 丁度父さんも準備を終えたところだったので、折角だからと一緒に家を出ることにした。まぁ、わりとよくある事だ。


「ルシファーさん、母さんを頼んだよ」

『お任せください、旦那様。修二君もお気を付けて』

「あ、はい」


 見送りが一人多いことを除けば、だけど。

 てか修二君って。修二君って! 悪魔の王が俺の名前を君付けって!!


 あっという間に三崎家の執事……いや、家政婦かな。そんなポジションが板についてきた悪魔王が深々と頭を下げる。

 4本の角の先端あたりが禍々しいオーラを帯びている。アレかな、魔力的なヤツかな。それが三崎家の中で放たれる事がないように心から祈ろう。


 俺と父さんは外に出た。降り注ぐ陽気、心地良い風。春爛漫って感じだ。


「どうする、修二。乗ってくか?」


 車に乗り込んだ父さんが言う。俺は少し考え、


「いや、いいよ。歩きたい気分だし」

「そうか。じゃあ気を付けて行けよ」


 景気よくエンジンをふかして飛び出していく車。車好きの父さんは、運転が上手くて、けれど少しだけ荒い。ご近所さんにも家の塀にぶつかりそうで危ない、と何度か注意されたくらいだ。


 けどまぁ、今日は怒られる心配もなさそうだ。なんか知らんけど車は重力の呪縛から解き放たれ、塀にぶつかるどころか地面に触れる事すらなく、文字通り空の彼方へと飛び出していったのだから。

 

 なんか知らんけど。なんか知らんけど、な!


(……乗らなくて、良かったぁぁぁ!)


 高所恐怖症の俺、心の中で絶叫。心の底から、数秒前の俺を褒めてやりたい。

 

 かくして、一歩間違えばお空の旅まっしぐらだった朝のひと時は終わり、俺は安堵のため息を漏らしながら自転車に向かった。




 だけどちょっと待って欲しい。


 がお空の旅よりも平和だなんて、誰も言ってなかったよな?



 

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