もうイヤだこんなの

虹音 ゆいが

プロローグ的独白

 なぁ、ちょっと訊いていいか?


 深夜12時の話だ。そこにあるふかふかのベッドに体を横たえて、電気を消し、目を瞑るとする。するとどうなる?


 うん、まぁそうだな。寝る、よな。

 ちなみに俺は、ソファーで寝落ちする派だ。体痛くなるから、みんなはベッドで寝てくれよな。


 で、だ。寝たら、どうなる?


 うん、そりゃそうだ。朝になって目覚めるのが普通だよな。

 昼まで寝る、ってヤツもいるかもしれんが、俺はそいつを尊敬する。一度でいいから10時間以上ぶっ続けで寝てみたいもんだ。


 でも、だ。


 その朝は、ホントにいつもの朝と同じなのか?


 たま~に考えるんだ。寝る、っていう行動は、人間のみならず大半の生き物にとって必要不可欠だが、あれって結構怖くないか?


 だって、数時間とはいえ意識が無くなるんだぜ? その数時間だけ、世界から取り残されているような気がしないか?


 うん、いや、まぁ、何言ってんだこいつ、って言われても仕方ねぇよな。俺がそっちの立場でも同じ事思うわ。


 けど、どうしても訊きたかったんだ。だってさ――――



「――――修二、どうしたの?」

 

 俺、三崎修二みさきしゅうじの意識は、右耳に飛び込んできたその声に引き戻された。

 その声は、俺の母さんのもの。生まれた時から腐るほど聞いてきた、聞き間違えようもない甲高さ。


「あ、いや、なんでもない」

「そう? ま、いいや。早くご飯食べちゃいなさい。学校、遅れるわよ?」

「ん」


 毎日のように繰り返される、他愛ないやり取り。そのはずだ。そうであって欲しい。

 けど、違う。俺は、意を決して問うた。


「なぁ、母さん」

「何~?」

「何、やってんの?」

「見りゃ分かるでしょ。悪魔召喚よ」


 

 ――――お分かり頂けただろうか。今の俺の置かれている状況が。

 少しでも分かってくれたなら、嬉しい。さっきのはまぁ、ただの現実逃避だ、うん。


 よし、それじゃあちょっとずつ話していこうか。たった数時間寝ただけでぶっ壊れちまった、平穏で退屈だった俺の日常を。




 

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