第10話 会話
夕日が沈んでいく帰り道、
俺は一人トボトボと歩きながらさっきの先輩との会話を振り返る。
真っ先に浮かんだのは先輩の表情だった。先輩は大体、いつ見かけても無表情なことが多い。ましてや笑ってるとこなんて見たことがない。
だけど俺にはその無表情の中にどことなく寂しいというか、世界がつまらないといったような少し憂いを帯びているようにいつも見えるのである。だから、俺はあの人が何を考えて行動してるのかがどうしても気になってしまうのだ。
そんな風に思っている人があれほどまでに感情を露わにした表情を浮かべただけに、
自分の頭の中に強烈な印象が焼き付いていた。
加えてそれ以外に、どうしても引っかかることが一つあった。
それはなぜ俺が石を拾ったと半ば確信して俺のことを呼び出したのかということだ。
神社の利用者数は今日だけでもかなりいるはずだ。少なくとも教員や他学年のお祈り当番、神社管理委員の見回り、それから、定期テスト前の二年生や受験を控えた三年生の学業成就のための参拝等々、結構な人数が利用しているはずだ。
先輩が今日一日で石を拾ったかもしれない該当者全員に拾ったかどうか聞いて回るなんてとても不可能だし、それをするのは愚の骨頂というものだ。
仮に俺に石を拾わせるためだけにわざと、俺と裕美子が早朝、当番で神社に行く前に先回りして石を本殿に置いたとしても、その目的や意図が全く見えてこない。
また、俺が石を確実に拾うっていう確証はどこにもない。
「なんなんだよ、、なんか俺がやらかしたのか?」
考えれば考えるほどわからなかった。
いつもあまり話をしない先輩だからこそ、それだけ一層に謎が深まるばかりだった。
考えに煮詰まっていた時、突然、自分のスマホが鳴った。
「よう、御見神。今日って今からまだ時間あるか?」
出てみると伊藤からだった。
「あるよ、どうした?」
「そうか、じゃあ、あの石の件で話したいことがあるから急いで俺の家に来てくれるか?」
「なんかわかったのか?」
「いいから来い、その時に話す。電話じゃ話せん。」
伊藤は少しだけ語気を強めて俺に言い放った。
「わかった。すぐに行く。」
そう言って俺は電話を切った。
(ったくなんなんだよ、あいつは あんな怒って言うことねぇじゃねぇかよ。
というか伊藤のやつまでなんでそんなイライラしてんだよ。)
伊藤の家は川向こうにあり、そのため、俺の家からも少し距離がある。
なので俺は家路を急ぎ足で帰り、一度荷物を家に置いて、自分の自転車に跨って伊藤の家を目指した。
俺は電話で話した伊藤からちょっといつもと違う雰囲気を感じ取っていた。
だからこそ、伊藤の石の話を聞けばちょっとは神代先輩の考えてもわからなかった意図が何か見えてくるかもしれない、そう思ったのである。
俺は伊藤の家に着くと玄関のチャイムを鳴らした。
「はぁ~い。」
中から駆け寄ってくる足音と伊藤のおばさんの声が聞こえてきた。
「あらぁ、御見神君じゃない。久しぶり。よく来たわね。どうかしたの?」
(伊藤のやつは俺を家まで呼んどいて俺が来ることをおばさんに伝えてないのか。)
「いや少し、部活のことで圭介君と話があって。」
「あらぁ、そう。圭介なら二階にいるからどうぞ上がって上がって。」
「お邪魔します。」
俺は玄関に入ると靴を脱ぎ、着ていたコートをおばさんに預けた。
「外、寒かったでしょう? 」
「はい、少しだけ。」
「そお?風邪には気を付けてね。ところで時子さんはお元気?」
時子とはうちの母親のことだ。
「母は元気ですよ。いつも口うるさいくらいで困ってます。」
俺は笑いながら答えた。
「まぁまぁ、それはよかったわ。最近、会えてなかったからどうしてるのかなぁと思ってたのよねぇ。ご健在でなによりだわ。」
そう言っておばさんも優しそうな笑みを浮かべた。
「圭介! 御見神君が来たわよ!」
おばさんは二階へと続く階段の方に向かって叫んだ。
そうすると、二階から伊藤が顔だけ覗かせた。
「おぉ、御見神来たか、早く上がってこい。」
それだけ言うと、
伊藤の奴は俺を一目見るなり二階の自分の部屋にさっさと入っていった。
「こら!圭介失礼でしょ!降りてらっしゃい!
ごめんね、ウチの子があんなんで。
それでも、いつも仲良くしてくれてありがとうね。」
「いえいえ、自分も仲良くしてもらってるんでお互い様ですよ。」
「あら、そう、お世辞が上手いのね。」
今度は優しくも照れたような笑みをおばさんは浮かべた。
「あとで飲み物とお菓子を持っていくからゆっくりしていってね。」
「いえいえ、お構いなく。」
そう言っておばさんは台所の方へと消えていった。
俺はそれを見送って伊藤の自室のある二階に上がり、部屋の扉を開けた。
「よう、思ったより早かったな。」
部屋に入ると伊藤は自分のベッドに腰掛けていた。
俺は部屋に置いてある小さなテーブルを挟んで伊藤の向かいになるようその場に胡坐をかいて座った。
「なんだよ話って?」
「まぁまぁ、そう焦るなって。というか圭介君とか言うのやめろ。気持ち悪い。」
「しょうがないだろ、
おばさんの前でお前の話するときに”伊藤”って言えないだろ。
てか、そんなことはどうでもいいんだよ。石についてなんかわかったのか?」
「あぁそれなんだがな、お前本当にあの石どこで拾ってきたんだ?」
「は?なんだよ、今日、学校の御中神社で拾ったって言ってるだろ。」
「ホントだな? 嘘ついてないんだな?」
「なんなんだよお前まで、ついてねぇよ!」
俺は伊藤のこの反応に先輩だけじゃなく、なぜか知らんが伊藤まで石に関して、
俺のことを疑いだしてることに少しイラついた。
「ごめんごめん、別にお前のことを疑ってるとかじゃないんだ。
ただ、確認しときたかっただけだ。」
「なんだよ、そうならそうと言えよ。紛らわしい。」
「ただな、御見神、
俺たち、これからちょっと厄介なことに巻き込まれるかもしれんぞ。」
伊藤はいつもと違う真剣な面持ちで話し始めた。
「あの石な、なんの鉱石なのか特定できないんだよ。」
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