第4話 生きるという意味って? 私編3
パトカーとトラックの不思議なツーペア?連行?‥誘導かな‥まぁ呼び方はともかく、先程からセットで交番から約1キロくらい離れた獣医さんを目指し、9時手前位の時間で、目的の獣医さんの前に私達は居た。
誘導という名称の通りに、行きすがらパトカーは誘導灯を点灯させながら、自分達の乗ったトラックを導いたのだが、道中の人の好奇の眼に晒され、内心非常に気まずい心が、ワチャワチャと暴れているのを気づかない振りをしてやり過ごし、おおよそ10分の短い旅を堪能して、【藪わんにゃん病院】なる、ちょっと一回聞いたら忘れない、というか『ヤブ』って病院名?大丈夫なのか?名前付ける時に誰も反対しなかったのか?っていう疑問が湧き出るのを抑えながら、白いおそらく昭和初期くらいに建てられたであろう、札幌時計台を匂わせる様な、至る箇所に蔦が貼り付いている古びた建物の、これまた古びた白い扉の前で、若めの警官改め、若めの凛々しい‥まぁいいか‥おまわりさんが呼び鈴を押して、この建物の主を呼びつけた。
その呼び鈴がチンチンと軽い音を鳴らした後に、脇の看板を見ると、平日10時から14時、16時から19時までの診察と言う文字を見つけ、まだ診療時間ではないことが、今更ながら気付いてしまった。
気付いたものの、悪いと思う気持ちを脇に追いやり、今は非常時、と思ったかはわからないが、若めのおまわりさんが、何故か鍵が開いている扉を開けながら、「ヤブさ〜ん、いらっしゃいませんか〜」という、ちょっと女性と変わらない高い声で、ここの主を呼んだ。
「は〜い♪さっきサトさんから連絡もらったわんこの件かな?」っていう、これまた初老の、少し腰が曲がった小柄な白衣を着た おじさん?おじいちゃま?といった感じの、少し愛嬌のあるここの主の獣医さんが、奥の茶色の扉から現れた。
あとさっきの初老のおまわりさんは"サトさん"ていうんだっていうことを今更ながら記憶に刻み込んだあと、
「少しその子の容態を診たいから、こっちの診察台まで抱えてきてくれる?」
と目的だけ手短に、私達二人に指示して、奥の茶色の扉へと藪さんという獣医は引っ込んだ。
それに合わせて、私と若めのおまわりさんは、靴を玄関口で荒っぽく脱いだ後に、備え付けのスリッパに履き替え、そっと抱きかかえているこの子と一緒に、奥の茶色扉に向かって歩き出した。
茶色の扉を潜ると、想定外に近代的な設備が設置されていることが、ひと目見て分かった‥外の外観と真逆の様相で、シルバーの医療設備と真新しく見える白の診療棚と机が見事にここはデキル場所だぞっていう自己主張が聴こえてくる場所で、おそらくここでかなりの外科手術が行われたんだとすぐに理解が出来た。
先程のヤブ医者‥っと失礼‥藪さんのご命令通り、診察台の上にこの子をそっと置くと、すぐに藪さんがこの子の身体を触診、眼や口の中をルーペで観始め、暫くすると「う〜ん」という唸り声を発した直後、「レントゲン撮影と、少し鎮痛薬を注射しとこうか‥」って、ぼそっ囁いた。
少しお金のことが頭の中で、アラームを鳴らしたが、それを無視して「お願いします!」っと震えながら、藪さんに言うと、チラっと私の作業着を一瞥して、
「名○運輸は給料安いし、ケツの毛むしり取る会社なことは、ここら辺の奴等は皆んな知ってることだよ‥だからサトさんの知り合いってことで、身内価格にするから、あんまりお金のことは心配しないで〜♪」っと、涙が出そうな有り難いお言葉を頂いた。
暫くすると、藪さんはこの子をレントゲン室まで抱えて連れていき、写真を撮影していると思われる、数十分が経過すると、レントゲン写真と思われる、クリアシートの様なシートを抱えて、診察室のお医者さん椅子にドッカと座り、待機している私達に向かって、
「この子、全身打撲傷、あと肋骨が数本やられてるのと、顔の骨はかなり殴られたのか、ヒビが入ってるのと、陥没箇所がある。あと明確なのは栄養失調と、かなりの疲弊と虐待の痕と思われる裂傷が酷くて、すぐに手術が必要だよ?
ちなみに、これ、君がやったんじゃないよね?」
っていう思わぬ疑念がこちらに向いてきた。
「この子、配達途中で道端に、死にそうな状態で転がってたんで、焦って連れてきたんです。もし自分がやったのなら、お金を掛けてまで、こんなとこまでわざわざ来たりしません!」っと少し怒り気味に叫んでしまった。
少し藪さんは、驚いた様に目を見開いた後に、
「うん、ごめんね‥疑ったりして‥
ただ、最近そんな飼い主が多くて、時々可愛そうなわんこを保護してるのよ‥そんなもんだから人間不信になり掛けてるもんで、ちょとカマかけてしまったよ。色々スマンね‥」っていう謝罪をしてきた。
正直あまり良い気持ちにはならないが、まずは命の灯を消さないことが最優先。
そこは流して、
「わかりました。では手術をお願いするとして、いまの謝罪は言葉だけじゃなくて、お金も勉強してくださいね♪」って、ちょとウィンクと、てへぺろって感じでお願いした。
藪さんは少し苦笑いした後、
「まぁ乗りかかった船だ、任せなさいよ♪でも君は配達の途中だよね‥大丈夫なのん?」って今更ながら、心配そうな顔で問いてきた。
正直、配達の事は強制的に脇に追いやってたので、藪さんから改めて心配されて、急に今の危機的状況の現実に引き戻された。
まだ殆ど配達が捌けてない中で、もぅ11時を回ろうとしている現実‥まず、午後の上乗せ配達は無理だと判断して、まずはトラック備え付けの無線にて、ターミナルの配車監督に連絡をすることにした。
すぐにトラックに向かい、第一報で、
「すみません、急に警官の方と同行して、立ち合わなきゃならなくなったので、午前便の配達が殆ど出来てません。
申し訳ないんすが、午後便誰かに廻してくれないっすか?」
って、丁寧?にお願いをした。
その返しが、
「何ふざけた事言ってやがるんだ?舐めてんのか?
うちの会社は少数精鋭なんだ、ぎりぎりの配車で廻してんのわかってんよな?
甘えたこと言ってんとシバクゾワレ!」
と仰られた‥
少数精鋭って何?初めて聞いたぞそれ‥
というか、真っ黒だなほんとこの会社‥
続けて、
「ちゃんと午後便は残しておいてやるから、早く帰ってコイ!」
というセリフ終了後、ガッという無線独特の音と共に、連絡経路がブチ切れた。
まぁ諦めを持って、今日と明日は地獄を見ること、確定ランプが点灯したことを確信して、診察室にトボトボと戻り、悲しそうな眼を、若めのおまわりさんと藪さんに向けた。
「すみません、もぅ行かなきゃいけないんで、手術は立ち会えないですが、先生にお任せしていいですかね‥」
って言うと、藪さんが、
「一応、こっちもプロだから任せなよ。ただ、連絡先だけは教えておくれね?
手術が終わったら連絡するからさ。」
と言ってすぐに、藪さんは手術の準備をし始めた。
すると若めのおまわりさんも、
「そろそろ本官も戻らなきゃいけないんで、後はヤブさんにお任せしちゃいますね」
っていう言葉と、
「あとはがんばってね」
って言葉を最後に、いそいそとパトカーに戻っていった。
少し間を開けて、使わない伝票の裏に、私の携帯の番号を殴り書き、藪さんに、
「連絡お願いします。助けてくださいね!」って言う言葉を最後に、病院の玄関の靴に急いで履き替え、トラックに戻り、地獄の旅路の岐路に私は戻っていった。
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