Ⅳ
「一つききたい」
ネリーという娘に問う。
「なぜ、この女を連れて行こうと考えたんだ。なにか理由でもあるのか」
小娘は少し視線を落として、恥ずかしそうにいった。
「あいつらのところで、いろいろ酷い目にあったんだけど、この人が私を何度も助けてくれたんだ。だから、今度はあたしが助ける番」
やはりそうだったのか。シーネというおとなしい女は、まだまだ若いネリーという娘を哀れに思いいろいろと気を配ったのだろう。それに対する恩義を果たすというのであれば、動機は善。少し考えてから、シーネという女の方へ向き直った。
「こういっているが、お前はどうなんだ。危険であっても、俺と一緒に旅を続けるか」
動機は善でも、相手の気持ちを
決めた。
「よし、いいだろう。お前たちを助けたのも多少の縁。命が惜しくないのであれば、ついて来てもかまわない
」
「やった! これを渡すから路銀にしてよ」
「お前たちを連れていくのであれば、フゲンのオッサンに金を渡す必要はないだろう。取り返してくるから、そこで待ってろ。あいつはどこの宿屋にいるんだ」
「そんなこといって、自分だけ逃げるんじゃないでしょうね」
ネリーに背嚢、シーネに棒を渡すことで、逃げる考えがないことを示すと宿屋へ向かった。
フゲン・ゴドリエルには会えなかったが、付き人のような男はすぐに金の入った巾着を渡してくれた。女二人がいなくなったことは把握しているのだろう。
巾着には、金貨一枚、正銀貨が十枚以上はある。こんなことなら槍を売らなくてもよかったような気もするが、
二人のところに戻ると、再び武具屋へ。二人にそれぞれ短剣を選ばせると、店の主人に頼んで棒術の練習用に使えそうな長さの短槍用の柄を用意してもらった。長旅になるかもしれない。杖にもなり、武器にもなる棒は役に立つはずだ。
しっかりした靴、そこそこの大きさの背嚢。寝床にもなる外套。そして水筒。食料と細々とした物を買いそろえると、最後に弓を売っている店に立ち寄る。
「あんた、槍だけじゃなくて弓も使うの?」
「大した腕前ではないが、弓くらいは使える。一人ならいいが、三人で旅をするなら食料が不足するかもしれない。弓は狩りをするためのものだ」
納得したのかどうかはわからないが、ネリーはそれ以上質問をしてこなかった。
新たな旅立ちに足取りは軽く、整備された街道は歩きやすい。旅の一日目は何事もなくすぎるはずだったが、そうはいかなかったようだ。
昼を過ぎたあたりから、シーネが遅れはじめ、やがて全く歩けなくなってしまった。右足を引きずっているのに気がついたときには、もう手遅れ。仕方なく道を外れて休憩することにして、靴を脱がす。ひどい靴擦れで足の皮がめくれている。これは痛そうだ。
水筒の水で洗い流し、できるだけ清潔な布で靴擦れを覆う。
「なぜ黙っていた。無理だったら無理といえばいい。もっと早く処置すれば、これほどひどくならなかったかもしれない。我慢することは結局、仲間に迷惑をかけることになるんだ。俺たちは仲間だ。泣き言もいえないような関係は仲間とはいえない」
シクシクと泣くシーネを庇うように、ネリーが割り込んでくる。
「シーネ姉さんをいじめないで!」
「別にいじめているわけじゃない。旅の心得を教えているだけだ」
この二人は、どういう間柄なのか。姉さんというの呼び方は姉のように慕っているということか。
「まあいい。少し休んでから出発する。野営するにしても、このあたりには水場がないから別の場所に移動するぞ」
「こんな足なんだから、絶対に歩けないよ。ここで休むか町に戻るべき」
ネリーがいう、町に戻るという選択肢はない。旅慣れるためにも、失敗を経験に変える必要がある。口を開こうとしたとき、シーネが突然口を開いた。
「ごめんなさい。私が靴擦れのことをいえばよかったんです。私の事なんて置いていってください」
そういうと、さめざめと涙を流した。
これじゃあ俺が悪者だ。別に置いていくつもりなんて無い。
「仲間を置いていくなんてできるかよ。それこそ信義にもとる。心配するな。野営によさそうな場所まで、おれがおぶってやる」
「もういいんです。置いていってください!」
なんでこんな面倒くさいことになっているのか。まだ初日だぞ。シーネの左腕を右手で掴むと強引に引っ張り、そのまま肩に乗せる。
「このまま肩に担いで、次の町まで走って行くこともできる。
旅の初日から、思わず怒鳴ってしまうことになった。先が思いやられる。
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