しばらく待ったが、ましらは戻ってこなかった。

 相手を知ることは、戦いの鉄則。槍で死んだ猿を仰向けにして観察する。

 長い腕は、膝の下まで届きそう。木の上で暮らし、地上を歩くことは少ないのではないか。指は長いが、親指に相当する部分が短い。樹上で生活する動物が、精妙な道具を使いこなすことは少ないはず。

 つぎに、地面に突き立った手矢てやを拾い上げる。

 とがった石のやじり。石と石とを打ちつけて作った簡単なものだ。石と石とをりあげるような手間はかけず、重くて尖っていればいいという道具。木の上で生活する動物にとって、石器をたくさんつくるということはあまりないはず。ならば、誰かがこの猿たちに道具を与えたか、作り方を教えたに違いない。父ちゃんが、一つ目たちに武術を教えたように。

 一つ目たちが町を襲うようになったのが半年前。猿に襲われて芋や狩りのために森へ入ることができなくなり、町を攻撃したのではないだろうか。では、なぜ猿は森へ入る一つ目を攻撃するようになったのか。猿たちを追いやるような、凶暴な生物がいるのか。あるいは、森の奥へ入られるのが嫌で、自分たちを守るために猿に道具の使い方を教えたというのはどうだろう――ありるかもしれない。

 その後は、一つ目巨人が籠一杯に芋を掘るまで待ち、森を後にした。


 石の鏃を使った手矢の威力はそれほど高いものではない。頑丈な傘というか、盾を用意すれば防ぐことができそうだ。だが、一つ目たちは鉄の道具を使わない。その怪力をいかし、石の斧で木を切ることはできるが、板にする道具がない。そういえば、家々は丸木造りだった。仕方ないので、それほど大きくなっていない丸太を並べ、いかだのようなものを作ることを考える。幸い、つたで編んだ縄はある。

 あの高さからの手矢に耐えるには、二の腕くらいの太さの丸木が必要だ。日が暮れる前に四本ほどの若木を探し出し、巨人を呼んで切り倒してもらう。枝を払い、縄で結んで幅の狭い筏のできあがり。幅は足りないが、これ以上のものになると俺の手に余る。横にまわり、筏を立ててから、気合いとともに頭の上へ持ち上げた。

 かなり重い。だが、最低でもこの倍の幅がないと防具としての意味はない。一つ目巨人に、どう使うかを見せてから筏を地面に放り投げる。今度はお前がやってみろ、そう身振り手振りで伝えると、予想通り軽々と丸太の束を持ち上げた。

 すかさず払った枝を拾い上げ、筏の上にばら撒くと、一つ目の瞳に理解の色が見える。右手を大きく開きき、あと四本丸太が必要なことを教えようとしたとき、家から私たちを呼ぶ声がきこえた。夕餉はなんだろう。あれだけ芋を掘ったんだから、芋だけはたらふく食えるはずだ。


 翌朝、残りの四本を揃えて、手矢避けの筏は完成した。持ち歩くことは不可能なので、引っぱる為の縄と、下から持ち上げる時に握る縄を付け加えた。もう少し軽いものができれば良かったが、現状では不可能だと納得しておく。朝飯の時に包んでおいた芋を背嚢に入れると出発だ。一つ目巨人が一緒に行こうとするが、俺は手で制して一人で出かけることにした。手矢避けの筏は重いが、引きずることはできる。巨人の剛力は心強いが、足手まといになる可能性を考えたのだ。鬼が出るか蛇が出るか。出たとこ勝負といこう。


 昼を過ぎた頃、ましらの襲撃を受けた。

 すぐに筏を近くの木に斜めに立てかけ、その陰に隠れる。石のやじりが筏を打つが、丸太を突き抜けるほどの威力はない。手矢の雨が止むのを見計らい、隠し《ポケット》からつぶてを取り出して間抜けな猿に一撃を加える。間違いなく礫が当たったはずだが、木から落ちてはこなかった。当たり所か。

 もう一度、礫を飛ばす。今度は成功。

 ギャンとわめいた猿は、木から手を離して地面に落下した。

 手矢の攻撃はすっかり止まっている。猿たちが無限に矢を持っているわけはない。昨日の手矢も、ここに来る途中に見れば回収されていた。おそらく猿は、自分で手矢をつくることができないのだろう。使い方を教わり、侵入者を攻撃する。その代償がなんなのかはわからないが、あるだけの手矢を全て使うとは、猿知恵もいいところだ。

 再び礫を投げると、今度は別の猿が地面と激突する。

 武器もなく、仲間も殺された。猿たちは姿を消した。

 もし手矢を作れないなら、ここで破壊しておく必要があるだろう。地面に落ちている、突き刺さっている手矢を片っ端からへし折り、手頃な石で鏃を叩き砕いた。これで回収はできないだろう。

 水筒の水で喉を潤し、再び森の奥に進む。道なき道は腐葉土で柔らかく、筏を引くのにも、それほど苦労はしなかった。

 この猿には村のようなものがあるのか。それとも完全な樹上生活なのか。猿が逃げた方向に向かう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る