第703話 合作

「おうい、マーガレットや」

サイア爺が呼びかけると、いそいそと効果音がつきそうな様子でやってきたのに、オレを視界に入れるやいなや慌てて眉間にシワを寄せる。

「爺様! ……なに? 私に用事?」

「おうおう、そうとも。ここへおいで、ぬしにお願いがあるのじゃ」

言われるままにちょこんとサイア爺の隣に腰かけ、マーガレットはきらきらと瞳を輝かせて見上げた。

なんだか、本当にラピスと似ている気がしてくすっと笑う。

だけどいいのかな、こんな嬉しげなマーガレットにオレの頼み事をしちゃって。

その結果が目に見えるようで、ちょっぴり苦笑した。


「ーーへ? はぁ?! 絵を?! どうして私が?!」

うん、そうなるよね。

キッ! と睨み付ける眼差しに肩をすくめてサイア爺に視線を送る。いやあ、マーガレットに頼むのは無理があると思うよ。

「これ、そう邪険に言うものでない。ぬし、以前描いておったであろう」

「あ、あれは! 爺様やめてよ! あんな、大昔の話!!」

大昔って一体どのくらい前の話になるんだか。それにしてもマーガレットの描く絵だなんて、気になってしまう。


サイア爺は、懐かしむように遠くを見つめて儚い笑みを浮かべた。

「ぬしの描く絵が、儂は好きじゃったがの……。それが、全部のうなってしもうて……」

愛おしむのは、もう戻らない過去。年長者を彩る喪失の笑みは、胸がぎゅっとなるほどに切ない色をしていた。

だから、きっとこれはサイア爺のほんとの気持ち。もしかしてオレのお願いすら利用した、サイア爺のお願いごと。


「そんな、だって……あれは私が覚えるために描いただけだったし。上手じゃないし」

途端に狼狽えたマーガレットが、小さな声でもそもそと言い訳をしている。

――だったら、また描いてあげればいいの! ユータにあげる絵で練習すればいいの!

ラピス、ナイスアシストだ。だけど、できれば本番の方をオレに渡して欲しかった。

「おう、げにありがたきことよ。ぬしは中々描いてはくれぬじゃろう? なら、この機会に描いておくれ。儂は、いとけないあの絵が好きでの。楽しみにしておるよ」

ふぉふぉ、と笑われてしまえば、マーガレットはもうむっつり唇をひん曲げるしかない。

さすがはサイア爺だ。……ところで、いとけない絵って褒め言葉だろうか。


「じゃあさ、マーガレットも一緒に考えよう! いろんな舞をくっつけてそれなりにしようと思うんだ!」

「なんで私がこんなことを……だが描かねばならないなら複雑では困る……」

小さな声でブツブツ言いながらも、手伝ってくれそうな様子ににっこり笑う。

マーガレットだって舞を知っている人物だもの。これはいい人選だったんじゃないだろうか。


「そもそも、なぜ絵が必要なんだ。詠唱だけでいいだろうに」

「だって、魔法ってどのくらいしっかりイメージできるか、とか思い込めるか、で変わってくるでしょう?」 

それは信仰にも似ているかもしれない。純粋な信仰は、実際にシャラを救ったのだから。

あの時なぜ、街の人に信仰が戻ったのか。

そう、だってイメージどころか、目に見えたから。存在を感じたから。

できれば、メイメイ様のドラゴンブレスをみんなにも見てもらえればいいのだけど……中々難しい。

せめて、舞の動きと共に完成した魔法のイメージがなくては始まらない。


「それと、大魔法はみんなをひとつにする必要があるから!」

心を揃えて、魔力を揃えて、大きなひとつの魔力へ。

そのための詠唱。声を揃えることで一つになろうとするなら、さらに動きを揃えた方がいい。

以前、街中でやった盆踊りみたいに。

没頭感と、高揚感。それはきっと、魔力を高めて磨き上げてくれる。

だから、さあ! オレは満面の笑みで紙を差し出したのだった。



「ーーなんか、その、とても味のある絵だね」

「うるさい! だから言ったろう、上手くはないと!」

ギンと鋭く睨みつけられ、慌てて首を振る。

「そ、そんなことないよ! 写実派じゃないだけで、とても上手だよ! そっくりそのままに描くだけが『上手』じゃあないんだから!」

「私はそっくりそのままに描こうとしているが?」

あーまあ、それが一種の才能ってことだから。

うん、サイア爺の言っていたことがなんとなく分かる。いとけない、ね……なるほど。


絵本の挿絵のよう、と言えばいいんだろうか。それとも古代の壁画のよう、だろうか。

うん、古から伝わる書物という触れ込みにするなら、これほど相応しいものはないね!

「うむうむ、腕を上げたの。以前の絵が懐かしいが、これはこれでよい」

今にもペンを放り出しそうなマーガレットだったけれど、サイア爺の嬉しそうな顔を前に、そういうわけにもいかない。


「お前は早く続きを考えろ!」

「うう、そうなんだけど……」

八つ当たり気味に言い放たれ、つい目を逸らした。

舞いからピックアップするだけで事足りると思っていたけど、いざやってみると難しい。

「だから、こうしてこうでーーあれ? 繋がらない」

実際身体を動かしてみると不自然になっているのが丸わかりだ。

「それぞれの舞いの、流れに沿って選ぶとよいよ」

「流れに沿って? そっか!」

サイア爺がにこにこ嬉しげにアドバイスをくれる。

なんだか……楽しいかもしれない。

夏休みの宿題をみんなでやってるような。

文化祭の準備をしているような。

面倒だったり、決して楽しいだけのものではなかったりするけれど……だけど、悪くない。

助言をもらって格段にペースアップできた作業は、きっと今日中に骨組みが出来上がるだろう。


「よーし! もう少し頑張ったら、おやつにしようよ!」

「!!」

「ほう、それは楽しみじゃ」

勢いよくこちらを向いた瞳が嬉しくて、にっこり笑う。

いろんな人の手を借りて、少しずつ。みんなでカケラを寄せ集めてひとつに。

そして、クラスのみんなで結果を披露するんだ。

これは頑張らないといけない。

オレはにまりと笑った。

練習あるのみ、みんな、以前のオレのように一発勝負に向けてせいぜい……じゃなかった、精一杯頑張ってほしい。


オレはひとり難を逃れる気満々で、ホクホク顔を浮かべるのだった。



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小さい文字の見えなくなった目で、今日は全部スマホで打ってるので文章変だったらすみません! 誤字脱字の嵐かも…

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