第699話 パーティ厳戒態勢
「まだ作んのかよ?! いくらなんでも多いだろが!」
怒鳴るジフに負けじと怒鳴り返す。
「まだ作るの! 相手はカロルス様たちだよ?! そしてこれはカレーだよ?!」
そんなの、もうカレーが霞のように消えて無くなるのが目に見えている。
いいじゃない、残ったら全部オレが収納に入れておくから。アレンジ料理だって色々楽しみたいし、しばらく三食カレーで問題ない。
「何なんだよ、カレーって……他の料理と何が違うっつうんだ」
何ってそりゃあ、ソウルフードだよ、オレの!! まったく、早くジフもカレーの魅力に取り憑かれてしまえばいいのに。
トンカツ、牛カツ、チキンカツ、フィッシュカツ……せっせと揚げ物の山を築きながら、次は何を揚げようかと考える。よし、分かった。収納にあるお肉の種類一通り揚げてしまえ! どうせ残ってもカロルス様が食べるでしょう! 野菜の素揚げも用意して、夏野菜カレー風もいいね。
「ねえ、カレーは今何種類?」
「ポルク、ブル、チキリ、魚介だ!」
4種類か……ポルクとブルは薄切り肉バージョンとごろごろ肉バージョンが必要だよね。それで6種類。ポルクとブルのゴロゴロ肉に人気が集中するのが目に見えるので、それらを大目に。大鍋にいくつあれば足りるだろうか。
「村中を呼ぶのかよお前は!」
ドガガガと派手な音で次のカレー具材を刻みつつ、またジフが怒鳴る。
オレはスッと真顔になって告げた。
「今日はダメ。今日はオレたちだけのカレーなの。それはまたの機会ね!」
「またやるのかよ……」
だって、こんなに素晴らしいものを広めないなんて、罪じゃないだろうか。村の人だって食べたいに違いない。問題は、スパイスの入手が難しいこと。魔族の国と繋がりのある住人(?)はアッゼさんくらいだもの。まだ外交を行うには関係が薄すぎる。いつか、ヴァンパイアたちみたいにやりとりができるようになれば――
オレは、ハッと顔を上げた。
これ、もしかしてヴァンパイアたちなら仕入れられるんじゃ?! オレののんびり屋さんの脳みそが、常にないスピードで回転する。
「ジフ、これは単なるオレの道楽じゃあないんだよ? カレーをみんなが大好きになるのは自明の理。だけどスパイスが少ない。となれば、ここで転移のできるヴァンパイアたちの出番。ヴァンパイアと魔族、そしてオレたち。みんながカレーを通じて外交を重ねる……カレーは世界を救うんだよ?!」
ぐっと拳を握って力説してみせれば、ハンと鼻で笑われた。
「スパイス欲しさに争いにならなけりゃあいいがな」
ピシリ、と固まった。
まさか、そんな……でも、過去の事例で言うと……。
「ジフ……カレーは、ロクサレンの秘伝中の秘伝にする……」
しゅんと項垂れるオレの口に、チキリのトマトカレーが突っ込まれた。
「あっっち! あつっ! おいしい……」
「カレーだけのことでそんな事態にはならねえよ、スパイスは他にも色々あんだろが。それに、そんなことになったら……」
「な、なったら?」
にやぁ、と笑った悪人面は、どう見ても悪巧みの顔。
「……このロクサレンを、敵に回すってことだ」
ぱあっとオレの顔が明るくなるのが分かる。
そっか、そうだよ。Aランクの巣窟であるロクサレンを敵に回すなんて、そんな真似はしないだろう。
『ロクサレンもそうだけど、あなたを敵に回すととんでもないわ』
『全てが灰燼に帰す』
うんうんと頷き合うモモと蘇芳。
そんなこと……そんなことは……まず100%あり得る。
ちらりと視線をやると、興味津々で鍋をのぞいていた白いふわふわが嬉しげにきゅっと鳴いた。
うん、どうか世界を守るために、絶対にロクサレンを敵に回すようなことはしないでほしい。
やっぱりカレーは、みんなでおいしく食べるものなんだから!
オレはトッピング用の卵を割りながら、にっこりと微笑んだ。
「――まだか? まだできねえのか?」
もう何度目だろう。腹を押さえたカロルス様が、また催促に来ている。
「もう、出来たら持っていくんだから大人しく待っていてよ! お仕事終わってないんでしょう?」
ぐいっと大きな身体を押し出すと、恨めしそうな顔で振り返った。
「そんなこと言うけどよぉ、地獄だぞ、この香りの中で……」
ああ、オレはもう鼻が慣れちゃってわからないけど、今館の中はかぐわしいカレーの香りで満ちているんだろう。
「そう? じゃあシールド張って消臭するけど」
「やめろ! 俺から香りまで奪うんじゃない!」
じゃあどうしろっていうの。とりあえず目を離すと一鍋くらい持って行かれそうだから、厨房に入れないよう入り口にチャトを配置しておいた。
シロは、現在タクトとラキを迎えに行っている。そう、心配しなくてももうすぐだからね!
「そろそろ並べるか?」
カロルス様がすごすご戻っていったのを確認して、ジフが声をかけた。トッピング具材とサラダ、食器類はそろそろスタンバイすべきかもしれない。
「マリーさーん」
「はーーい!!」
はといの間で随分距離が変わった気がするけど、瞬く間に目の前に滑り込んできたマリーさん、さすがだ。
「あのね、そろそろ食卓の準備をするから……」
「了解致しました! メイド一同、厳戒態勢で参ります!!」
華奢な拳と手の平が打ち合わされ、ぱぁんと空気が弾けるような音がする。それ、一体何の音なの? とりあえず、食糧を運び込んでもメイド防御網があればなんとかなるだろう。多分執事さんもいるだろうし。
ウォウッ、と聞こえた声に慌てて外へ飛び出せば、案の定シロが帰ってきていた。
『ただいま! すっごくいい匂いがしてきて、急いじゃった。まだ食べてないよね?!』
ぴょんぴょんと跳ね回るシロが、全身で『楽しみ!』と表現している。
「ふふ、まだこれからだよ! 2人も来たことだし、そろそろだね!」
「な、なあ。ちょっとその前に、回復を少々……」
小脇にラキを抱えたタクトが、青い顔をしている。
シールドなしの「超特急」だからなあ……生身の人間には中々辛かっただろう。タクトは単に酔ってるだけだけど。
「――なんで! 俺だけ部屋の外なんだよ?!」
「それは、喜ぶべきでは? きちんと実力を加味してのことですから」
「嬉しくねえよ?!」
何やってるんだろう、大の大人が。
ぬるい視線で眺めていると、気付いた執事さんが穏やかな微笑みを浮かべた。さっきまでの氷のような鋭さとは大違いだ。
「おや、皆さん揃われたようですね。では、始めますか?」
「うん! シロ、ジフを呼んで来て!」
ウォウッとご機嫌に出ていったシロは、きっと鍋を満載したキッチンカートを引いてくるだろう。
さあ、カレーパーティの始まりだよ!
「これが、カレーの匂い~? 不思議な香りだね~初めてだよ~」
「すげえ腹減ってくるな! どんな食いもんなんだ?!」
両隣で2人がそわそわしている。やっと部屋に入れてもらえたカロルス様も、向かいで同じようにそわそわしている。
「もう、お腹すいて仕方無かったよ、昼すぎからずーっとこの香りだよ?」
「本当にね、スパイシーで食欲が刺激されちゃうわ」
みんなが見守る中、開いた扉から意気揚々とシロが入って来た。続くカートにはこれでもかと乗った巨大なカレー鍋の数々。さらにジフが押してきたカートには、ごはん、麦、パン。特にごはんはこれでもかと炊いてある。毎日必要なんだから、残りは収納に入れておけばいいんだよ!
「スープ? カレーってスープなのか?」
ほんのりガッカリ感の漂うカロルス様は、さっそく揚げ物の方に視線が行きだした。
「違うよ! よぉーく見ていて!!」
おもむろに立ち上がって、しずしずと皿を捧げ持ってごはんゾーンへ。ほどよくごはんを盛り、一瞬躊躇してブルのごろごろ肉カレーに決める。
とろり……。真っ白だったお皿に褐色のきらめきが宿る。お玉から転がり落ちる、大きなお肉の存在感も抜群だ。
ごくり、と誰かの喉が――むしろオレを含む全員の喉が鳴った。
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コラボについて、明日までには近況ノートに書くのでまたご覧下さい!
私の廃れたHPに詳細載せたページを作ってます!探せる方はそちらどうぞ!「ひつじのはね 羊毛フェルト」で検索したら出てくる「初めての羊毛フェルト~」ってやつです。
まあ~古いので若かりし頃のHP見られるのは割と恥ずかしい。薄笑いで通り過ぎてもらえると嬉しいです
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