第678話 ガウロ幼少部隊

「「ただいま!」」

「おかえり~。早かったね~」

ほくほく顔で帰ってくると、お店の周囲はわらわらと動き回るちびっ子たちで、どこかメルヘンな雰囲気が漂っていた。

「おーすげえ、結構キレイになってるんじゃねえ?」

タクトの声に、はにかんだ表情が隠せない様子がかわいい。

今回ミーナは『インドア系お仕事得意派』を引き連れてやってきたらしく、さすがの手際、さすがのガウロ様幼少部隊だ。

巧みな叱咤激励で、店主もぶつくさ言いながら子どもたちの届かない範囲を頑張っている。


「ココ博士も大活躍だったし、ガウロ様部隊はみんな凄いね!」

手放しに褒めたのに、ココ博士は微妙な表情だ。

「ありがとうございます……? その、それよりそっちの方が気になりません……?」

ちらちらと視線を寄越す先では、路肩に転がされた数人が縄をかけられていた。

「縄をかけるのが得意な子もいるの? オレたちじゃ、こんな綺麗にはできないよ!」

どうせ起きてももう一度たたきのめせる自信もあって、オレたちが悪者に縄を掛ける時はかなり適当だ。ブロック肉と同じようにするしかない。

「そこじゃないんですよね」

いつの間にか表情を消したココ博士が、ちょっと怖い。


『それ、ただのゴロツキよ。……多分。子どもたちに難癖つけようとしていたみたいね。みなまで聞く前にラキがぶっ飛ばしたから、詳細は分からないわ』

まふっとオレの胸に飛び込んで来たモモを受け止め、改めてガラの悪そうな人たちに視線をやった。

あー、作業の邪魔したんだね。ラキの手を止めようだなんて命知らずな……。

『ちなみに、縄師はミーナね』

え、ミーナだったの……なんで得意なの? ミーナって確か魔法使いだよね。さらにメイド業務全般をこなして縄までうてるなんて、なんて……すごく、ロクサレン風味が漂ってしまう。いや、そもそもガウロ様部隊が似たようなものだろうか。


「うん、素材はばっちり~! じゃあ、タクト扉外して~」

ココ博士とティアの見立てのおかげで満足のいく質だったらしく、ラキはいそいそと素材を抱えてテーブルに広げた。

そして、当たり前のように言われて当たり前のように扉を外すタクト。

「よっ! 外したけど、これどうすんの?」

「イメージを変えたいから、扉ごと交換するよ~。それはいらないけど、頑丈だし屋外のテーブルにでも使う~?」

軽々抱えるタクトに、子どもたちが作業の手を止め羨望の眼差しを寄せている。見るからに重く分厚い扉も、タクトが持つと発泡スチロールのようだ。

「じゃあ、オレ綺麗にするね!」

なんとなく悔しくて駆け寄ると、さっそく洗浄魔法を発動。あえて水とマイクロバブルを使って派手に! なんならライトを使って光の演出までしちゃう。


ほら、乾燥まですませれば、ベタついた古い扉がワンランク色を明るくしたように見えるでしょう。

「よし、出来上がり!」

「おおーっ!」

どっとギャラリーが沸き、違和感に振り返って驚いた。

「いつの間に……?」

気付けば店を囲むように見物客が登場している。何ならそこらで飲み食いしながら作業を眺めている人まで。

大道芸か何かだと思ってないよね?!

「なんか、そこのゴロツキ騒ぎのあたりから集まり出しちゃったのよね。ユータたちが帰ってきてからは動きが派手だから、あっという間に」

ミーナが肩をすくめて周囲を見回した。

再びのどよめきに視線をやれば、タクトの力業で切り出した木材があっという間に加工され、新たな店の扉が出来上がったところだ。


我慢できなくなったガウロ様幼少部隊は、既に作業を放り出して店の前に集合している。

「一気にいくよ~!」

わあ、オレも見たい! 慌てて駆け寄ったものの、みんなオレより背が高いじゃない! 見えないよ!

こういう時こそ召喚獣の出番!

「シロ、乗せて!」

『いいよ!』

心得たシロがオレを背中に乗せて立ち上がる。逞しい背中にぎゅうっとしがみついて前を覗き込めば、ほら、特等席で見物できる。

「俺は踏み台かよ……」

じろりと睨み上げられ、そ知らぬ顔でそっぽを向いた。だって、ちょうどいいんだもの。

シロの前肢は、しっかりとタクトの両肩にかかっている。傍から見ればタクトがシロをおんぶして、シロがオレをおんぶしているように見えるかもしれない。


小さな声で紡がれる詠唱と共に、オレの目にはじわじわとラキの魔力が広がっていくのが見える。

さすがだ、この繊細なコントロール。どん、と力業で広げるオレとは全然違う光景がそこにある。

まるで金箔のように、限界まで薄く、薄く、途切れなく。

オレの万分の一の力で、同じ結果をもたらせることを。

「綺麗……」

「え、まだ何もしてねえだろ?」

漏れた言葉に、タクトが不思議そうな顔をする。

詠唱が終わった、と気付いた瞬間、さあっと色が広がった。神様の一塗り、ついそんな言葉が浮かぶ。

わあっと歓声があがった。

「すげえ! 一気に黒くなるんだな!」

興奮したタクトが前へ移動するもんだから、シロもヨチヨチと引っぱられていく。


店内は様変わりしていた。不思議なニュアンスを持つ黒に彩られ、それだけで格式高く気圧されるような雰囲気が漂っている。

これ、やりすぎって言うんじゃないだろうか……。

「出たね、炎様紋」

うっとり目を細め、汗を拭ったラキが愛おしげに壁を撫で回している。

「炎様紋ってこの模様? あの、これでいいの? すっごく高級店みたいだけど……」

「そう、これとこれ、あとこっちを組み合わせた時、上手くいけば稀に出るんだよ~! 本当はこの2つですませるつもりだったんだけど、ユータたちが採ってきた素材の質が良かったから、つい~」

つい、やり過ぎたんだね。欠片も後悔のなさそうな爽やかな笑みが眩しい。


「お、俺の店がやべえ……俺が居づれえ……」

思い切り気圧されているのは店主さん。確かに、このままじゃあ店主さんが不釣り合いなことこの上ない。

「ふふっ! 心配いらないわ、当然そこも考慮ずみよっ! さあ出番よ!!」

「「はいっ!」」

元気に飛び出してきたのは2人の女の子。10才そこそこだと思うけれど、そのぎらつく瞳の強さ、どこかで見たような……。

「採寸、いきますっ!」

「カット、いきますっ!」

「はぁ?! なんだァ?! おい、纏わり付くんじゃねェ!」

戸惑った店主さんがいくら凄んでみせても、何せ悪の親玉みたいなガウロ様を日常的に視界に入れている子どもたちだ、気に留めるはずもない。


あれよあれよと言う間に方々を計測、さらには踏み台を用いてヘアカットが始まった。目まぐるしく位置を入れ替えながら、まるでショーのように2人が動き回る。こうなると、店主さんも下手に動けない。

「シュランさん、目つむって下さい!」

「シュランさん、両手広げてください!」

「いや、シュランは店の名前……」

完全に2人のペースに圧倒されて、大人しくあっちを向きこっちを挙げ、見る間に足下には髪が散っていく。ちなみに、シュランさんは立ったままだ。

ああ、よく分かる、その目に光がなくなっていく気持ち。

そうだ、この2人の瞳の強さ、マリーさんやエリーシャ様と同じなんだ。オレやセデス兄さんの着せ替えするときの、アレ。


「えーと、オレはじゃあお昼ご飯でも作ってるよ……」

なんとなくオレまで疲れた気分でキッチンセットを取り出すと、ラキが傍らに座り込んだ。

「僕、さすがに疲れたよ~休憩~」

「よしっ! 昼飯までにもっと腹減らすぞ! あと片付けるもんあるか? 力仕事なら俺に言え!」

オレが料理を始めるのを見て取って、元気の有り余っているタクトはいそいそと力を消費しに行った。

さあ、何を作ろう。手早く、たくさん作れるものじゃなきゃね!

……と、思っていたのに、店から顔を覗かせたタクトが、満面の笑みを向けた。

「ユータ! 唐揚げ!! あ、俺先に鳥解体しておくぜ! ココ博士、解体だ!」

「えっ? あ、はいっ!」

タクトの雑だけど滅茶苦茶早い解体作業を目にして、またココ博士が無表情にならなかったらいいんだけど。

大きな鳥を仕留めた時から、きっとタクトのお口は唐揚げ向けになってしまったんだろう。

まあいいか、きっとみんな好きだろうし。

「よーし、じゃあたくさん作るから誰か手伝ってくれる?」

にっこり微笑んだオレは、ヨダレを垂らさんばかりの子たちに一斉に詰め寄られ、目を白黒させる羽目になったのだった。




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好きラノ投票ありがとうございました!

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頭の回らない感じも大分改善して、普通に執筆できるようになってきました!実はこのままだと書けなくなるかも、と怖かったんです。

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