第581話 全部関わってる

待機部屋にぽつんと取り残されてしばらく。

これならオレ、カロルス様たちについていっても良かったのにと思ったところで、ぽんっとネリスが現われた。

「きゅっきゅう!!」

受け止めた手の平の上で、きりっとしっぽを上げて報告してくれる。どうやらお呼びがかかったみたい。

「ネリス、ありがとう! 任務ご苦労さま」

緊張感たっぷりに立ち上がっていた耳からわずかに力が抜ける。お礼を込めてたっぷりと撫でれば、ほんのりとはにかんだ様子が伝わってきた。


――ユータ、呼ばれてるの! 早く行くの!

きゅうきゅう言うラピスのヤキモチもかわいい。

ラピスにもお礼を言って、さっそくあの魔道具を起動させた。

「お邪魔しまーす……」

おっかなびっくり転移してきたアッゼさんが、オレしかいないのを見て安堵半分、不安半分な顔をした。

「あ、あれ? 俺ってやっぱり来ちゃいけないとか言われた感じ?」

「ううん、ここはもうお城だよ! ちょっと色々あってオレだけここで待ってたの。一緒につれて行って!」


魔道具を手渡すと、何かやり取りをしたらしい。少々の緊張が漂う様は、さっきのネリスみたいだ。

「はぁ、行きたくねえけど行くか!」

「うん! 怖かったら、オレを抱っこするといいよ」

両手を差し伸べると、アッゼさんは素直にオレを抱き上げて笑った。

「ぬいぐるみ代わりってか? おーおー、あったかくて落ち着くかもな」

違うけど、それでもいいよ! だってオレを抱えていたら、下手に攻撃はされないでしょう? このぬいぐるみは、ちゃんとアッゼさんの身を守るお守りになれるんだからね。


しっかり首に腕をまわして身を寄せると、ふっと笑う気配がした。

「ばぁか、このアッゼさんがガキを盾にするわけねえだろ」

耳元でそんな台詞が吹き込まれ、着いたら離れてろ、と笑った。

……バレてたらしい。

オレは負けじと紫の瞳を見上げた。

「そういう時は、『守ってね』って素直に微笑むといいんだよ!」

「え? その手ほどきおかしくねえ?! 俺が姫なの?!」

オレが騎士なんだから、アッゼさんが姫なの! 何もおかしくはない。

「ほら、呼ばれてるみたいだから早く行こ!」

ぺんぺんと叩いて促すと、アッゼさんは納得いかない面持ちで転移したのだった。



「――むう。偶然、か? その割にお前のところのチビが全部関わってるんだが……」

ガウロ様がちらりとオレを見た。

「まあそうなんだが、この件以外にもこいつは関わってるぞ? 色々首突っ込みすぎなんだよ」

「あー、それもそうだ。精霊様の件だって、ヴァンパイアの件だってこいつだもんな。洞窟の落盤もそうだっけか」

大人たちの視線が揃って注がれ、ちょっとむくれた。オレだって好きで巻き込まれたわけじゃないんだから。

「そんなことどうでもいいの、ユータちゃんが無事であったことが何よりなのよ!」

素早くアッゼさんの固い腕から柔らかな腕の中へ移され、ひんやりさらさらしたほっぺが押しつけられた。それはそれで……どうでも良くはないかな。


ちなみに、緊張していたアッゼさんは拍子抜けの反動で、妙に疲れた顔をしている。

何せ軍の偉い人、しかもAランクと聞いていただけに……

『おう、わざわざすまんな』と片手を挙げて済まされた挨拶で、つんのめりそうになっていた。うん、ガウロ様だからね!


「だけど、向こうも毎回オレがいることは想定外みたいだから、敢えてオレを巻き込んではいないと思うよ」

「そうみたいだな……まあ、詳細が聞けて助かったぜ。カロルスより頼りになるぞ! やっぱり俺の所に――」

「行かないよ!」

さっとエリーシャ様に身を伏せると、まだダメか、と舌打ちが返ってきた。まだも何も、ずっとダメ!


「いい加減諦めろ。ところで、ウチで預かってる子どもたちはアッゼ任せでいいんだな?」

「俺らが行く方が揉めるだろうよ。俺たちは何も見てねえし知らねえ、これが一番互いのためってやつだ。向こうさんも倣ってくれんだろ」

「そうねえ、アッゼくんの言うことを素直に信じてくれるといいのだけど」

どうやら、魔族の子たちの件は内々にすませる手はずだそう。そもそもオレたちの国が魔族を誘拐したのだったらそんな悠長なことは言ってられなかったのだけど、どうもそうではないらしい。

「そこは証拠があれば大丈夫ってね! さっすが、魔族期待の星! あんな可愛らしい成りで侮れねえもんだよ」

そう、ミラゼア様たちがどうしても魔族の国へ帰ろうとしていたのは、その情報を持っていたから。連れ去られた子どものひとりには、魔族の『魔力印』がつけてあったらしい。それってアッゼさんがマリーさんにつけて怒られたやつだ。


「ミラゼアちゃん、やるわねえ。誰でもできる技じゃないんでしょう?」

それはアッゼさんの転移魔法みたいに適性と、高い魔力が必要らしいから。何にせよ、ミラゼア様だけはその子がどこに行っても探し出すことができるそう。現に、アッゼさんとミラゼア様のタッグで既に探索はすませた上での結論だ。

「帝国か……あのデタラメな2人組は、帝国の人間だったのか? あんなのが攻めて来たらさすがにロクサレンもマズイぞ?」

攫われた子たちは、魔族の国でも、オレたちの国でもなく、この国を経由してもうひとつの国へ運ばれていたらしい。それぞれ海を隔てた国ではあるけれど、そう離れてはいない。


「いや、さすがにそれはないんじゃ? 帝国って割と人至上主義だし、人じゃねえやつらがおおっぴらに活躍は難しいと思うぜ」

オレは思わず肩を震わせた。アッゼさんは、あれが人じゃないって気付いていたの?

オレは、ケイカさんが神獣だとはどうしても言えなかった。その根拠を話すわけにもいかないし……。

「人じゃねえのか、どうりで」

カロルス様が納得した面持ちで頷いた。どうしよう、これで神獣は悪いものって認識が広まっちゃったら。

「あそこまでの再生能力、不死性は異常だけどよ、ヴァンパイアだろ」

「えっ?!」

俯いていたオレは、思わず顔を上げた。


「お前、気付いてなかったのか? 村にもいるだろ、ヴァンパイア」

それって、それって男の人の方、レミールのこと……? まさか、ヴァンパイアだなんて。

「で、でも! ヴァンパイアの人はみんなきれいな白髪だよ? あの人は白じゃなかった!」

確か、淡い金髪だったもの。瞳は、瞳は確かに赤かったかもしれないけど、だけど赤の瞳はヴァンパイア以外にだってあり得るはずだ。

「そういう色のやつもいるんじゃねえ? 俺、ヴァンパイアと戦ったことあるからな。再生能力にかまけて防御が甘いのも同じだぜ」

「だけど……!」

そんな曖昧な情報でヴァンパイアだなんて!

「ユータちゃん、気持ちは分かるけど、それでヴァンパイアみんなが悪い人にはならないの。大丈夫よ。それに、そうと決まったわけでもないの、可能性があるってことよ」


エリーシャ様が宥めるようにオレを撫で、ガウロ様も頷いた。

「ぼうず、大人を舐めるんじゃねえぞ。犯罪者なんざどの種族にも満遍なく居やがる、それでヴァンパイア族との友好関係にヒビが入ったりしねえよ」

「そっか……」

ホッとしつつ、まだ少し胸がざわついた。だって、ヴァンパイアの人ってそんなに多くないんだよ。もし、万が一、誰かの知り合いだったら。


そんなことを考えると、そこからの会談内容はもう全く頭に入らなくなってしまった。



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名前、間違ってました…すみません!

ヒューゲル→レミールです。なぜ……?? 私、自分の人物一覧にもヒューゲルって書いてたのに…

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