第576話 香りを嗜む?

*「シャラゼア様」ですが、名前が「シャラ様」(シャラスフィード)と被ってややこしくなりそうなので「ミラゼア様」へ変更しました。




オレのマッサージのおかげで(?)タクトも回復したようだし、今日は予定通り王都へ行けそうだ。今朝はタクトの訓練をしないようにマリーさんに伝えておいたから、以前の二の舞にはなるまい。

オレはふわふわの毛布みたいな身体を抱きしめて頬ずりした。

「あ~プリメラってあったかさが丁度いい……サイズ感も」

今日も今日とて起こしに来てくれたプリメラは、房のあるしっぽでオレの頬を撫でた。

しようのない子ね、早く起きるのよ? なんて台詞が聞こえてくるような気がする。大丈夫、今日はちゃんと起きるよ。だってカロルス様たちと一緒に王都へ行くんだもの。


魔族の子たちの件で、カロルス様とエリーシャ様もガウロ様の所へ行くらしい。魔族の子たちはその間ロクサレンでお留守番だ。

「あ、リンゼおはよう」

「あ、ああ……」

プリメラにせっつかれ、うつらうつらしながら廊下を歩いているとリンゼたちに会った。探検でもしていたんだろうか、リンゼとあと……とにかく、幻惑系の魔法使い3人だったはず。


「オレたち今日は王都に行ってくるんだ。リンゼたちは何するの?」

聞いたものの、ヤクス村でできることなんてあんまり無いなと苦笑する。彼らはきっと磯遊びも釣りも、ブルのブラッシングさえもやったことないだろうから。だけど、じっくり隅々まで村を見て回れば1日くらいは潰れるだろう。


「何って――俺たちはここから出られないからな。ああ、嫌だと言ってるんじゃないぞ、匿ってもらって感謝している」

彼らはひとまずこの館に泊まってもらっているけれど、特に制限していないのでどこへでも行けるはず。

苦笑したリンゼに向かって口を開こうとした途端、背後からただならぬ気配を感じた。振り返るか振り返らないかのうちに、足が宙に浮いた。

「おはようっ! ユータくんの朝の香り、頂くわね!」

お嬢様……はしたのうございます……。せっかくのお人形さんみたいな美貌も、幼児の腹に顔を埋めて深呼吸していたら台無しだ。


「ミラゼア様、さすがにちょっと。そっちの妖精蛇にしておいて下さい」

リンゼの渋面も納得だ。こんなことする貴族様なんて、エリーシャ様くらいだと思っていたんだけど。

「そうね、この子もとっても可愛いもの! ん~~~癒やされるわ……」

包容力あるプリメラは、やれやれと言いたげにされるがままになっている。まるで幻獣店のシーリアさんみたいなお嬢様だ。うん? それだとオレって獣ポジションってことに……?


「皆さまおはようございます。おや、どうかされましたか?」

「癒しを吸っ――こほん、なんでもございません。朝の香りを嗜んでおりましたの」

元気に振り返ったミラゼア様が、執事さんを目にした途端にお嬢様になった。でも、さすがにそれは無理があるんじゃないだろうか。紅茶じゃあるまいし。

「そ、そうですか。朝食の準備が調っておりますから、どうぞ」

なんとか微笑みを浮かべた執事さんに、ミラゼア様も花のような笑みを浮かべた。


立ち去る背中を、ミラゼア様の視線が追っていく。見えなくなったところで、ほう、と悩ましげなため息がひとつ。

「――素敵」

……えっ? 耳を通過していった台詞をもう一度反芻し、オレはうっとり瞳を潤ませる彼女を二度見した。同時に、リンゼたちが頭を抱えて項垂れる。

『中々、ニッチな趣味をお持ちのようね。侮れないわ』

『あんな怖いのが好きなんて。俺様、人生終わってると思う!』

……えっ?! 今度はリンゼたちを見つめると、彼らは長く深いため息を吐いた。

「ミラゼア様は少々年上を好まれるので……このような諸々の出来事は記憶から末梢しておいてくれるとありがたい」


忘れておいて、じゃなくて完全消去なんだ。

まあ、執事さんはオレから見ても最高に格好いいんだから。あんまり年が違ってビックリしたけれど、ミラゼア様の憧れに何もおかしなところはない。

「だけど、連れて行っちゃ嫌だよ! オレも執事さん大好きだもの」

「分かってる……心得ているわ。中々いないのよ、誰のものでもないナイスダンディーって。いいの、私はこうして見ているだけで……幸せだから」

睫毛を伏せたミラゼア様は本当に儚げで、胸がぎゅうっとなった。

「……そんなことを仰るなら、雇っている執事群を手放されては? いくらなんでも多すぎでしょう」

リンゼの冷めた台詞に、ギクリと華奢な肩が震えた。

執事……群? ひつじじゃなく??


「だ、だって! クール系、アツイ系、優しい系、ワイルドにスリムにマッチョに……そしてそれらの組み合わせから生み出される解は……無限の可能性よ?! ちゃんとお給料は払ってるし、とっても人気の就職先なんだから! ここの執事さんには今までと違う新たな可能性を感じるの!」

……オレの痛みを返して欲しい。熱弁をふるうミラゼア様に、なんとも言えない視線が集中する。

ミラゼア様の行動力やパワフルさって、こういう所にも遺憾なく発揮されてしまうんだね……。オレ、そこは知らなくても良かったかもしれない。


「はあぁ……野良生活中のミラゼア様の方が誇り高く見えてしまうのは、俺が狭量なのか……」

うーん。これもギャップ萌えってやつだろうか……?

『萌えなかったらギャップ萌えじゃないのよ……』

やれやれ、とモモが肩(?)をすくめてふるふると揺れた。


「――ああ、ところでお前、さっき何か言いかけたか?」

気を取り直したように問われ、ああ! と手を打った。さっきリンゼはここから出られない、って言ったと思うから。

「どうして出られないの? 遊びに行ったらいいよ、何にもないけど海はあるよ! オレ、今日は王都に行くけどまた戻ってくるから、一緒に遊ぶ?」

きっと、みんな遊び方を知らないだろうから、オレが教えてあげる! ぱっと笑ったオレに、リンゼたちが苦笑した。


「いやいや、俺たちは魔族だからな、村へ出たら大騒ぎになるんだ」

「大丈夫だよ、だってアッゼさんが――」

「なあ! 見てくれこの実。綺麗な色だろ、これでなんか可愛い菓子作れねえの? 畑のおっちゃんが食えるって言ってたぞ!」

噂をすれば影どころか、本体が飛んできた。目の前に現われたアッゼさんが手の平いっぱいに差し出してきたのは、ツヤツヤと綺麗なグリーンピースほどの赤い実。なるほど、見た目は可愛らしい。見た目は。

「アッゼさん、レッカの実知ってる? 食べたことないなら、1つどうぞ」

せめてもの情けで小さな1つを選んで差し出した。長い指でつまんだそれをしげしげ眺めて匂いを嗅ぐと、アッゼさんはさほど躊躇いもなくぱくりと口へ入れる。


「――っ?! あッつぅーー?!」

差し出した生命魔法入りレモン水を一気に呷り、荒い息をつくアッゼさん。

「ね? 辛いからお菓子用じゃないんだよ」

「先に言え!! なんで食わせた!」

だってそのまま食べる人もいるくらいなんだから。そう、レッカの実は唐辛子だね。

「これ、おじさんがくれたの? アッゼさん人気ものだね!」

「まーな。ちょっと手伝ったら喜ばれちゃってさ! 意中の相手を射止めるには、外堀をこうやってジワジワ埋めていくってのが遠回りでいて一番確実なんだぞ」

ものすごい遠くの外堀から埋めにかかったんだね。普通、家族や友人あたりからじゃないだろうか。

甘くないならいらないとレッカの実をオレに押しつけ、アッゼさんは瞬く間に消えてしまった。


「ほら、大丈夫でしょう?」

振り返ってにっこりすると、リンゼたちはきょとんとしている。

「アッゼさん、村の人たちと結構仲良いんだよ。村の人は多分、みんなのことも知ってると思う。あ、アンヌちゃんっていう魔族の血が入った子もいるから、お話してあげると喜ぶよ!」

目を丸くして困惑するリンゼたちの傍ら、ミラゼア様はやっぱり瞳を輝かせていた。


「本当?! ヒトの村を堂々と観光できるなんて! 絶対行くわ!」

そうだろうと思った。なんにもないけど、ここに住んでいることを誇れるいい村だよ。

「あ、もうひとつ。みんな、ヴァンパイア族と会っても大丈夫? 村にはヴァンパイアのヒトもいるよ!」

オレの言葉に、その瞳の輝きはますます増したのだった。



-----------------------------


皆さまコミック版最終巻はもう入手されましたでしょうか?!

片岡先生から、皆さまへ素敵なプレゼントがありますよ!ルーやユータ、ラピスたちの描かれた貴重なイラストをネットプリントに登録して下さいました!!

すんごい綺麗です!めっちゃ可愛いです!!これを入手できるんです…希望者全員が!!すごいことですよ?!期間限定なのでお見逃し無く!! 


詳細やどんなイラストかは片岡とんち先生のTwitterをご覧下さい!


○FamilyMart

番号:P49536AHC7

有効期限:2022年02月28日21時17分

L判カラー:30円


○セブンイレブン

番号:36U6T2BJ

有効期限:2022年02月21日23時59分

フォト用紙Lカラー:40円

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る