第513話 スライム発生源

相変わらずちらほらとスライムたちは川を流れてくる。

どうやら集まって巨大な王様スライムになることも、一定数集まれば消えてしまうわけでもなさそうだ。

数は多いけれど、所詮スライム。そのうち他の魔物にやられちゃったり、川から出られずに大半が姿を消すだろう。川沿いに多少スライムが増えたところで、このあたりに武装していない人が歩くことはない。そもそもこのくらいの大きさのスライムなら、武装していなくても倒せるけれど。


「……あ、あれ?」

「いなくなってねえ?」

「もしかして品切れ~?」

シロに乗って上流へ向かっていたのだけれど、いつの間にかスライムは川から姿を消していた。流れスライムは打ち止めだろうか。

「たまたま、たくさんいただけなのかな?」

それにしてもいきなり川を流れ出すなんておかしいと思うけど、いなくなってしまっては原因も探せない。

念のために上流まで行ってみたけれど、残念ながら(?)何もおかしな所はなかった。

「つまんねえの……なんかあると思ったのにな!」

「何もない方がいいとは思うけどね~」

だけど、原因が分からないのはスッキリしない。消化不良な思いを抱えたまましぶしぶ帰ろうとしたとき、レーダーに気になる反応があった。

「うん……? ねえ、シロ、また少し下流の方へ行ってみて」

「どうかした~?」

諦めきれずにレーダーの範囲を広げたままだったのだけど……。


「あ! ほら、やっぱり!」

「え? なんでここには流れてるんだ?」

さっきまでいなかったスライムが、またふよふよと流れてきている。

「僕たちが見落としたスライム出現場所があるってことだね~」

そうと分かれば、オレたちは目を皿のようにしながら再び上流へと向かった。

「シロはスライムの匂いとか、分からない?」

『うーん、スライムってあんまり特別な匂いがしないよ。水だったり石だったり葉っぱだったり、いろんな匂いがして難しいな。あと、お水で流れちゃうと匂いは分からないかも』

そっか、スライム自身の匂いと言うより取り込んだものの匂いがしているのかもしれない。


「あ、ストップ!」

しばらくさかのぼったところで、レーダーの反応に気付いて待ったをかけた。

「何か見つけた~?」

「ううん、だけどここから先にはスライムがいないよ!」

「ってことは、ここが発生源だな!」

周囲に何も怪しい所はないし、オレたちがいる川岸にわさわさスライムがいるようなこともない。川幅は2mほど、川向こうは岩壁になっているので、スライムが溜まる場所はない。

「上から飛び降りてくるとか……?」

岩壁は5mほどの高さがあるので、万が一そこから飛び降りてこられたら、いくらスライム相手でも怪我をしそう。飛び降りたスライムは怪我じゃすまないと思うけど。

「なんで飛び降りるんだよ……いくら鈍臭くてもこんなに飛び降りてこないと思うぞ」

一応、3人でじっと岩壁の上を見張っていたけれど、スライムのスの字も現われない。

『ねえゆーた、スライム流れてるよ』

「えっ?!」

一体、どこから?! 慌ててレーダーの方へ集中すると、スライムは突如川の中に出現しているように見えた。


「……多分、ここ。ここから急に出てくるみたい」

レーダーを頼りに場所を定めると、3人でじいっと水面を見つめた。

「「「あ!!」」」

ちょうどその時、ぽこりとスライムが浮き上がってきた。やっぱり!

「あっ、タクト?!」

止める間もなく、飛び込んだタクトの姿が沈む。ここ、上流の割に深い!

慌てて飛び込もうとした身体をラキに捕まえられる。

「ユータが行く方が危ないから~! 水中なら多分、タクトの方が得意~」

で、でも、こんなに流れがあるのに! 透明度は高いけど、強い流れに波立ち、反射する光も相まって見通しがきかない。必死に水中のタクトを探した時、ぷはっと呑気な呼気が聞こえた。

「やっぱここだ! なんか壁に裂け目があるぜ! 俺でもなんとか通れそうだ。ユータ、俺の魔道具くれ!」

なんなく向こうの岸壁まで行ったらしいタクトが、こっちへ来いと手を振っている。安堵半分、むかっ腹半分だ。

パシュシュ!

「うわっ、なんだよ!」

オレとラキの水鉄砲は、壁に貼り付くタクトを容赦なく狙い撃った。


そもそもこんな深くて流れの速い川、渡れないから! 水中呼吸の魔道具を使ったとして、水中の裂け目に入るなんて無謀すぎる。水中はレーダーがききにくいもの。中にみっちりスライムが詰まっているとか、勘弁願いたいところだ。

――ラピスが見てきてあげるの!

うずうずしていたラピスが、これまた止める間もなくボシュッと水中に突っ込んで行った。まあ……ラピスは心配いらないだろう。ラピスの攻撃で岩壁が崩れる危険はあるだろうけど。

……なんて冗談半分に考えたせいだろうか。

――ユータ、スライムがいっぱいいるからせんめつするの。そっとやるから大丈夫なの。

「あっ! 待っ……」

「うおぉっ?!」

ハッとしたタクトが水中から魚のように飛び出して岩壁にぶら下がる。ほぼ同時に水中が激しく泡立ち、岩壁から濁った水が噴き出した。

さすが、野生の勘。間一髪だ。

――ラピス、上手にできたの。崩れてないの!

きゅっきゅと嬉しげな声が伝わってくる。うん……上手だったと思うけど、できれば一か八かでやるのは遠慮願いたい。


――ユータも入ってくるといいの! 中はお水がなくて結構広いの。

「どうする? 中は水がなくて洞窟になってるみたい。ラピスが入っても大丈夫だって」

「だけど、僕たちどうやってあそこまで――」

「よっ、と! 行くぜ!」

どうやら岩壁を蹴って2mの川幅を超えてきたらしい。タクトはスタッと降り立つと、ラキを小脇に抱えた。

尾を引く悲鳴を残し、ひと飛びで岩壁まで飛んだ二人が水中へ消えた。呆然と見送って、我に返る。

「し、シロ! あっちまで跳んでくれる?!」

『いいよ! でもぼく、壁に掴まれないよ?』

『足場を作るわ。ゆうたが水中に入る間はシールドを張れば、流されないんじゃない?』

それで行こう! とにかくタクトが戻ってくるまでに行こう!!


岩壁にあったらしい裂け目は、おそらくラピスの攻撃の影響だろう、開口分が広がって楽々通れるようになっていた。川からの光を頼りに水中の斜面を這うように登ると、やがて水面へ顔を出した。

「わあ、本当だ。割と広いね!」

ラキの砲撃に追い回されるタクトを尻目に、ぐるりと周囲を見回した。教室の半分くらいだろうか、ここにスライムがみっちり詰まっていたんだとしたら、なるほど、押し出された分があんな風にスライム流しになるんだろう。

――スライムはいっぱいいたの。多分、あっちからまた出てくるの。

ラピスの指す方は細く空間が続いていたけれど、やがて行き止まりになった。

「わっ! 本当だ……」

そこには既に1匹のスライムが蠢いている。と、気配を感じて飛び退くと、ビタンと何かが落ちてきた。

「上から……?」

落っこちてきたスライムは慌てたように蠢いている。土壁を少し登った所には、どうやらスライムがすり抜けてきたであろう手のひら大の隙間があった。

――ユータ、こっちはもっと広いの! この壁を崩せば……。

「ストーーップ!! 待ってラピス、オレがやるから!!」

生き埋めになるのをすんでの所で制止して、そっと土魔法を発動させる。徐々に穴を広げていくと、壁の向こうに広い通路が続いていた。ほのかな燐光はヒカリゴケだろうか。

ダンジョンではないから、いきなり凶悪な魔物が出てくるなんてことはないはず。そもそも、こんなにたくさんのスライムが生息できるなら、魔物すらいないかもしれない。


「おお! すげえ、ユータ大発見だな! 探検しようぜ!」

「ダンジョン……ではなさそうだね~。自然洞窟かな~?」

いつの間にか集まって来ていた二人が目を輝かせる。

洞窟の探検! わくわくする冒険の予感に頬が紅潮するのが分かる。


その時、シロがスンスンと鼻を鳴らして言った。

『ねえ、この匂い知ってるよ』

「匂い? ……あ、言われてみれば……」

洞窟内の湿っぽい匂いに混じって漂う微かな香り。それは確かに嗅いだことのある独特の匂いだ。

オレたちは困惑して顔を見合わせた。



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