第500話 メリーメリー先生の大ニュース

「みんなーっ! 大ニュースだよ!!」

飛び込んで来た人影に、オレたちの胡乱げな視線が集中した。

スパーンと景気よく扉を開け放ったのは、もちろん我らがメリーメリー先生。そろそろ生徒に身長を追い越され始めた小柄な身体は、弾むように教卓へ向かう。


先生の大ニュースは割と日常茶飯事だからなぁ……。露店の安売り情報だったり、新たな食べ合わせの可能性だったり。

全く期待していないオレたちの視線にもめげず、教卓の上でぱあっと笑顔が咲いた。


「なんと! 私たち3年生も、1年生を迎える準備を手伝うことになりました!!」

ほらやっぱり。想定内のビッグ(?)ニュースに、生徒達の視線が突き刺さる。

「え? あれっ? みんな嬉しくない? すごいでしょ? いつも4年生以上がやってることだよ??」

「それって仕事押しつけられたって言うんじゃ……」

誰かの台詞にみんなが頷く。

メリーメリー先生は簡単に言われたことを信じちゃうので、きっと『誇りある行事を君たちに任せる!』なんて言われたら、二つ返事で引き受けるんじゃないかな。


「今年は4年生が例年より少ないからだろうね~。残ってるのは割と冒険者活動に熱心な人たちだから、そんな行事に関わってられないってとこかな~」

「そうなんだ! 普段は4年生がメインだったんだね」

5年生以上はそもそも人数が激減するので、学校行事を取り仕切る最高学年は基本的に4年生がメインらしい。例年より4年生が少ないってことは、今後もいろんな行事がオレたちの学年に降りかかってくるってことじゃないだろうか。


ふうん、と大した興味もなく聞き流していたら、どうも視線が刺さっている気がする。

「……え? なあに?」

頬杖をついたラキの細められた瞳に、ギクリとする。これは、大体においてオレが何かした時の目……。

一生懸命記憶を辿ってみたけれど、最近何も話題に上るようなことはしていないはず……多分。

「んーん。きっと気付いてないんだろうな~と思って~。4年生が例年より少ない理由~」

「そりゃあ、知らないよ? 気付くって?? ラキは知ってるの?」

どうやらオレが何かやらかした話じゃないらしいと、ホッと力を抜いた。


「誰かさんを筆頭に、一つ下の学年がぐんぐん伸びてるからね~。大きい顔ができなくなった人たちと、肩身が狭くなった人たちが多かったんだろうね~」

「お、つまりはユータのせいか!」

のしっと背中からのし掛かられて、べちゃりと潰れた。

「お、オレ……?」

そんな……そんなはず……。

ふと、脳裏に『クラス全体を強化して紛れよう作戦』がよぎった。今の所作戦は割と成功を収めているのじゃないだろうか。一定のラインを超えると、みんな勝手に強くなっていくし。

『と、いうことは、やっぱりあなたのせいってことね』

モモの柔らかな身体がふよふよと頬に触れた。


「で、でも! きっかけはもしかすると百歩譲って多分おそらくオレにも関わりがあるのかもしれないけど!」

ひと息で言い切って、うん、と頷く。

「だけど、強くなったのはみんなだから、オレだけの責任じゃないよね!」

「なんだその理屈。まあ、ユータのおかげで強くなれたんだから、文句はねえけど」

ひとまず、暑いし重い。背中の重りを押しのけて、そ知らぬ顔で微笑んだ。

「ううん……強くなったのは、みんなの努力だよ。オレの力じゃない……みんなの力だから!」

「その台詞、この場面じゃなかったらもっと光ったのにね~」

ラキの声は聞こえなかったことにする。


周囲では、不満そうなクラスメイトの声と、先生の説明が続いていた。

「――あと、清掃とか飾り付けはみんなでやるとして、1年生の時ユータくんが上手に誘導してたでしょ? 先生感動しちゃった! だからあんな風にしてくれたらいいと思うんだ!」

突然オレの名前が出てきて視線を戻すと、ばっちり先生と目が合った。

「お願いねっ!」

大きな瞳がぱちんとウインクをひとつ。まあ……そのくらいならお安いご用だ。こくりと頷いたオレに気を良くした先生が、ここぞとばかりに満面の笑みを浮かべた。

「それとね……!! 今回特別にお料理を振る舞うことになったのー! 素晴らしいアイディアだと思わないっ?! なんでもツィツィー先生たちが分析した所によると、みんなの実力が伸びたのっておいしい食事がきっかけらしいの! だから物は試しにってこと!」

クラス全体が、ああ……と納得の顔を浮かべる。先生はそれに釣られて引き受けたんだね。


「分析もへったくれもあるかよ……」

「そうだね~。だけど、割といいアイディアではあるかもね~。強くなったらこんな美味しいものが食べられるんだよって~。でも、それって~」

ラキとタクトが、ふいにオレを覗き込む。きょとんと顔を上げると、クラス中の視線もオレに向いていた。

「――と言うことなのっ! お願いね!! 先生、お料理はダメってちゃんと自己分析してるから!」

「ええぇーー?! ふぐっ?!」

てへっと舌を出した先生に抗議の声を上げようとした所で、左右から口を塞がれた。

「了解了解!」

「美味しい冒険者料理作るよ~! ユータが~!」

ちょっと?! 勝手に了解した2人に、クラスメイトが白い歯を見せてぐっと親指を上げた。

せ、責任が重い……。学食のおばちゃんにやってもらったらダメなの?!

「だって学食よりユータの飯の方が美味いもん」

「それは素材が悪いからだよ!」

町で売ってる安物の素材だと、どうしてもそうなるよ。きっと!


「大丈夫、作るのはちゃんとおばちゃん達とわた……みんなが手伝うから! お料理自体もおばちゃん達が見てくれるって! だけどおばちゃん達は普通のご家庭の夫人だからさぁ、冒険者飯なんて知らないでしょ? ユータくんの腕の見せ所だよっ!」

おばちゃん達、料理人じゃなかったんだ。どうりでバリエーションが少な……ごめんなさい。


オレ、そんな腕を披露するつもりはサラサラないんだけど。

だけどみんなで作るなら、調理実習だと思えばいいか。冒険者が簡単に作れるってテーマだから、焼いた肉! スープ! パン! とかでいいってことだよね。それなら美味しいも美味しくないも素材次第だ。

「そう言えば、素材はどうするの? 買ってきたら意味ないよね?」

小首を傾げたオレに、先生はなんでもないことのように言った。

「大丈夫大丈夫! みんなで狩ってくることになってるから。手分けしていろんな獲物狩るの!」

――ガタッ!!

一瞬しんとした教室内で、みんなが一斉に立ち上がった。

「うおおお!! 狩りメイン! 狩りメインの実地訓練ってこと?!」

「やったわ! 好きなだけ獲物を狩れるのよー!!」


燃えている。みんなが燃えている。

そっか、まだ仮登録やFランクあたりのクラスメイトも多いから、討伐の依頼ってないもんね。学校の実地訓練もそれに合わせて、討伐訓練はまだ先の予定だったのだけど。

「みんな冒険者登録してるし実力があるから、野良で経験積んじゃうでしょ? それだとかえって危ないから、予定を前倒ししていくことになったんだ! 今後は討伐もじゃんじゃんやろうねー!」

「おおー!! って……なんでこれが大ニュースじゃねえんだよ!! こっちだろ! 大ニュース!」

タクトの渾身のツッコミにクラス中が同意した。

「そう? あっ、ちなみにランクアップの実技試験を兼ねられるから、希望者は予め言ってねっ!」

ついでとばかりに付け足された台詞に、再び教室がしんと静まりかえった。




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