第480話 連携
「もう着いちゃったじゃん! シロすげーよ!」
アレックスさんがわしゃわしゃとシロを撫で回した。
『えへへ、すごい? ありがとう!』
喜んだシロがアレックスさんをなめ回すのを横目に、うーんと伸びをする。夕方に到着出来れば、と思っていたけれど、予定より早く到着することが出来た。今回の依頼は村から出ているので、まずは依頼者の村長さんへお話を聞きに行かなきゃいけない。
「ふむ、まだ時間がある。村へ挨拶する前に現場を見ておくか」
「賛成! もうとっとと討伐しちゃえばいいんじゃねえ?」
シロ車だと道中ほとんど魔物が出て来ないので、タクトは不満げだ。
「本格的な討伐は話しを聞いてから、な? 村には色々事情があったりするんだぜー! 全部倒してから文句言われちゃたまんないでしょ?」
「なんで?! 倒したのに文句言われねえよな?!」
「それがそうでもないワケよー。実は魔物が村の収入源とか貴重なお肉だったりとかさ! 問題は解決してほしいけど魔物がいなくなっても困る、みたいなことが実際あんのよ!」
な、なるほど……ある意味共存しているんだね。それはかなり微妙なバランスで成り立っているだろうから、そこに介入するのは難しそうだ。
オレたちは下見がてら、問題の川へ向かった。話しついでに、道すがら色々と教えてもらった。
冒険者のランクっていうのは、単に強さだけを見ているわけではないそう。Dランクからは品性があってまともに話しが通じるかどうか、なんてのも必要になってくるらしい。Dランクの依頼は難しいものも増えるけれど、もっと下のランクでも達成できるものも多い。
「それが、信頼度ってヤツ? 俺たちはまだDだから信頼度はやっと基準値に達するかどうか、ってとこ!」
貴族やお金持ちの人は、きちんと信頼をおける冒険者に、と簡単な依頼でもCランク以上を指定したりするそうだ。確かに、下のランクは割と荒くれみたいな人たちも多いから、依頼をすっぽかしたりとんでもない失敗をすることもありそう……もちろん自分にペナルティがかかってくるのだけども。
「じゃあさ、すっげー強くても態度悪いとランクアップできねえの?」
「でも、ランクは高いけど問題行動の多い人もいたような~?」
二人の台詞に、テンチョーさんが苦笑いした。
「そうだな。そこは難しいところだ。あまりに実力があると、ランクを上げざるを得ないこともあるようだ。ただし、ギルドの方でトラブルを避けるよう根回しをするようだが」
え、えっと、カロルス様はそんなことないよね? 品行方正とは言い難いかもしれないけど……執事さんやマリーさんがいるし!
『むしろトラブルを起こすのはその二人のような気も……』
呟いたモモに頷きかけて、慌てて首を振った。そ、そんなこと……
『トラブル起こしても揉み消してそうだよな!』
訳知り顔でチュー助がうんうんと頷いた。オレの脳裏をよぎったのは、にっこりと壮絶な笑顔で脅しをかけるマリーさん。そして、氷点下の笑顔で完全犯罪をやってのける執事さん。
オレは浮かんだ映像をそっと奥へ押しやった。……そっか、ギルドって割と大変なんだなぁ。
『あなたもきっとギルドを悩ます人になるわよ』
「ユータは態度が良くてもギルドの悩みの種になりそうだよね~!」
モモとラキは同じようなことを言って笑った。
「思ったより広い川なんだな!」
「ホントだね~。小川みたいな場所かと思ってたよ~」
村から歩いてほどなく着いたのは、街の近くで見るような小さな川でなく、割と大きな川だ。道からは2mほど低くなっている。向こう岸に渡るには、シロなら2回の跳躍が必要かな。
「アリゲールかバラナスがいるんだから、川だってこのくらいないと住めないっての! さて、いるかな~?」
アレックスさんはそう言うなり、ひょいと河原へ飛び降りた。
「馬鹿っ!! アイスアロー!!」
途端、大きな石が跳ね起きた。砂利を蹴散らして突進したところで、テンチョーさんの魔法に貫かれ、足が止まった所で即座にアレックスさんが首を落とした。それは灰色のゴツゴツした肌を持つトカゲのような生き物。尻尾を除けば1mくらいだろうか。
「んーバラナス? やっぱ増えてるっぽい」
無事をアピールするようにひらひらと手を振って、アレックスさんが振り返った。
「いきなり飛び降りるヤツがあるか! 無茶をするな!!」
獲物をぶら下げて戻って来たアレックスさんに、テンチョーさんが怒り心頭だ。
「えー無茶じゃねえと思う! だって俺斥候だし? 一応安全マージン取って行ったつもりなんだけど」
「斥候の役割を担って欲しい時は言うと、いつもそう言ってるだろう! 敢えて身を危険に晒す必要はない!」
今にもげんこつが落ちそうだけど、アレックスさんはどこか嬉しげだ。肝が冷えたけれど、彼には十分対処できる範囲だったみたい。二人の連携も見事だし、さすがはDランクといったところだろうか。
「倒すの早いね~」
「おう、ニースの兄ちゃんたちより強そうだぜ!」
う、うーん。そこは長年Dランクのニースたちと新進気鋭の若手の違いだろうか。きっとテンチョーさんたちは、もっと上のランクに行くだろう。
――このトカゲをいっぱい獲るの? 美味しいの?
「いっぱい獲るかどうかは、これから相談するんだよ!」
ラピスの台詞に、図鑑に書いてあったことを思い出す。素材がお肉と皮だから、きっと食べられるのだろう。でも、美味しいのかな? 目の前のバラナスは、どう見てもトカゲ。色んな魔物を食べてるから今さらトカゲに驚きはしないけど、一見して美味しそうとは思わないよね。
だけど、美味しいならたくさん確保できそう。だって――
「なあ、さっきの石みたいのがバラナスなら、割といっぱいいるよな?」
「普段がどのくらいなのか知らないけど~、村人が安全に川を利用できるとは思えないよね~」
河原には、さっきみたいな大きな灰色の石がちらほらと見える。バラナスはああして半身を砂利に埋めるようにして獲物を待っているらしい。
「な、あんなにいるんだから狩ってもいいよな! ラキ、いくぜ! ユータはどっちでもいいぜ!」
「オッケ~!」
「どういう意味!」
ぽん、と身軽に飛び降りたタクトが、大きめの石に近づいた。さっきと同様、ぐわっと石が持ち上がり、大きな口を開けたバラナスが突進してくる。上から見る分には小さいと思ったけれど、こうして見ると中々の迫力! 左右に張り出した太い腕が、猛烈な勢いで砂利を散らした。
「ユータはそっちな!」
砂利の鳴る音に負けないように声を張り上げ、タクトが前へ出る。と同時に、バラナスがよろりと足をもたつかせた。
「ラキ、ナイス!」
下から振り抜いた剣で、見事バラナスの首が飛ぶ。ラキの砲撃魔法とタクトの剣、二人の息はますます合ってきたように思う。
「それに比べて、オレは連携できないんだけど……」
少し離れた位置にいたバラナスが寄ってきたのを見て取り、オレも不服ながら短剣を抜いた。
『ゆうたは私たちと連携すればいいのよ』
駆け寄ってきたバラナスが、ガツンとモモのシールドにぶつかった。
『じゃあ、ぼくも!』
今だと前へ突っ込もうとしたオレの上から、大きな白い影が舞い降りた。何の気負いもなしにトカゲの首をくわえ、ブン、と一振り。バラナスの太い四肢は、だらりと垂れ下がった。
「………」
『召喚士、だから』
短剣を抜いたまま静止するオレを、よしよし、と蘇芳が撫でた。
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