第283-2話 いっぱい食べて

このお話が抜けていたので2020/12/21追加しました!すみません!

第○話が修正できないので変な表示になってます



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「はあ……着いた…生きていられた…犬、ありがとう」

休憩所の柵が見えたところで、お姉さんが長いため息と共に御者台に突っ伏した。ほら…そんなに気を張ってるから…ものすごく疲れただろうなと思う。かといってオレ達が出ていけば怒られるし…どうしたものか。


「着いたぞ。あたし達が最後だから、休む場所なんてないだろうよ。それにあんたらは馬車の中にいた方がいい。さすがにあたしも夜中まで見張りは無理だ…冒険者ってんなら、夜の見張りぐらいは頼めるんだろうね?」

「もちろん!任せておいて。あとごはんもご馳走するから休んでて」

「ごはん…?何か持ってんの?ま、なんでもいいよ…とりあえずあたしは明るいうちに休ませてもらうよ」

夜になったらまた起きてくるつもりだろうか?休憩所の中くらい任せてくれてもいいのにと思うけど…命がかかってるもんね。


「うわ、俺たちこんな隅っこなのか、もうちょっと場所譲ってやろうとかねえのかよ」

「仕方ないよ~遅くに来たんだし」

「テント張れないねえ」

なんだか嫌がらせのように他のグループが広々と場所を使う中、馬車をとめた横で休むくらいしか無理そうだ。テントは張れないけど、お姉さんたちは馬車の中で休むみたいだし、オレたちはシロに包まれて寝……あ、ううん!寝ないよ!見張りをするんだから!

で、でもまずはお料理だね。

「今日は人がたくさんいるし、あのお姉さんも休みたいだろうからササッと作るね」

「何でも美味いからいいぜ!俺葉っぱ洗うわ」

「平皿と深皿だけでいい?このくらいかな?」

ラキとタクトも手慣れたもので、スッと自分たちのできる範囲のお手伝いをしてくれる。二人とも料理なんてしたことなかったのに、自然にできるところをやろうとしてくれるの、本当にあったかいね。

「ありがとう!」

「おう」

「タクトはもうちょっと野菜洗う以外もできるようになったら~?」

「何言ってんだ、俺葉っぱ洗うのうまくなったろ?サラダが美味いのは俺のおかげだぞ!」

「確かに葉っぱが細切れにはならなくなったよね~」

ふふ、こうやってみんなでお料理するのってなんだか楽しい。キャンプでカレー作るみたいだよね。


さてメニューはどうしよう?疲れたお姉さんはすぐに休むのだろうから、こってりしすぎてもダメかな…それにあのやせっぽっちのお姉さんとおばあさんには、寝る前のこってりは辛いだろう。

うん、今日はおなかに優しくて栄養のあるメニューにしよう。


「あれ?肉は?」

「うーん、今日はね、鳥だんごのおうどん…?と、つみれの照り焼きにしようかな!鳥のお肉だよ」

「鳥…鳥かぁ…鳥って肉じゃねえ…」

タクトにとって鳥肉は肉じゃないらしい…その分、照り焼きの味付けはこってりにするから…。

「でも鳥ってクールサスでしょ~?あれは美味しかったね~まだ残ってたんだ!」

「クールサスってあれか!プレリィさんとこで食ったやつ!あれならいい!ひゃっほう!」

プレリィさんにちょっとしたコツなんかも伝授してもらってるし、なんせ素材がいいからね~美味しいと思うよ!


鳥だんごのおうどんは、うどんと言っていいものか、オレが小麦粉を練って作ったほうとうみたいな感じだ。お野菜たっぷりのスープを海人のアガーラで少しとろりとさせ、クツクツした所へ溶き卵を回し入れると、ふわりと雲のように広がった。脂肪分の少ないクールサスは、お腹に優しい上にほろりと崩れる柔らかさで、満足感を得るためにかなり大きめに作ってある。大きなお口で頬ばったら美味しいんだよ!

つみれの方は荒くつぶしたクールサスに、ザクザクと刻んだものも混ぜ、ノーマルとチーズを包んだものの両方を用意してみた。つみれを焼いた時の肉汁も逃さず照り焼きソースにして、つやつやとしっかり絡めたら出来上がり!


「ごはんできたよ~一緒に食べよう!」

「ええっ?いいのよ、あなたたちでしっかり食べなさい?」

頃合いを見て馬車の中へ声をかけると、やっぱり遠慮するお姉さんたち。

「あのね、食材たくさんあるし、ついでにみんなの分作ったんだよ」

「そんな…食材は大切にしないとだめよ、いいのよ、私達のことは気にしないで」

お姉さんたちは、大人びた優しい顔で首を振った。お腹、空いていると思うんだけど…困った顔で首を傾げると、途端にぐう、と鳴ったおなかに赤面して慌てるお姉さん。まだまだ少女らしいその姿に、オレはふわりと微笑んだ。

「行こ!おいていても腐っちゃうでしょう?オレたちこんなに食べられないよ」

「早くー!ユータの飯は美味いぞ!冷めちゃうぞ!」

賑やかなタクトの声に、奥で眠っていた御者のお姉さんも目を覚ました。

「ふあ~ちょっと寝られたよ。飯くれるって本当だったんだ、あたしも保存食持ってるから気にするなよ?子どもの食い物奪うほどクズにはなってないつもりだから」

「大丈夫だよ!お姉さんもいっぱい食べて!オレたち食材いっぱい持ってるの!」

「あ、そう…?いいとこのぼっちゃんぽいもんな。どれ、あたし達が食べる保存食と違って……」

ぼへっとした表情で馬車から降りてきたお姉さんは、目の前の料理を見てピタッと動きを止めた。

「へっ……?あれ?…どゆこと??」

「どうぞどうぞー!さ、食べよう」

馬車の3人も引っ張り出して簡易テーブルと椅子に座ってもらうと、一様にぽかんとした顔で見つめている。食の細そうな3人と疲れた御者さんのために、お水は少しだけ多めに生命魔法を入れておいたんだ。いただきます、と言ってみたけど食べているのはタクトとラキだけ。

「あの…食べてね?」

オレの促しに御者さんがごくっと喉を鳴らすと、不器用そうな手でフォークを持って鳥だんごを頬ばった。

「おっ…おふぅ、はふぅっ!」

はふはふと上を向いて熱々の鶏だんごを食べる姿に、おばあさんとおねえさん達のお腹が限界を迎えたようだ。周囲を窺うようにそっとフォークをとると、とても遠慮がちに小さくお団子を崩そうとした。まあるいお団子はフォークを入れた途端にほろっと崩れて透明な肉汁があふれ出す

「あっ…」

ちょっと切ない顔をしたお姉さんは慌ててスプーンですくうと、ふうふうしてぱくりと思い切りよく食いついた。

「!!」

スプーンを口に入れたまま、虚空を見つめてパッとほっぺをおさえたお姉さん。隣のお姉さんとおばあさんは、それを見てやっと料理に手を出した。

「はふはふっ!うまっ!やっぱ美味いな~これは鳥だけど肉でいいぜ!」

「ちゃんと丸いのにお口に入れたらぶわって弾けるの、一体どうなってるの~?」

それはプレリィさんの秘伝とクールサスならではだよ!あっさりしているハズなのにしっかりとした肉汁を感じられて、本当に美味しい。オレの作った麺にコシはないけど、柔らかな麺にはじんわりとスープが染みて、ほう…とあたたかな吐息が漏れた。

つみれの方は、お腹に優しい鳥だんごうどんと比べ、しっかりと食欲を満足させてくれる。焦げ目をつけた表面の香ばしさに、とろっととろけるような内側の食感は、濃い甘辛のたれに絡んで……

「ユータ、ごはんがいる!」

そう!それだよね。やっぱり白ご飯をかっ込みたくなる!収納に保存してあった予備のほかほかごはんを出すと、タクトの手がますます進んだ。混ぜ込んだ切り身の歯ごたえもいい、とろける中にしっかりと噛めるお肉の存在が、素朴なつみれのランクを上げていると思う。

生命魔法入りのお水が効いたのか、不健康そうだった3人も、頬を桃色にしてもりもり食べている。


「おいしい…おいしい…」

うわごとのように言いながら夢中で頬ばっているお姉さんズに、おばあさんはちょっぴり切なそうな顔をして、自分のつみれを差し出した。

「ほら、あなたたちでお食べ。わたしはおばあちゃんだから、あんまり食べられないのよ」

そう?おばあさん、うどんをあんなに早く食べちゃったもの…お腹空いてたんでしょう?チーズは重いかな、と思ったけど、その食べっぷりに大丈夫そうだと思ったもの。

「はい、おかわりはいっぱいあるよー!」

御者のお姉さんもがっついているし、きっとタクトも足りないだろうと、大皿にどーんとつみれを追加した。鳥だんごの大鍋もそばへ置いておく。

「こ、こんなに……ねえ、食べていいの?!おばあ、食べていいんだよ!」

「すごい、すごいわ!おばあ、見て!お腹いっぱいになっちゃうよ!?」

目をきらきらさせて喜ぶ二人に大人びた面影はもう見当たらず、おばあさんは何度も頷いて笑うと、密かに視線を逸らせてぎゅっと目を閉じた。


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