第397話 白の街探索
「これってさー評価上がんの?」
「どうだろうね~少なくとも下がることはないと思うけど~?」
結局、ギルドに提出できる石の数はたった3つ。まあラキが1つ確保してるので実際は4つ回収できたのだけど。緑縞石は、特にキレイでもない普通の緑色の石だ。あとは、ミドルワームを倒した数と同じだけ、ビー玉くらいの魔石。これはそこまでいいお値段にはならないので、半分はラキの加工用だ。
まとめてラキの手の平に乗せられる程度の成果に、オレたちはちょっぴり不安になった。
「ええっ、こんなに?! その歳でEランクは伊達じゃないって思ったけど、私の目に狂いはなかったわね!!」
おそるおそる提出した成果物に、受け付けてくれたお姉さんが目を丸くした。
「ちょっとしか取れなかったけど、これって多いの?」
「大勢で行ったんならともかく、子ども3人でこんなに取れたなんてすごいわよ! だってあなたたち、何体倒したの?!」
思わぬ高評価に、ほっと頬をゆるめた。
「えーと、多分14体ぐらいだぜ!」
「ほらぁ、すごいじゃない! ハイカリクから来たんでしょう? 都会は人数が多い分、同じランクでも質が高いから心配だったのよ。これなら心配はないわ!」
褒められているのだけど、暗にハイカリクは田舎だし質が低いと言われているようで、ちょっとムッとした。ハイカリクだって、都会だしみんな頑張ってるよ!
けど、人数が多いと同じランクでも上位の方の質は確かに変わるだろうなあ。評価基準もどうしても高くなりそうだし。
「あとね、出来の悪いヤツに限って、ぐんぐん伸びる芽を摘もうとするから、駆け出しの頃は気をつけないといけないの。その点でも本当に実力がないと危ないのよね」
お姉さんはぐっと眉根を寄せて腕組みした。そっか、都会には怖い人たちがいるんだな……。ハイカリクにはそんな人がいなくて良かった。
「ユータ、ハイカリクでもいたぞ? そういうやつ」
「え、そうなの? みんな優しかったよ?」
オレはイジワルされた覚えはないのだけど。きょとんと首を傾げると、二人が曖昧な笑みを浮かべた。
「それなら良かったんじゃないかな~? さすがにこんな小さな子にイジワルするほど歪んだヒトは、生き残れないだろうしね~」
「顔は広いし、俺たちの実力も早々についたしな! ジョージさんもいるし」
そっか、俺が一番幼いから、ギルドマスターやジョージさんが気に掛けてくれたのかもしれないね。ただ、気遣いを嬉しく思う反面、ちょっぴり悔しい気もする。
――ユータにいじわるなんてしたら、ラピスが許さないの!
憤るラピスに、そんな人がいなくて本当~に良かったと胸をなで下ろした。最近、いきなり攻撃するようなことはなくなったラピスだけど、爆発しないとも限らない。
『俺様もついてるぜ! 俺様のひと睨みで有象無象などイチコロよぉ!』
シャキーン!
ビシッと決めたポーズに、アゲハが瞳を輝かせた。うーん、チュー助はともかく、シロと一緒に配達やさんをしているから、シロの影響はあるかもしれないね。
思いの外たくさん上乗せしてくれた金額にほくほくしながら、オレたちは屋台でお昼をとった。
「ねえ、二人はイジワルされたことあるの?」
「んー? ないとは言えねえけどよ、その頃ってもう実力ついてきてるだろ? イジワルされたって言うと語弊があるっつうか……」
確かにタクトにイジワルするとか、中々命知らずかもね。フルスイングで打ち返しそうだ。でも、ラキはどうなのかな。じっと見上げた視線に気付いて、ラキがくすっと笑った。
「僕の心配~? 大丈夫だよ、僕もあんまりイジワルされたりしないから~」
「そうだぜ! ラキにちょっかい出そうなんて命知らず、そうそう……なんでもねえ」
一瞬、執事さんみたいな気配が漂って、ぞくりと背筋が寒くなった。そ、そう……? それならいいんだけど。
これ以上は触れまいと、オレは慌てて手の中のお肉にかじりついた。
ブルのかたまり肉と、彩りの良い野菜が交互に串に刺された、ちょっとオシャレな串焼きだ。ただ、お肉はナイフとフォークがいりそうな大きさだけど。
ずっしり重たい串には5つもお肉が刺さっていて、3つでギブアップだ。野菜を食べて隣に差し出せば、がぶりと肉だけ攫われる。小型のカロルス様みたいだね。
「僕、夕飯まで工房に行きたいんだけど、二人も一緒に行く~?」
「行かねえよ、お前一緒に行っても存在忘れるだろ。俺、街をうろつこうかな? ユータも来る?」
ひとまず、ラキと一緒に行く選択肢はない。街歩きは惹かれるけれど、オレはオレで、ミーナのメモの場所を確かめてみたいな。
「お前、場所分かる? って言っても俺だって白の街は分かんねえけど」
「うん、だから今度行くときのために場所を確かめておくんだよ。シロがいるから大丈夫!」
「じゃあ、みんなバラバラだね~。夕方になったら教えてね~」
「――なんでだよ?!」
手を振って分かれる間際、サラッと言われた台詞に、タクトがつんのめった。
「だって、僕時間分からなくなるでしょ~?」
「だってじゃねえよ?! お前、そのために俺ら連れて行こうとしたな?」
あはは、と誤魔化すラキに、タクトがため息をついた。
「うーん、こっちかな?」
目印を頼りに、オレはのんびりと白の街を歩く。他の街と違って、白の街は貴族街というくくりなので、屋根が白という決まりはないようだ。ただ、嗜好の問題なのか、全体的に白を基調とした館が多く、街全体が白く感じる。お城の外壁も白いし、貴族には白い館が人気あるのかな。
活気のある黄色の街と違い、白の街の通りはあまり人が居ない。貴族は普通、馬車で移動するらしく、豪華な馬車は通るけど、歩いている人が少ないんだ。たまに、急ぎ足のお使いらしき人や、衛兵みたいな人が通るくらい。もっと、ひらひらの傘をさして豪華な扇を持って、頭にデコレーションしたような人がたくさんいると思ったんだけどな、ちょっとガッカリだ。
『あ、ミーナの匂いがする! ここを通ったみたい』
ミーナに迷惑をかけるといけないので、途中で貴族っぽい服に着替えると、シロの案内で大きな館の前にたどり着いた。
「ホントだ、多分ここで合ってるよ!」
メモと見比べながら、大きく頷いた。よし! これで次からは迷わず来られる。ちゃんと場所と匂いを覚えてるから! ……シロがね。
『迷った?』
後頭部にはりついた蘇芳が、慰めるようにてんてんとオレの頭を叩いた。オレはメモから顔を上げて、そっと周囲を見回した。……地図魔法の範囲を広げれば、カロルス様の館の場所は分かるから! 道がちょっと分からないだけ。そう、シロに頼って来たからね。
……王都って本当に広いね。
見上げれば、カロルス様の館がある場所よりもお城が近くに見えた。ごくゆるい丘陵になった白の街は、その頂点に城が位置するようになっている。どの位置からも城の存在がよく見え、いい目印だ。
ヒトのお城は大きいな。海人のお城も全体としてはとても大きかったけれど、海中にあるからなぁ。あと、エルベル様のお城は、こんなに大きいとものすごく寂しいことになりそうだ。
『ゆーた、向こうにたくさん人がいるよ』
たくさん? なんだろう? シロの声に向こうの通りまで走ると、数人が集まって遠巻きに何かを眺めていた。なんだ、ちゃんと人がいるんだ。
お忍びの芸能人でもいるのかという様相に、興味をそそられて前まで行くと、馬に乗った騎士らしき人が数名、目の前を通り過ぎるところだった。
「わあ、カッコイイね!」
人も馬も、きらきらと煌めく鎧を身につけ、凜と前を向いている。中央にいる人物は、周囲に比べて一際豪華だ。きっと高貴な出自の方なんだろう。なら、周囲の騎士は護衛を兼ねた部隊だろうか。
通り過ぎる一瞬、ふと中央の騎士がこちらを向いたような気がした。
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コミカライズ版おそらく8/4更新ですよ~! →8/11更新に変更になったようです!!ご注意を!
めちゃくちゃかわいい回なのでぜひご覧くださいね~!
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