第343話 オレたちの通常営業
「ねえ、どうして魔法使いを集めてるの?」
「どうしてもこうしても、テンチョーしか魔法使いいない状況でさ、さすがにそれじゃ任せらんないって話になったワケ。もう一組も魔法使い連れてくると思うぜ!」
「ごめん、私たちは魔法使いの当てがなくって……」
弓と剣の二人組は、申し訳なさそうに肩をすくめた。
「ええと、魔法使いが足りないのは分かったけど、どうして必要なの? 剣で倒せそうじゃない?」
みんなを見上げて首を傾げると、同情の視線が降り注いだ。
「ユータ達はまだ習ってないか……ライグーは強くはないが、厄介な特性を持っていて……」
「ここで質問! ライグーの特性ってなーんだ? 1.実はああ見えて飛ぶ! 2.実はチョー刃物に強い! 3.実は臭い! さてどーれだ?」
テンチョーさんの説明を遮ったアレックスさんが、ビッ! と指を3本突き出した。3人でうーんと首を捻ってみたけど、どれもなさそうでありそう。魔物って奇想天外なことがあるからなあ。
「うーん、臭い~?」
「刃物に強いんじゃねえ?」
「じゃあ、オレは飛ぶ! にしようかな」
揃ってアレックスさんの顔をじっと見つめると、彼はサッと二人組へマイク(?)を向けた。
「さ、答えは?!」
「えっ? あ、ああ、ライグーってのは臭いがな……危険を感じるとめちゃくちゃ臭えんだ。」
やったー、とラキが喜んだのもつかの間、くすくす笑った相方さんが言葉を続けた。
「それにね、弓や剣が通りにくいの。あの毛、すっごく滑るのよ」
よっしゃ! とタクトもガッツポーズ。でも答えが二個の時点で正解ではないんじゃない?
オレだけハズレなのかと肩を落としたところで、おっとりした声がかかった。
「うふふっ、キミも合ってるわよぉ。ライグーはね、飛ぶ……ううん、浮かぶの」
ライグーってすごい……! 驚いたオレのほっぺを、おっとりした女の人がもにもにとつまんだ。
「まああ……柔らかいわ……」
「こんちは! 君らで最後だね!」
両手でオレのほっぺをいじくりまわしながら、女の人がにっこり微笑んだ。
「ええ、あなたがアレックス君に、テンチョー君ね。私はモンリー、こっちはミツナ」
モンリーさんの後ろから、小柄な女の子が顔を覗かせて頭を下げた。勢いよく下げられた頭に、三つ編みがぴょこっと跳ねた。
「よろしく。俺たちはナックにミコだ」
そろそろほっぺを離して欲しい。オレたちも挨拶を済ませると、どうやらテンチョーさんがリーダーシップをとって今回動くようだ。
ぞろぞろとギルドから出ていこうとした時、テンチョーさんがアレックスさんに、助かる、と囁いた。
手を繋いだテンチョーさんをじいっと見上げると、気付いてちょっと苦笑した。
「アレックスはな、こういうのがうまいんだ。さっきのクイズの相手はお前達じゃない」
「どういうこと?」
「知識の確認、だな。必要なことだが、知識のないやつに限って聞くとトラブルになる」
色々と経験があるのだろう、テンチョーさんが深々とため息をついた。知識の確認……オレたちに出したクイズで、他の人を確認したの? アレックスさんって、ただチャラい人じゃなかったんだな。もしかして結構な策士なんだろうか。
「ねえ、ライグーって素材はないの?」
「そうだな、におい袋はあるが、解体が難しい。あとは臭いからな……持ち帰るわけにはいかないんだ」
そうなのか……少し複雑だ。せめて、食べることができたらいいのに。
「そうだ、チュー助、プレリィさんとこでお料理する方法がないか聞いてきてくれない? もし料理できるなら、美味しいものがたくさん食べられるよ!」
『よしきた! 俺様聞きに言ってやる!』
――おいしくなったらラピスも食べるの!
張り切って飛び出していったチュー助とラピスを見送って、モモがふよふよと揺れた。
『ま、どうしようもなかったら私がいただこうかしら』
「でも、臭いみたいだよ?」
『平気よ、なぜかスライムってあんまり苦手な臭いとか味がないみたい。好みはもちろんあるけれど』
そっか、だからスライムってなんでも食べるのかな。
「ユータ、腹減ったー、なんかない?」
タクトがじいっとオレを見つめた。オレに言えば何か出てくると思ってるんでしょ……まあ、あるけど。
二人におにぎりを1つずつ。運動前にあんまりお腹いっぱいにすると良くないもんね。
「一つずつかぁ、でも昼飯もあるもんな!」
「これ何が入ってるの~? 美味しい!」
ふふふ、それは新作だよ。ちゅくしの佃煮にナッツを合わせたもので、甘辛い中にカリリとナッツの歯ごたえも楽しい一品だ。
「お前ら……いつもこんな感じなの? 俺らがそのくらいの時はもうちょっと緊張感ってものが……」
「……お前は人のこと言えんだろう」
緊張感と言っても、今はまだ街中だもの……お外に出たら、オレたちだっていっぱしの冒険者だってとこを見せつけてやるんだ!
「……お前達、いつもこんな感じなのか……?」
「そうだよ? テンチョーさんは違うの?」
いつもの通り、草原で昼ご飯を確保しながらの道中に、どこか引き気味のその他メンバー。そりゃあ、よその人は知らないかも知れないけど、うちの学校ではこれがスタンダードだと思っていたんだけど。
『違うわゆうた、それをスタンダードにしたのはあなたよ……』
そんなことないと思う。だって、美味しいものを食べたいって思うのは万国共通の思いだもの、オレだけ特別なわけじゃないよ。
「こんなもんでいいか! なあ、今日の飯は何にする?」
「それなんだけどね~、ライグーっていうのが食べられるかも知れないから、調理法を聞いてもらってるんだ!」
チュー助たちはまだ帰って来ない。と、言うことはきっとレシピを書いてもらっているに違いない! 新たな料理の可能性に、オレはわくわくそわそわしながら2匹の帰りを待っていた。
「ここ、だな。なるほど、これは酷い」
街を出て少し歩くと、柵で囲まれた畑があった。けれど、畑はイノシシがでんぐり返りして暴れ回ったみたいな有様だ。草原の草もなぎ倒された跡が、少し遠くの森の方まで続いていた。
「ここまで荒れるなんて、相当な数がいるみたいね」
「別に夜行性ってわけじゃなかったよな? 隠れてた方がいいよな」
ナックさんとミコさんの言葉に頷きはするものの、辺りは草原、しかも畑の周囲は安全のため草を刈ってあるので隠れる場所なんてない。
「距離をとって見守るしかないんじゃなぁい~?」
「で、でもあまり離れると、わたし見えないかも……」
ミツナさんはあまり視力に自信がないらしい。ライグーって確か、あんまり賢い生き物じゃなかった気がするから……
「穴を掘って隠れたらどう? 交代で見張りしたら、その間休めるよ」
「ん~ユータ、それはいいアイディアだけどな、その穴を掘る時間が勿体ないって! それに、畑の近くでそんだけ怪しい動きしてたら、さすがにライグーも警戒するじゃん?」
ぐりぐりと頭を撫でつけるアレックスさんの手を逃れ、ものは試しと畑の側でぺたりとしゃがみ込んだ。
「でも、穴掘りなんてすぐだよ! 見てて!」
お城を建てるわけじゃなし、防空壕みたいなものを作るだけ。こだわればこだわるほど引かれると学んだので、ごくシンプルに、見張り用ののぞき穴と小さな地下室を作った。椅子やテーブルなんかは後で用意すればいいだろう。
「ほらね!」
にっこり笑って振り返ると、テンチョーさんたちの顔が引きつった。
「ほらね、じゃねーーからぁーー!!」
ややあってアレックスさんの大声が響き渡った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます