第342話 同室メンバー+α
「見ーつけた! こーんな所に出来の良い魔法使いが二人もいるなんて俺ってラッキー!」
見つけたも何も……この時間オレたちが部屋にいないなんてことはまずないだろうに。
アレックスさんの元気な声に、心地良い微睡みを台無しにされて、オレたちは渋々とベッドから身を起こした。
「アレックスさんどうしたの? この時間にお部屋にいるの珍しいね」
同室の先輩アレックスさんは、テンチョーさんと共に早朝からギルドの依頼を物色に行って、そのまま出かけちゃうから、大体お部屋にはいないんだ。
「そうとも! 今日も俺はお仕事さ。いや全く、俺って人気あるからさ~忙しくて参っちゃうね」
「じゃあ、どうして帰ってきたの~?」
アレックスさんは6年、テンチョーさんは7年の最高学年で、もう授業はほとんどないらしい。
完全に冒険者の出で立ちで部屋に入ってきた所を見るに、一旦ギルドへ行って戻って来たのだろう。そう言えば魔法使いがどうとか……ちなみにオレは召喚術師ですけど。面倒臭がってランプ代わりにライトの魔法を使ったりするもんで、すっかり魔法使いだと認識されているようだ。
「とりあえず説明はするからさ、まずシャッキリ起きて着替えて! 早く!」
ほれほれと急かされ、眠い目をこすりながら用意を整え始めると、アレックスさんは時間が勿体ないとばかりに事情の説明を始めた。
「――でさ、魔法使いが足りてねぇの。オイシイ依頼だよ~俺、危なくないように気をつけて見てるからさ! な、お願い!」
どうやら中規模の討伐依頼だけど、魔法使いがいる方が有利らしい。でも、その依頼はオレたちではランクが足りていないと思う。
「ねえ、オレたちまだFランクだよ? 無理じゃない?」
それならもう一度お布団に……。着替えちゃったけど、まだ二度寝できる時間だ。横になろうとしたら、布団をひっぺがされた。
「へへっ! 俺たちのランク、何だと思う~? 聞いて驚け~、Dランク!! すげーだろ!」
「えっ! ランクアップしたの?! すごい!」
素直に驚いてばんざいすると、アレックスさんがフフンと胸を張った。俺たち、ってことはテンチョーさんもDランクってことだね! 二人はよく一緒に依頼を受けているけど、結局パーティを組むんだろうか。学生でDランクなんて、滅多にあることじゃない。ニースたちと同レベルってことだ。
「Dランクだからさ、この依頼を受けて、且つお前達を引率できるってワケ。お前たち優秀って噂だから、サポートすれば大丈夫だろ?」
「それって~僕たちに断る選択肢はあるの~?」
さあさあと背中を押されて部屋を出つつ、ラキが振り返った。
「ないな!」
快活な笑顔にため息をついて、オレたちは顔を見合わせた。
「やったー討伐依頼! こいつら朝遅いから討伐依頼全然受けらんねえんだ。アレックスさんサンキュー!」
討伐依頼とくれば、タクトを置いていけば恨まれる。途中、タクトを拾ってオレたちはギルドへと向かった。
「いいってことよ! お兄さんに任せな!」
ガシッと手を握り合う二人に、オレはふわあ、とあくびをひとつこぼした。
だって朝は眠いんだもの……。討伐依頼もある程度の数をこなさなければランクアップできないので、全くやらないわけにはいかないのだけど、それならオレは残り物の依頼でいいよ。
逆にタクトは早起きだし、討伐依頼ばかり受けたがるので、個人的に受けた討伐系の依頼が3人の中でトップだ。と言ってもオレたちのランクで受けられる討伐依頼なんてたかが知れている。討伐系と言っていいものか、むしろ素材入手のための狩りだね。
「ちゃんとした魔物の討伐ー! 凶悪な魔物~!」
タクトはとんでもないことを嬉しそうに言いながら、うきうきとスキップしている。実力はあるもんね、よっぽど普段の依頼が物足りないんだろうな。
「タクトは変わってるよね~仕事は危険が少ない方がいいに決まってるのに~」
早朝から起こされてちょっぴり不機嫌なラキが、はしゃぐタクトをぼんやりと目で追った。
「でも、ラキやオレは他にお仕事があるけど、タクトは難しいんじゃない?」
「うーん、魔法剣使う人は珍しいんだから、いずれは先生とか~?」
タクトが、先生……?
「……で、でも~、人には向き不向きってあるもんね~。うん、タクトには冒険者が合ってるってことだよね~」
慌てて目をそらしたラキが、早口で付け足した。……瞬時に無理だって思ったんだな。それはそれでフォローになってないと思う。
「遅いぞ!」
ギルドに到着すると、テンチョーさんがコツコツと床を鳴らしながら待っていた。
「早いと思うんですけど! だって使えそうなのは出払ってるしさ~、そこで思い出したわけ! ウチの部屋にいる優秀なやつら!」
ずいっと押し出されたオレたちに、テンチョーさんが目を丸くした。
「お前……下級生を連れてくるやつがあるか! ランクはギリギリとは言え……危険だろうが」
「でもさ、優秀って噂だぜ? 他いねーもん、ものは試しってやつ? 危なかったら俺が守りに徹するわ」
だいじょーぶだいじょーぶ、と軽い調子でのたまうアレックスさんに、テンチョーさんがため息をついてオレたちに向き直った。
「お前たち、討伐は平気か? 経験は? お前たちだけで討伐した魔物はどんなやつがある?」
「問題ないぜ! 大きいのだったらブルーホーン? 多分、一番強かったのは水中の変な魚!あとは……」
「遠征の時にいろんな魔物とは戦ったね~、危険だったのはワースガーズの群れとか~」
次々と名前を挙げる二人に、テンチョーさんとアレックスさんが黙って顔を見合わせた。
「でも、ユータはダンジョンも行ってるし~、アーミーアントの群れなんかも倒してるし~」
「――採用っ!!」
アレックスさんが若干引きつった笑みで、ビシリと指を突きつけた。半強制的に連れてこられて不採用なら、かなり納得のいかないところだ。
「お前たち……なんでそんなに経験があるんだ……」
テンチョーさんがおかしな物を見るような目でオレたちを眺めた。
「やだ、天……ユータちゃん達も参加してくれるの? ううーん、そうね……テンチョー君達が引率してくれるなら……」
「ジョージさん、気持ちは分かりますが、『希望の光』なら実力は十分だと思いますけど」
ギルドスタッフの言葉に、タクトが嬉しそうにふんぞり返った。ニースたち『草原の牙』や、ウッドさんたち『黄金の大地』メンバーがオレたちの実力を保証してくれているおかげもあって、『希望の光』は、なかなか評判のいいパーティになっているんだ。
今回の依頼は、ライグーって雑食の魔物討伐なんだって。タクトが期待するような凶悪な魔物じゃないけど、街の外にある畑の被害が深刻らしく、数が増えてるからいずれ人も襲われるだろうって状況らしい。見た目は普通の四足歩行の動物って感じなのに、どうして魔法使いが重宝されるんだろう。
心配そうなジョージさんをあしらって登録をすませると、ここで待つようにとギルドの一画を示された。
「こんちわ! よろしくな!」
アレックスさんの気安い挨拶に、既に待機していた二人組が軽く手を挙げて応えた。
「あと一組来るらしいね。ところで、『学生コンビ』の実力は知ってるけど、その子たちは?」
まだ若い二人組の男女は、首を傾げてオレたちを覗き込んだ。
「俺たちの助手! こう見えて優秀な魔法使いたちなんだぜ~『希望の光』って知らない?」
「えっ! こんな小さい子だったの?!」
弓使いと剣士らしい二人組は、大層驚いてまじまじとオレたちを見つめた。
「もう小さくないぜ! ちっこいのはユータだけだぞ!」
「僕も大きい方かな~」
ぐんぐん身長の伸びている二人が、憐憫の目でオレを見下ろした。
「オレは年下だから仕方ないの! ちゃんと大きくなってるから!」
エリーシャ様やマリーさんは、大きくなりましたねって言ってくれるんだから!!
「まあ、でも一番頼りになるのはユータだから~」
地団駄を踏んだオレに、ラキがなだめるように言って頭に手を乗せた。
オレが手を伸ばしてもラキの頭に届かないのに! ますますふくれっ面になったオレを見て、タクトとアレックスさんが大笑いした。
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