アンケート閑話 バレンタイン(おまけ)
Twitterバレンタインアンケート、同率二位のお二人も……おまけです。
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「よし!他の人にも渡しに行くよ~!」
『ゆーた、次はどこに行くの?』
パタパタと階段を下りながら考えて、階下に灰色の頭を見つけた。
「ここにする!」
言いながらぴょんと手すりを乗り越えてダイブ!
「ユータ様!危ないです!私はカロルス様やマリーのように力が強くありませんよ?」
「大丈夫!執事さんも十分強いの知ってるから!」
執事さんは2階から飛び降りたオレを、なんなく受け止めながら叱った。でも、オレ執事さんも結構逞しいの知ってるもん。
執事さんは進んで抱っこはしてくれないから、こうして飛びつかないといけないんだよ。
「それに、もし私が間違って攻撃してしまったらどうするのです……」
うっ……それはあるかもしれない、執事さん攻撃に躊躇ないからなぁ。氷漬けになるのはごめんなので、次からは声をかけてから飛びつこう。
オレを下ろそうと、そっと屈んだ執事さんだけど、そうはいかない。ぎゅっと両腕と足に力を込めて、ひしっと抱きついて抵抗する。
「………それで、どうされたのです?」
苦笑して姿勢を戻した執事さんが、オレを抱え直した。
「あのね、今日はお世話になった人に、お礼のプレゼントする日なの」
「おやおや、そうでしたか。カロルス様はあちらにおられたと思いますよ」
スタスタと応接室のカロルス様の方へ向かおうとするのを慌てて止めた。
「ううん、カロルス様もだけど、執事さんにもお世話になってるでしょう?」
「……私に?」
執事さんがきょとんと目を瞬かせた。
「ユータ様は全くお世話をかけていませんよ、こちらが申し訳ないくらいに。むしろカロルス様の方が世話がやけます」
「あははっ!そうかも!」
だってオレがお世話することだってあるもの!でも、オレだってカロルス様にも執事さんにもお世話になってるよね。まだくすくすしているオレを見て、執事さんが柔らかく目を細めた。
優しい時の執事さん、穏やかで凪いでいて、大樹に寄り添っているような安堵感がある。
でも、怖いときの執事さんも好きだよ?ピリリと張り詰めた空気は、まるでつららの下を歩くようだけど、痺れるほどクールでカッコイイからね!
「あのね、執事さんも甘いの好きだよね?クッキー作ったんだよ」
収納から執事さん用のクッキーを取り出すと、はい、と差し出した。
「え、ええと……?」
いつの間にかオレの部屋の前まで来ていたらしい。困惑顔の執事さんは、そのまま室内に入ってオレを下ろそうとする。
「下りないよ!そこに座って?」
少し逡巡しつつ、執事さんは大人しくベッドへ腰掛けた。サイドテーブルを引き寄せると、執事さん用の紅茶を出して、再びクッキーを差し出した。
「食べないの……?」
クッキー、嫌いだった?なかなか開けてくれないお口に、ちょっと眉がハの字になってしまうと、執事さんが慌ててきゅっとオレを抱き寄せた。
「い、いえ、慣れなくて。も、もちろんいただきますとも!その、お皿に入れたりは……」
「だって、ここにお皿はないし、袋に入ってるもの。あーん」
にこっと笑って促すと、いつも心に波ひとつないように見える執事さんが、面白いほど挙動不審になった。だけど、何にそんなにそわそわしているのかオレにはさっぱり分からない。
「い、いただきますとも……!」
もう一度宣言すると、意を決したように顔を引き締めると、すっと頭を下げてオレの手のクッキーを咥えた。ぐっと近づいた顔に、伏せられたまつげの色も灰色なんだなと、新たな発見をする。
これでいいのかと問うように、すっと上がったまぶたから怜悧なグレーの瞳が覗いて、間近でオレと目を合わせた。
なんだか、森の奥で人慣れない獣に餌付けしているようだ。ぎこちなくオレの手からクッキーを取った執事さんは、少し視線を逸らすと、美味しいです、と小さな声で言った。
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「………」
いつものように森で微睡み、ふと目を開けると、何やら体が心地良い。この魔力は……そう言えば寝ている時にあいつが来たような。
「帰った……か?」
体に重みを感じない。来ていればいつも上に乗っているのに。
起こせばいいものを……少しむっとして体を起こそうとしたとき、腕の中の違和感に気がついた。
「危ねー……潰すぞ」
今日はどういう気が向いたのか、横たわった俺の胸元、両腕の間に入り込んでやがる。すん、と鼻を鳴らすと、甘い香りが鼻腔に広がった。ふむ、今日は菓子を持ってきたな。
それならまあ……乱暴にはすまいと、そっと前足を避けた。
「んん~……」
何かむにゃむにゃと口の中で呟きながら、ころりとさらに俺の方へ転がって、胸元の被毛に埋まった。それ、窒息するんじゃねーのか。本人はいたって居心地良さそうだが、完全に埋もれた姿に不安を感じて、そっと身を引いた。
俺が離れると、きゅっと眉根が寄せられ、小さな両手がまさぐるように宙へ伸ばされる。
……俺は布団じゃねー!
仕方なく、ふわりと尻尾を置いてやると、ぎゅっと抱き寄せて微笑んだ。ふくふくとした柔らかな頬の、滑らかな曲線、過剰に潤った小さな口。すうすうと気持ちよい呼吸に、心地よい魔力。
「てめーがいると、余計に眠い」
うつらうつらとしながら前肢に顎を乗せて、いかにも脆そうな儚い生き物を眺めていた。
「ん……んん?アレ……ルーが起きてる!」
「てめーがソレを締め上げてちゃ寝るもんも寝られねー」
ぼんやりと心地よい時を過ごしていると、ふと身じろぎしたユータが、ぱかりと目を開けた。ばちりと合った視線に、内心大いに慌てて視線を逸らした。
「あれ?オレ、尻尾握りしめてたんだ!ごめんね、痛かった?」
「その程度、痛いわけねー」
ユータの抱きしめていた形についた寝癖をべろりとなめて、フンと鼻を鳴らした。
「あのねえ、お世話になった人にお礼をする日だから、お菓子を持ってきたんだよ!」
ピクリと耳が反応する。うむ、いいだろう、早く出してみろ。
「おいしい?」
無言でむさぼる俺に、腹が立つほど嬉しそうにユータが笑った。
「それなりにな………回復の魔力を入れるとはな」
「えっ?」
なんだ、気付かずに入れたのか?食うと広がる心地よい魔力にすいと目を細めると、口の周りを舐めた。心身共に効果のある菓子とは、恐れ入る。
「気に入ってもらって良かった!まだ持っていかなきゃいけないから、ルー、また今度ね」
ピクリ。
耳としっぽが不穏な言葉に反応した。
「どこに持っていく?」
「あとはね、サイア爺さんのとこに行こうかなって」
ピクピクッ。
耳が不満げに反応し、尻尾が大きく揺れた。
「何を持っていく?見せてみろ」
「同じだよ?さっき食べたクッキー……ほら、これ!……あっ?!」
サッと風に乗せて袋をさらうと、ぱくりと口でキャッチした。
「ちょっと!ルー!それサイア爺……ああー!!」
爪で袋を引き裂くと、大きな口で一気にクッキーを頬ばった。
「もうー!!ルーの欲張り!」
「あいつには世話になってない。行く必要はねー」
怒ったユータにそ知らぬふりをして、ごろりと横になった。ふむ、腹も心地良いし、よく眠れそうだ。
俺は満足して目を閉じた。
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いつもありがとうございます!
書いてから思ったんだけど、バレンタインのお話って普通主人公の男の子がもらう側だったような……
気付けばユータはあげるばっかりでもらってないことに……かわいそうな主人公……
もふしら書籍版3巻、漫画版1巻(2/23発売)もよろしくです~!閑話がお好きな方は、きっと書籍版にのみついてるSSもお気に召していただけるはず~!
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