第293話 おひげの秘密?

ハッと気付いたら、朝だったわけで。どうにも動かない身体に、昨日やりすぎたことを思い出した。

「んん~ラピス、身体が重いよ……」

―ユータは無茶しすぎなの!危ないの!

ラピスがぷりぷり怒っている。ごめんね、心配かけて。

「ごめんね、つい夢中になっちゃって……でも楽しかったなぁ~。ラピスがここへ運んでくれたの?ありがとう」

どっこいしょ!と気合いと共に身体を起こすと、随分と泥だらけ、お布団まで砂まみれになってしまっていた。

「うわあ……どうしようこれ。とりあえずお風呂行かなきゃ。ねえシロ、オレを運んでくれない?」

『うん!いいよ!』

ひょいと咥え上げてベッドからシロの背中へ下ろしてもらうと、気持ちのいい毛並みにぺたりと伏せる。ティアと回路をつなげば話は早いかも知れないけど、今は慌てる必要もないし、なんとなく、労働の後の満足感のようで、取り去ってしまうのは惜しい気がした。


「ユータおはよう~昨日はどうしたの~?」

「あのね!秘密基地を改造してたんだよ!後で一緒に見に行こうね!」

部屋を出ようとしたところでラキも起きてきたので、目だけきらきらさせて訴えた。ざっくりした所はオレがやったけど、みんなでいろいろ相談して、細かいところを詰めていきたい!みんなのアイディアもいっぱい入れて、最高の秘密基地にしたいね!

「……ユータが倒れるくらい改造したの…?見るのが怖いね~。それで……ああ、お風呂行くの~?僕も行こうかな」

『じゃあラキも乗って!タクトも連れて行こうよ!』

「タクトは授業あるんじゃない?」

「今日は半日休みだーって言ってたよ~」

そっか、それじゃあ……そうだ、それじゃあ3人揃って秘密基地に行けばいいんじゃない?!


「お、おはよう!お前らが朝早いの珍しいな!ユータはなんで泥んこなんだ?」

部屋を覗きに行くと、朝の早いタクトはすっきりと身だしなみを整えていた。布団から出たままの姿なオレたちと大違いだ。

「タクトはいつも早いね!あのね、秘密基地改造したから、今から行こうよ!お風呂もつくったんだよ!」

「おお!改造?!すげー!行く行く!!」

3人でシロの背中に乗っかると、出発進行!ご機嫌なシロの早足で屋根の上を駆け抜け、素晴らしいスピードで秘密基地に到着した。

「あのね、くつろぎスペースと戦闘スペースを分けて、お風呂と妖精さんたちのお部屋と、小部屋をいくつか作ったんだ!」

そわそわしながら説明すると、さあどうぞ!と秘密基地への隠し扉を開けた。

「うわ~すごいね……覚悟はしてたけど、すごいね……」

「うおお!これ全部ユータがやったのか!すげー!」

えへへ!2人が驚きと共に喜んでくれているのを感じて、嬉しくなったオレの頬も上気する。おかげでちょっと元気になった気もするけど、まずはお風呂だ。生命魔法水の温泉に入ってちょっと身体を癒そう。

「おお~!でっかい風呂だ!!すげー!」

「まだ何もないんだけどね、その辺りも相談したいなと思って!お風呂入りながらお話ししようよ!」

得意になって秘密基地を案内して、お風呂場でお湯を張ろうとしてラピスに止められた。

―ユータは魔力が少ないの!無駄に使っちゃだめなの!

そ、そう?確かにこれでまた倒れたら大変だもんね。水を引いてくるなんて真似できなかったから、お湯は魔法で入れなきゃいけないのが難点だね。

でもラピスに頼んだらオレたち煮えたぎっちゃいそうだし。

―ここはオリスに任せるの!

「きゅ!」

オリスはお料理担当としても活躍するから、お湯の温度管理くらい朝飯前だろう……切断担当のラピスとは違う。

「ユータ、このお風呂ってどうやって作ったの~?すごい……これ、石~?」

「そうなんだ!これにすっごく魔力使っちゃったんだけど、つるつるでしょ!露天風呂みたいなのもいいけど、ここはつるつるにしたかったんだ!」

ここらの土は凝縮されると黒っぽい石になるのだけど、それを根気よくなめらかに整えて作った、まるで大理石の浴槽のようにつるりと心地いい手触り。アクセサリーを作った時の経験が活かされたね!でも、相当に魔力を消費するから、もうやらないかな。

ちょっとぬるめに調整してもらったおふろに生命魔法水をとぽぽっと入れて、生命魔法温泉のできあがり!

「ああ~~~う゛~~癒されるぅ~」

温泉の効果は抜群、オレの身体も徐々にシャンとしてきた。

「ちっとも癒されてそうな声じゃないね~」

「うおっ!すげえ、本当につるつるだな!!この水ならエビビ出してもいい?」

いやいや、生命魔法水は入ってるけど、これお湯だから!茹でエビになっちゃうよ!そんなちっちゃいの、食いでがないよ!

タクトを止めつつ、オレたちは浴槽の縁に頭を乗っけて天井を見上げた。浴槽はこだわって作ったけど、お風呂場自体は土壁の殺風景なものだ。3人で大の字に身体を寛げながら、ああでもないこうでもないと話した結果、洞窟風にアレンジすることに決まった。飽きたらまた変えたらいいしね!



「へえ、いいじゃん!吹っ飛んでも衝撃和らげてくれそうだ!」

「うわあ!僕の場所がある~!」

タクトは訓練場の壁が盛り土なのを気に入り、ラキはデスクと棚に囲まれた、加工師ラキの作業スペースを気に入ってくれたようだ。

「あっちは小部屋がいくつかあってね、お宝とか入れられたらいいなと思って!そっちは妖精さんたちが遊べるスペースにできたらいいなと思うんだ!」

「ねえねえ、さっきも気になってたんだけど~、その妖精さんって?」

首を傾げるラキに、はたと気がついた。

「あれ?オレ妖精さんの話してなかったっけ?」

「してないね~」

「そうだな」

2人の視線に笑って誤魔化し、説明しようとした所で気配を感じた。

「あ……」


「あっ!」「ユータだ!」「ほかのこもいる~!」


ふわっと灯った明かりと共に、妖精さんたちが現われた。

「おや、ちょうど良かったかのぅ……うん?なんじゃ、雰囲気がちいと変わっとるような……」

「みんな来てくれたんだね!ちょうど今みんなのスペースのこと、相談しようかと思ってた所なんだ!」

振り返ってタクトたちを見ると、じっとオレをみて不思議そうな顔をしている。そうか、2人には見えないし聞こえないのか……なんだかそれも寂しいな。

「あのね、妖精さんが来てるんだよ!ロクサレンの方で一緒に遊んでた妖精さんと、魔法の師匠のチル爺!こっちでも遊べたらいいなと思って、秘密基地に妖精さんのお部屋を作ろうと思ってたんだけど、どうかな?」

「よ、妖精?!今そこにいるのか?すげー!」

「本当に~?!妖精さんのいる秘密基地!すごい~!それって本当に秘密基地だよ~!!」

きらきらした2人の笑顔にホッと胸をなで下ろす。2人なら反対しないとは思ったけど、これなら妖精さんも安心してくつろぎに来られるね。


「ユータは見えるのか?!いいなー!」

「ねえ、どんな姿なの~?」

「じゃーん!」「ようせいさんだよー!」「みてー!」

オレが返事をする前に、サービス精神旺盛な妖精トリオが隠密状態を切ったようだ。以前に飲んだ生命魔法水の効果はまだ続いているのか、トリオは隠密を切るとある程度の人には見えるようになっている。

「おおっ?!見えたっ!うっすいけど見えるぞ!」

「わあ~!これが妖精さん?かわいいね~!」

どうやら2人もなんとか妖精さんの姿を捉えることができたようだ。

「全くこやつらは……妖精が出たがりでどうする……」

チル爺は2人には見えないので、なんだかブツクサ言いながら拗ねているようだ。

「チル爺、オレにはしっかり見えてるよ!大丈夫!」

さっとラピス用ブラシを取り出して、もっふりしたおひげにブラシを通した。おお、なんだか動物とはまた違った感触……なかなか面白い。

「や、やめんか!」

ぺいっ!とブラシを退けられて口をとがらせたけど、そっぽを向いたチル爺を見て思わず吹き出した。

「ち、チル爺!続き!続きした方がいいよそれ!!あは、あははは!」

「な、なんじゃ?!」

「きゃーチル爺、おひげー!」「うふふっ!はんぶん!」「はんぶんサラサラ~!きゃー!」

めざとく見つけた妖精トリオにきゃっきゃと笑われ、ササッとちいちゃな手鏡を取り出したチル爺が愕然とした。

「ワシのヒゲがー!!」

「大丈夫!全部ブラッシングしたらいいから!ほら!」

その後オレの丁寧なブラッシングにより、もっふもっふしていたチル爺のおひげは、美少女のロングヘアのように、風になびくサラサラヘアーになったのだった。


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