第292話 リノベーション

あれからチル爺が来るかもって時間があれば秘密基地に行っているのだけど、タイミングが悪いのかちっとも会うことが出来ないでいる。のんびりな妖精さんたちのことだから、まだ来てない可能性も高そうだけど……。

「今日も来ないね」

殺風景な床に座り込むと、同じくお座りしたシロに背中を預けてもたれかかった。

『来ないね~匂いもしないから、多分来てないと思うよ』

シロがゆっくりと床に横たわって、巻き込まれたオレもころんと寝転がった。サラサラの毛並みに頬を押しつけると、大きな顔が近づいて、おでこにひやりと濡れた鼻が押しつけられた。

「ふふ、冷たいね」

『ユータは全部あったかいね』

ちょっぴり湿ったおでこを、今度は熱い舌がぺろりと舐めて、シロは拭ったつもりのようだ。クスクス笑って大きな頭をぎゅっと抱えると、優しいフェンリルはフスーッと満足気に鼻を鳴らして、ふぁさふぁさとしっぽを振った。


『……大きいのも、いいわね……』

特訓をしていたらしいモモが戻って来て、どことなく羨ましそうにシロを見た。

『ありがとう!ぼく、大きいの好きだよ。でも、モモみたいに小さいのも好きだよ!』

ぺろぺろと大きな舌に舐められて、モモは慌ててオレのお腹の上へ避難してきた。

『私のふわふわボディがべちゃべちゃになっちゃうわよ!そうね、大きいのも素敵だけど、小さいのもいいわ。ゆうたの上に乗れるしね』

「ムゥムゥ!」

その通り!と言いたげに、胸ポケットのムゥちゃんがピッと片手を上げた。


『スオー、中くらい。中くらいも好き』

ぽふっとオレの胸元に飛び込んで来た蘇芳の大きな耳が、ふわふわとオレの首元をくすぐって思わず首をすくめる。頭を撫でると、大きなお耳もオレの手に合わせるようにぺたりと倒れた。

「そうだね、小さいのも中くらいも大きいのも、みんないいと思うよ。オレもみんな好きだよ」

正直、どんな姿だって愛しいと思うよ。例えゴブリンになっていたって、きっとみんな好きだよ。


―ラピスも甘えたいの!

「ピピッ!」

ぽふぽふっと両頬に柔らかな衝撃。小さな2匹を、両手の平にすくいあげるようにまとめて乗せると、まるで顔を洗うようにもふもふに突っ込んですりすり!

きゃっきゃと喜ぶ2匹に、オレも大満足だ。

『俺様……俺様は……大人だし……立派な戦士だし……』

モモと特訓していたチュー助も戻って来ているけど、なぜかちょっと離れた所でぽつねんと立っている。そのつぶらな瞳はうるうると涙をためて、今にも決壊しそうだ。

「どうしたの?チュー助、おいでよ~」

『わああん』

プライドが高い……らしいチュー助は、普段好き勝手しているのに、急に遠慮し出したりするから不思議だ。チラチラとこちらを見ては拳を握っていたねずみは、両手を広げ、短い足で一生懸命てててっと走ってきた。そういう時くらい、4つ足で走ってもいいんじゃないかな。

オレの腰あたりにしがみついて、嬉しそうにきゅっとしがみついたチュー助。誰より甘えん坊なのに、困ったものだ。短い柔らかな毛並みをするりと撫でると、お腹の上、モモの隣にそっと乗せた。

『でへへぇ』

『チュー助……顔が崩れてるわよ』

大の字になっているチュー助は、溶けそうな顔のまま、さっとほっぺを押さえた。ほっぺが落ちちゃうのは美味しいもの食べた時だと思うよ?

妖精さんたちは来ないけど、こうやってみんなと過ごすのもいいなあ、なんて贅沢なんだろうね。

「そうだ、せっかくだから聖域の子も喚んでここで遊んだらどう?」

ラピス部隊とは普段あまり触れあえないから、こういうのんびりした時に喚んであげないと。

―うーんと、じゃあみんな喚ぶの。

ラピスの『集合ッ!』の号令に合わせて、ぽぽぽぽっ!と部屋中に次々と管狐が現われる。

「わあ~こうして見るとたくさん……うん……思ったよりたくさん……だね」

やっぱり増えてる……分かってたけど。

―セリスまで来たの!でも、ユータもたくさん魔法使うようになって、ちょっと増えるのはゆっくりになったの。……あと、ごはん美味しいからラピスもそんなに魔力食べないの。

どちらかというと後半の理由の方が大きい気がするけど、これ以上管狐をぽんぽこ増やしても面倒みきれなくなっちゃいそうだもん、ゆっくりゆっくりにしようね……。

―ユータが面倒みなくていいの!これはラピスの部隊、面倒みるのは隊長の役目なの!

むん!と胸を張って鼻先を上げたラピス隊長、随分と立派なお言葉だけど、ヤキモチが透けて見えるのは気のせいだろうか。


ひとしきりあったかなもふもふ達とごろごろのんびり過ごしていたけれど、とびきり活発な管狐たちは、だんだん退屈になってきたようだ。ラピスの猛特訓も、この子たちにとっては激しくて楽しいお遊びなのかもしれないね。

『落ち着かないわね……』

きゅっきゅ言いながら転げ回ったり飛び回ったりする小さな管狐たち。微笑ましい光景ではあるけど、たまに飛んでくる魔法に、ヒュンヒュンっと間近をすり抜ける高速飛行は、中々にスリリングでとてもリラックスできる状況ではない。管狐たちを忙しく目で追う蘇芳は、そろそろ首がもげてしまいそうだ。

『隅っこに遊び場でも作ってあげたらどう?』

「あ、それいいね!管狐版アスレチックみたいなのがあると楽しいかも」

そうだ、もうちょっとこの殺風景な秘密基地を改造しようかな!そうそう、妖精さんたちの遊び場や居場所もあれば、来て寛いでもらえるなって考えていたんだっけ。

こんな銃撃戦のさなかみたいな所でも、すやすや寝ているティアとチュー助をそっとシロに乗せて、うーんと伸びをした。


「うーん、タクトの戦闘訓練で結構スペース使うし、もうちょっと秘密基地を拡張しようかな」

一応、秘密基地の中には訓練場スペースと、キッチン、休憩スペースがあるのだけど、土はむき出しで、土魔法で作ったあれこれがあるくらいだ。せっかく秘密基地があるのに、改造を忘れていたなんて!もっと快適に、もっと秘密基地らしく!考えるとなんだかワクワクしてきた。ここなら誰にも見つからないし、怒られない!だって『秘密』基地だもの!!

「その都度作るんじゃなくて、作りつけの温泉みたいなのがほしいな!休憩スペースも快適にしたいし……あとお宝を入れるひみつの倉庫もいるよね!武器庫と、食料庫と、あと……本棚は小さくていいかな?」

『武器庫って……武器なんて今持ってる分しかないじゃない……お宝なんてあったかしら?』

「いいの!宝箱にね、金貨と魔石なんかを入れておくんだよ!素敵でしょう?!ずーっと後でここを発見した人が大喜びするよ?!うーん武器は……じゃあ格好良く飾れる棚を作ろう!」

『……誰のための宝箱置よ…』

モモの呆れた視線を置き去りに、オレはせっせと額に汗して動き出した。繊細なことはできないけど、管狐たちも手伝って、着々とリノベーションが進んでいく。

「せっかくこだわりの休憩スペースがあるんだから、訓練場とは区切った方がいいよね?タクトが吹っ飛んできたらイヤだし」

ラピスと訓練したら、容赦なく吹っ飛ばされてきたりするからね。お料理の上にガシャーンなんてことになったら大ブーイングだもの、ちゃんと壁を作ろう。

『タクトが壁にぶち当たるのはいいのね……』

……タクト、結構丈夫だから。ま、まあ大けがしたら危ないから、壁の内部は盛り土にしておこう。


その後調子に乗って魔力を使いすぎたオレは、唐突にぶっ倒れてラピスに強制送還されたのだった。


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