第271話 海人の里

「そうだ、ナギさん、前に言ってた調味料見つかったんだよ!探しててくれてありがとう」

「ソウか、それは良かっタ。ワレは料理がわからんが、ワレの里にもマダ珍しいものはあるだろウ。命の恩を返せぬままは心苦シイ。海人の里にも来てもらいたいものダ」

「えっ…海人の里に行けるの~?」

ラキが驚いてナギさんを見つめた。海人の里…海産物が豊富にありそうだよね~!昆布があるんだから乾燥させた海藻類なんかもあれば嬉しいな。命の恩なんて…回復魔法かけただけなのに至宝までもらっちゃったことで十分じゃないだろうか…何より昆布と鰹節!おだしになるものを見つけてくれて本当に感謝している。

「オウ、興味があるか?来るがいいとも、ワレが案内しよウ」

「うわーすげえ!海人の里だって!行きたい!行こうぜ!」

タクトが飛び上がってオレを振り返る…行くって…今から?!

「そんな急に…?!それはナギさんも困っちゃうでしょう?今も急に呼び出しちゃったし、おしごととか大丈夫…?」

「フハッ!そんなことを気にしていたのカ、構わヌ、ヌシ達が来られるならすぐにでも。ユータは無理にでも連れて行かねば来てはくれぬからナ」

そんなこと…ないと思うけど……。タクトは今すぐ行こうと騒ぐし、ラキは素材の宝庫に想いを馳せてきらきらしているし、ナギさんは力尽くで連れて行こうか?なんて笑うし…行くことは決定しているようだ。


さすがに今からは突然過ぎるし今日の分の宿代も払っちゃったので、とりあえず明日宿を出てからにしようってことでまとまった。ナギさんとバイバイしてから、オレたちはそわそわしながら街を歩く。

「すげえぞ!海人の里に行けるヤツらなんてほとんどいないんだぞ!ユータ、お前ってすげえな!」

「でも交流はあるんでしょう?普通に行けないの?」

「普通には行けないんだよ~認められた人しか…だって海人の鱗とか色々珍しいものがあるから~特に冒険者なんて危ないってことで入れてはもらえないんだよ~」

そうか…海人を傷つけても鱗を取ろうとする人がいるかもしれないもんね…。海人はお魚ほど長時間水中にいられないから、海中の施設もあるけど、基本的に水面に出ている建造物がほとんどだって。特に子どもはまだ泳ぐのも息継ぎも下手だから、普段は陸にいるそう。

「海用の道具を買わないといけないね~」

「水着とか?」

「なんでだよ、魔道具だろ?もし水中戦闘になったら溺れちまうからな」

ああ、教科書に載ってた気がする…まだ習ってないのに、タクトってそういう所はよく見ているんだから…。確か水中での呼吸のためにくわえて使う、手のひら大の魔道具だったはず。

「港町だから、水中活動の魔道具はぜったいあると思うよ~」

新たな冒険の道具を探しに、オレたちはワクワクしながら魔道具屋さんに飛び込んだ。


「わ~色々あるね!防水の収納袋なんかもある!収納袋って水に濡れたら…もしかして水を収納しちゃうの?」

「そういうこともあるみたいだよ~!ユータのは大丈夫~?」

「オレ?……うーん、たぶん大丈夫!」

オレのは収納魔法だし…収納しようと思わなければ水が入ったりしない…はず。

「あ、これじゃねえ?うわ、高っ!」

タクトが示したのは確かに水中呼吸の魔道具…そもそも安いとは思っていなかったけど、確かにお高い…。せっかく貯まってきたオレたちのパーティ貯金が結構ごっそり減ってしまう…。

「でも仕方ないよ~変なお店で変な物を買って、もし使えなかったら死んじゃうし~」

「うん…買えないわけじゃないもんね」

「よっし!また稼ぐぞー!これがあれば水中の依頼も受けられるもんな!みんなより一歩先に行ってる感じでいいじゃん」

確かに!オレたちの冒険者レベルでこの高価な装備を持っている人は少ないんじゃないかな?今後の練習もできるし、行動範囲が広がるのはいいことだね。


「お前さんたち、海に入るのかい?このあたりは安全な方だけど…さすがに危ないと思うぞ?これがあったって泳げなかったら意味ないんだからな?」

魔道具店のおじさんは、大金を出したオレたちに少し驚いたあと、心配そうな顔をした。

「大丈夫です~、念のために買うだけで水中探索とかじゃないから~」

「そうか、それならいいが…ところでお前さんたち防水はすませたのか?向かいの店でしてくれんならちょっとサービスしとくぜ!」

「防水…?」

「あ、忘れてた~!」

どうやら向かいのお店は魔道具店のおじさんの娘さんが経営しているそう。割引券をもらったので素直にそこで防水の魔法をかけてもらった。防水の魔法をかけておかないと、装備が錆びちゃったりするんだって。

「はい、装備はこれで全部?これなら安くすませられるわよ~」

店内の魔方陣に剣や皮鎧なんかを載せて、お姉さんが長い詠唱を唱えると、ふわっと光って防水処置完了らしい。それなら服ごとかけたらいいのにって思ったけど、水分を吸収しやすいものにかけるのは難しいそう。


「よーしこれで準備完璧だな!」

「うん…多分大丈夫かな~」

「何かあったら戻ってこられるしね」

あの至宝の貝を使って行けるそうだから、忘れ物しても取りに帰れるんじゃないかな。

「オレはちょっとナギさんたちにお礼したいし、さっきの浜でお料理しようかな」

「お、何作るんだ?俺も食う!」

ナギさんたち用だからね!オレたちは宿の夕食があるんだから…。ナギさんは以前おいしいって食べてくれたから、オレたちと味覚にそう差はないんだよね…なんせ昆布と鰹節のあるお里だもん、やっぱりそれを使ったお料理がいいのかな?でも…日常的に食べているものを出されてもうれしくないよね。

「何でも美味いからだいじょぶだって!俺、肉がいい!」

「僕、お菓子がいいな~!ほら、クッキーとかだと気軽につまめるしいいんじゃない~?」

……二人とも、それ自分が食べたいものでしょう…。

でもナギさん結構もりもり食べるから、がっつりお肉でいいのかもね。海人のお里だとお塩は豊富にありそうだけど甘いものは少なそうな…そんなイメージだからお菓子も喜ばれるかも。


「よしっ!じゃあ作ろうかな!ラピス部隊、おねがい!」

「「「「「きゅっ!」」」」」

さあいくよっ!キッチン展開!!かまど、5セット!オーブン窯起動!

皆の者!暗くなる前に作り終えるぞ!

―鍋の水オーケーなの!

『チュー助、隔離完了よ』

『スオーもお手伝いする』

ラピス調理部隊はそこらの料理人顔負けの成長っぷりだ。以心伝心、簡単な指示で完璧に補助をこなしてくれる。蘇芳は…とりあえずポテトチップ用のお芋を洗ってもらった。タライの横にぺたんと座り込んでちゃっぱちゃっぱと洗う姿は真剣そのものだ。楽しそうに見えるのか、ティアも蘇芳の頭に乗ってのぞき込んでいる。


「火の守部隊!」

「「「きゅっ!」」」

「右から順番にとろ火、ぐつぐつ、揚げ物、オーブン準備!」

「「「きゅっ!」」」

一通りの準備と流れを終えて、ふうっと額の汗をぬぐった。材料を揃えたり味付けなんかはオレがやるしかないけど、実際の調理はお任せできるレベルだ。こういう時に召喚士や従魔術士でよかったなって思うよね。

「やりたい放題やってんなぁ…」

「いくら人通りが少ないって言ってもね~」

『大丈夫!ラピスが見つかりにくくする魔法かけてくれたよ!あ、お魚!』

二人はオレを見ているだけで疲れると言うので、渡した釣り具セットでのんびり魚釣りをしている。シロに体を預け、ずいぶん快適そうだ…。せっかく海に来たんだから、食べられるお魚、いっぱい釣っておいてね!



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