第268話 護衛道中4
「ユータ、今日のごはん何~?」
「オレ、肉がいい!」
すっかり料理番になってしまったので、休憩所についてからのオレは忙しい。さて、今日は道すがら捕れた獲物も多かったし、何にしようかな?
「あの茶色いピカピカの肉をくれ!」
「焼いたやつがいい!塩胡椒だ!!肉を焼いてくれ!」
「しっかり食えるのこれで最後だろ?とりあえずいろんなもの出してくれ!」
タクトたちに続いてあちこちから声があがり、ぎらぎらした目で詰め寄られ、オレは思わずじりじりと後ずさっていく。
「え、えっと…キジ焼き丼?照り焼き系にしたらいいかな…?」
「ダメだ!いや、あれも美味いが違うモノも食いたい!」
「いいや!あれももう一度食いたい!!」
ぎゃあぎゃあとケンカになりそうな勢い…分かったよ…色々食べたいものがあるんだね…。
「時間、ちょっとかかってもいい…?」
「「「「「おお!!!」」」」」
* * * * *
「はい、できたよー!みなさんどうぞ~!」
「「「「「おおおおおお!!」」」」」
ふう、と一息。ラキとタクトにこっそりラピス部隊にも手伝ってもらって作った、ずらりと並ぶ品々に、商人さんも冒険者さんも目を輝かせた。
「みんな好きなもの食べられるようにセルフ形式だから、自分で好きなもの挟んで食べてね!ごはんが欲しい人はこっちにあるからね」
「「「「「うおおおー!」」」」」
ガッ!!と台に群がる面々に慌てて声をかけたけど、聞いているだろうか…。
今回はいろんなものを食べたいってことで、セルフサンドウィッチ形式にしたんだ。照り焼き系からシンプルまで色々な調理法のお肉、そぼろ風や卵にサラダ、スパニッシュオムレツ風なんかもある。
卵はオレの収納から出したものだけど、商人さんが結構な額の料理人報酬を出してくれたから、オレの懐は痛まない。ついでに収納袋を売ってくれとも言われたけど。
一応、依頼者である商人さんたちと分けた方がいいだろうってことで、台は2カ所に分けてある。ちなみに今回も他の冒険者さんたちは有料みたいだ。
「うわ~こんな食べ方もあるんだね~!楽しい~」
「見ろよ!俺スペシャルだぞ!」
セルフ形式ってパーティっぽくて楽しいよね!でもタクト…それはもう挟むってレベルじゃなくなってる気がするけど…。せっかくだからもっとパーティっぽくしようと思ってポテトフライなんかも盛ってある。
オレはまずはローストしたお肉にお野菜もたっぷり、たれはもちろん醤油ベースのものをかけて…大きなお口でかぶりつけば、案外柔らかいロースト肉と、シャキシャキしたお野菜が見事にたれと混じり合って、素朴なパンが突如高貴な食べ物に変わったみたいだ。
幸せ顔で小さな口いっぱいに頬ばっていたら、無言でひたすらパンに肉を詰めているウッドさんが視界に入ってしまった。
「ウッドさん…お野菜も入れた方が美味しいよ?」
「……何をどう入れたらいいかわからん」
普段も戦闘の時もあんなに頼りになるウッドさんが、なんだか困った顔で途方にくれているのはちょっと面白い。オレの方ができることもあるんだなって思うと得意になっちゃうね。
「オレが作ってもいい?お肉がいいんだよね?」
「ああ。…肉でなくても構わん」
きっとたくさん食べるだろうウッドさんのために、ユータスペシャルを作ってあげよう!栄養バランスもちゃんと考えてね!
こってりお肉にアボカドっぽい脂質成分たっぷりの野菜(?)を挟んだ、禁断のこってりサンド、バランスばっちりたまごとサラダのサンド、ちょっぴり繊細な味わいのロースト肉とハーブサンド、あとは…。
ふと気付けばみんなが手を止めてじっとオレの手元を見つめている。
「ど、どうしたの?」
「いや、ユータが作ってるやつが一番美味いだろうと思ってな」
そ、そう?セージさんも自分の好きなように食べたらいいと思うよ?
大皿にいっぱい盛ったユータ特製サンドをウッドさんに渡すと、嬉しそうなウッドさんは、そそくさとテーブルを離れて隠れるようにして食べはじめた。そんな、誰も取らな……
「リーダー!それ、ちょうだい!!俺のあげるから!交換!!」
「私それ欲しい!ね、私の手作りと交換しましょうよ!」
「おやおやおや、さすが仕上がりもきれいなもので…ほら、肉があればいいんだから私のこれとかえっこしよう」
………取られそうだね…ウッドさん、頑張って。ところでオリーブさんとディルさん、何入れたらそんなでろでろしたものになるの…?
食事が一段落したあたりで、ポテトフライ戦争が勃発したみたいだけど、こっちの人は本当にみんな胃が丈夫だ…お腹いっぱいになってからよくそんな油モノを食べられるね…。ちなみにあれもこれも全部ロクサレンで作ってるって言っておいた。
* * * * *
「明日無事に着いたら依頼達成だね!」
「長い依頼って結構楽しいな!」
「うん、今回はいい人たちと一緒だったしね~」
テントの中で、オレたちは額をつき合わせてお話中。中央に置いたランプの灯りがゆらゆら揺れて、テントに大きな影を映し出している。
「港町か…楽しみだな!ちょっとゆっくりしていくよな?」
「そうだね~せっかく来たんだしね~学校にも結構余裕もって申請してるし、タクトの勉強さえできればいいんじゃない~?」
ぐはっ!と突っ伏したタクトから、しだいにすうすうと寝息が響き始める。今日は張り切って戦闘していたもんね…相当疲れただろう。
「あふぅ…僕たちも寝よっか~。ねえ、港町についたら…また、おいしいの…食べよう、ね…」
まだまだあどけない二人の寝顔。こんな小さいのに、一人前に冒険者として依頼をこなして…たくましいなあ。
うとうとしているラピスとティアを撫でながら、気持ち良さそうに眠る二人を見ていると、しだいにオレのまぶたも重くなってくる。慌ててランプの火を消せば、今度は外で揺れるたき火の灯りが、テントにほのかな影絵を描いた。
『ゆーたも早く寝なきゃだめだよ~』
テントの外で伏せていたシロが首をもたげ、テントの中にぼんやりと大写しになった。
「うん…ありがとう」
もう一度二人とラピスたちの心地よさそうな寝顔を眺め、シロの影を眺め、なんだか幸せな気分で瞳を閉じた。
「みんな、おやすみ…」
* * * * *
『ほらほらっ!みんな起きるのよ!!私はテントを畳めないんだから!起きてちょうだい!』
―ユータ、良いお天気なの!起きるの!
もふんっ!まふんっ!!
モモの柔らかアタックと、ラピスのしっぽアタックで起こされたオレたちは、寝ぼけ眼をこすりながらなんとか出発の準備を終えた。もう面倒になっちゃって、こそっとテントをそのまま収納に放り込んだけど…後で、また後で畳むから…。
昨日作っておいた朝食用サンドを頬ばりつつ、今日は馬車に乗り込んだ。海も近くなって草原の草丈も随分低くなり、魔物も盗賊も襲撃のおそれはかなり低いってことらしい。
「俺…俺……走りたいぃ…」
「せっかく乗せてもらってるんだから!」
「はいはい、遊ぶために頑張ろう~」
これ幸いとタクトの勉強時間にあてながら、一路港町を目指すオレたち。『黄金の大地』メンバーともお別れかと思うと寂しいなあ。
「またハイカリクに戻ってきたら、魔法のことをもっと色々話したいね」
「私たちもたいていはハイカリクにいるんだし、これからもよろしくね!あなたが受けてる集団依頼なら絶対受けるわ!」
「おうよ!美味い飯付き決定だもんな!戦力も十分だしよ!」
嬉しいけど、そういうのはウッドさんが決めるんじゃないだろうか…寡黙なウッドさんは何も言わないけど、同意しているような気配は感じる。ほとんど会話できなかったけど、どこか仲良くなったような気がするのは、ウッドさんから漂う雰囲気のせいだろうか…なんだか認めて貰えたようで嬉しいな。
「着いたーーー!!」
「やった~!」
「わ~けっこう大きな町だね!」
港町とは言うものの、ヤクス村みたいな場所を想像していたんだけど、予想よりも大分しっかりとした町のようだ。人通りも多いし、何より建物や道路が立派だ。
オレたちはあれからたいした魔物の襲撃を受けることもなく、途中馬車に乗り込んだおかげで、予定より少し早く港町の門をくぐることができた。
「『希望の光』、この名前、しかと覚えさせていただきました。指名しますよ、次からは…。あなたたちは十分に冒険者で、十分に依頼をこなし、金にがめつい商人から多額の追加報酬を得たとギルドにも報告しておきましょう」
商人さんは、満足そうな顔でオレたち一人一人と握手し、戸惑うほどの報酬を渡してくれた。学校の顔もあるだろうし、遠慮しようとしたのだけど…
「なに、これは有望な冒険者へのつなぎとして必要な投資です。商人は無駄な金は使いません。全て、ゆくゆくは我ら自身のために。私はガナガン商会のラップリン、どうぞお見知りおきを」
気取ったしぐさで礼をした商人さん…ラップリンさんは、そのまま振り返ることなく立ち去っていった。
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