第265話 タカラオシエの宝
魔寄せの呪いがなくなったので、効果はすぐに現れた。こちらへ引き寄せられたのは当然ながら地中にいる魔物ばかりだったので、好んで明るい方へ向かっては来ないようだ。
「ふぅ~、助かった。延々と来られちゃたまんねえもんな」
無駄に命を奪うことにならなくて良かった。地上の方も順調に魔物は減っているようだ。
「でも…タカラオシエのお宝ってこの呪晶石だったの?」
「それはないと思うんだけど…どちらかと言うと動物はこれを嫌うもの。それに、埋まっていたんでしょう?」
「この場所を示してたんだろ?他に何かあるんじゃねえ?せっかく下りてきたんだから探そうぜ!お宝お宝~何かないかなーっと」
オリーブさんとセージさんは地上そっちのけで周囲を探索し始めた。
『ゆーた、こっちはもう大丈夫だと思うよ』
どうやらシロが活躍するまでもなく、魔物の撃退を終えられそうな様子だ。じゃあオレもこっちで探索しようかな?でもまずは…
「ねえ、ここ塞いだ方がいい?」
「そりゃいいけど…ってそうか、ユータは土魔法が得意だって言ってたもんな。その辺りは何もないか?」
魔物が襲ってきた横穴は、獣っぽい匂いがするだけで何も見当たらない。そもそもタカラオシエが示していたのは縦穴の方だもの。
『宝探し~!俺様も参加する!』
横穴を塞いだら、これで安全と判断したらしく、チュー助が嬉しそうにかけ出して行った。小さいから地面に何かあったら見つけられるかも知れないね。
「どうだ?」
「あら、リーダーそっちは大丈夫?何もお宝は見つからないわね~」
「ユータは無事か?」
「もちろんよ!この子、普通に強いんですけど?!ちょっとそっち上がって色々話したいわ!」
信頼関係があるんだなぁ…ウッドさんは二人が無事かどうかは聞かないんだね。そして何もないって聞いた商人さんのガッカリ顔が目に浮かぶようだ…見つけられなくてごめんね。
『えーもう宝探し終わり?俺様もうちょっとここであそ…探索続けたい!』
チュー助がテテーっとオレから離れて行ってしまう。そんなこと言って…置いて行っちゃうよ?
「あら?何か足元を…え?ね、ねずみ?!」
しまった…オリーブさんはねずみが苦手なのかも…?!慌てて駆け寄るのと、悲鳴と共に剣が振り下ろされるのはほぼ同時。
「チュー助!」
キィン!
軽い音をたててチュー助の脇を細い刃が滑り落ちた。
よかった…シールドが間に合った。チュー助は下位の精霊だもん、オレの魔力を使っていなければただのねずみ同然…普通に討伐されちゃうところだ。
『…………』
ぺしょんと尻もちをついたチュー助が、涙をいっぱい貯めた目でふるふる震えてこちらを見つめている。ごめんね…ねずみが苦手な人もいるってことを忘れていたよ…。
「えっ…なんか服着てる……えっと……その、もしかして…」
「お前…それ明らかに普通のねずみじゃねえじゃんか。これもユータの?あっぶねー!逸れてよかったな…」
駆け寄るとチュー助がバンザイ体勢をとったので、やれやれと抱きあげる。どうやら腰を抜かして動けないらしい…よっぽど怖かったんだろう、オレの胸元にひしっとしがみついてふるふるしている。
「そ、その…ユータくんのペットなの?ごめんなさい…」
「ううん、オレこそごめんね、びっくりさせて」
―チュー助、あれぐらい避けないとダメなの。
普通のねずみにCランク冒険者の剣が避けられるだろうか…ラピスの鬼特訓が展開されないといいけど。
よしよしとなでていると、どうやら震えはおさまったようだ。
「ユータ、先に上がってくれるか?」
「あ、はい!」
残念だけど地上へ戻ろう。ロープの下ろされた場所まで行くと、天井から降り注ぐ日の光が随分とまぶしく感じた。
『あら…チュー助、あなたキラキラよ?』
「え…ホントだ。これ何?わ、オレの手も!」
『なになにっ?!俺様に何ついてるの?!取って!取って!!』
すっかり怖がりモードになったチュー助がバタバタと暴れまわり、そのたびにキラキラしたものが舞い散っていく。チュー助をなでていたオレの手のひらもキラキラだ。
「もしかして…」
はたと思い当たったオレは、ロープを放り出すとさっきの薄暗い場所まで駆け戻った。
「ユータ?どうしたんだよ?」
「あのね…これ、お宝じゃない?」
小さな両手いっぱいに砂をすくって慎重に光の下へ歩いて行くと、やはり…。
―このお砂きれいなの!
『まあ!砂金かしら?』
オレの手のひらには輝く金色の光。さらさらの砂状になっているけれど、探せばもう少し大きなかけらだって見つかるだろう。もしかして、これが…
「見つけた!見つけたぞぉーー!!お宝だ!砂金があるぞ!」
「探しましょう!粒が小さすぎるけど純度は高そうよ!」
砂金…そうか、これがお宝だったんだね。でも、タカラオシエ、こんなのよく見つけたね…。
「素晴らしい!そこそこの粒もありますな。一攫千金、とまではいきませんが、十分、十分ですよ」
どうやらこの竪穴は、大昔の川…その滝があった場所のようだ。滝つぼに砂金が溜まっていたんだね。
商人さんは持って上がった砂金を見て、満面の笑みだ…なんだかツヤツヤしている。
ホホゥ!ホホゥ!
「ああ、そうですなぁ…今回はこのくらい、『報酬』でいいでしょう…そうれ!」
ご機嫌な商人さんは、砂金をいくらか小袋に詰めると、樹上のタカラオシエに放り投げた。
ホゥ!ホホゥ!ホゥ!ホゥ!!
ところが、タカラオシエは小袋をぽいっと投げ返すと、そわそわと行ったり来たり、枝を揺らして何やら必死に訴えている。
「もっと寄越せと…?なんと強欲な…それで納得しないならもうあげませんよ?」
商人さんが憤慨しているけれど、そうだろうか?タカラオシエは、違う、と言っている気がする。砂金より、もっとすごい宝物があるの?
再び穴をのぞき込むオレの背中に、タカラオシエの必死の鳴き声が響く。
「…ん?シロ!ねえ、あそこ…」
『うん、いるね!連れてきたらいいの?』
さっきまで特に意識していなかったけど、何も生き物がいなかったはずの竪穴の壁面に、ささやかなレーダーの反応。
『…ユータ!助けてあげて!』
反応のあった場所へ向かったシロが、何かを咥えて慌てて戻ってきた。
ホゥ!ホゥ!ホゥ!ホホゥ!
そっか、君の宝物はこれだったんだね。大丈夫、待っててね。
「ユータ…それ、もしかしてタカラオシエか?あいつの…友達?」
「ちょっと小さいね~……死んじゃってるの~?」
タクトとラキがオレの手元をのぞき込んで顔を見合わせた。ぐったりとしてピクリとも動かないその小さな体に、二人が不安そうな顔をする。やや小さくやせ細っているけれど、これはタカラオシエに違いない。
「大丈夫、生きてるよ!」
だいぶ弱ってはいるけれど、ちゃんと間に合った。ゆっくりと点滴魔法で回復させると、毛並みは艶を取り戻し、浅く速かった呼吸はゆったりと健やかなものに変わった。これからしっかり食事をとれば、もう大丈夫だろう。
「なんと…タカラオシエのつがいでしたか…よくわかりましたね。」
商人さんたちもオレたちの様子に気づいて集まってきた。
「うん、きっと…あのタカラオシエの宝物は…」
「そっか…大切なつがいの相手だったのね。よかった…無事で」
ざわざわしだした周囲に、腕の中のタカラオシエはゆっくりとまぶたを上げ、大きな瞳をぱちくりさせた。
ホ!?ホホゥ?!
途端に飛び上がって驚くと、あっという間に木に駆け上がってしまった。それだけ元気なら大丈夫そうだね。
ホゥ…ホゥ…
ホホゥ…
何を話しているんだろうね?矢のように飛んできた大きい方のタカラオシエが、きゅっと体を寄せて額をすり合わせた。
「見せつけますねぇ、ま、君たちに今必要な報酬はこれでしょうな」
商人さんが、今度は大きめの袋を投げ上げて、木の枝にうまく引っ掛けた。
「あれは?」
「食べ物ですよ。金よりも必要なお宝は、きっとそれでしょう」
「そっか…そうだよね」
小さいほうのタカラオシエが砂金を見つけ、自分で取ろうとして滑り落ちたんだろうか。まだ若そうだったから、ちょっと無茶したのかな…足が折れちゃっていたから、どうにもできなかったんだろう。砂金は手に入らなかったけど、命は拾えたから許してくれるかな?
「おっちゃん、そんなこと言って、俺見たぜ!あんたさ、砂金の袋も入れてやってたじゃん」
「おや、間違って入れてしまいましたか…それは残念なことをしました」
オレはちょっと驚いて商人さんを見つめると、ふわっと満面の笑みになった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます