第264話 当たり?

商人さんが取り出した白い石ころのようなものを、熱心に見つめるラキ。

「どうしたの?」

「あれがシールドの魔道具だよ~!高いからこういう時にしか見られないと思って~」

そうなのか…確かにお手頃価格で売っていたら護衛が減らせるもんね。でもそんな高価な物、こんな機会に使って良かったのかな…ハズレかもしれないのに本当にギャンブラーな商人さんだ…。

「いいじゃん!こういう時に使わなきゃいつ使うんだよ!」

「襲撃を受けた時だと思う~」


オレたちはシールドの発動を確認後、連れ立って探索に向かう。馬車には連絡係の商人さんが一人だけ残って、本当に総力をあげての探索だ。

ホウゥ…ホゥ…

タカラオシエが、導くように鳴きながら樹上を渡っていく。時々確認するようにこちらを見ているから、やはり何かの元へ案内しようとしているのだろう。

ウッドさんが先に立ち、道を切り拓きながら結構森の奥地まで進んだ所で、タカラオシエが動かなくなった。

ホゥホゥ…ホゥホゥ…

ここにあるって言ってるじゃないか、早く見つけてくれ、そう言われている気がする。

「やはり、ここですか…何か、何かあるはずなのです…もうハズレでもいいので見つけないことには納得できません!皆さん、お願いしますよ!」

どうやらピタリと昨日と同じ場所だったらしい。目印に結ばれた布きれが揺れている。

魔物が来ると危ないので、探索範囲を囲むように外側が冒険者担当、その内側がオレたち、さらに中心部が商人さんたちの探索範囲だ。

木のように大きなものかもしれないし、宝石のように小さなものかもしれない。何を探せばいいのかわからないのは中々難しいものだ。木々は生い茂っているし、大きな岩もごろごろしていて、隅々まで探すというのは困難な場所だ。

「いい素材~いい素材~」

「宝が隠されそうなとこ…不思議な出入り口……」

しばし集中して探したけれど、やっぱり何も見つからない…。うーんと伸びをして振り返ると、下ばっかり見ていて二人から随分離れちゃったみたいだ。どうやら二人はかなり捜すものを絞っているようだ…それもありかもしれないね。

『何を探すか分かればぼくが見つけられるのに…でもね、蜂蜜ではなさそうだよ?甘い木の実もないみたい。このあたりに美味しそうな匂いはないよ』

そっか…シロがそう言うなら間違いないのだろう。ちょっぴり残念に思いつつ、小さな身体を活かしていろんな隙間や藪の中を中心に探していく。


ホホゥ!ホホゥ!

ん…?藪をくぐろうとしたところで、なんだかタカラオシエの鳴き声が変わった気がする。

「こっち…?」

ホゥ!ホホゥ!

決して近づきはしないけれど、そうだと言っている気がする。固い藪に四苦八苦しながら、四肢をついて這うように藪の中を移動していると、ぼこっと右手が支えを失った。

「えっ…?」

ぼこっ…次いで左手も空中を掴み、途端に襲ってくる浮遊感。

「へっ?わああー!?」

「きゅ!」

『ゆうた!』

咄嗟にモモがシールドを張り、シロがオレの襟首をくわえた。光の矢のように先行したラピスが安全を確認してくれたよう。

たん、とん、たーんと危なげなく着地したシロの口元で、ぶらんぶらんと揺れる…視界も揺れる…。

「あ、ありがと…大丈夫だよ」

下ろしてもらって見回すと、どうやら藪の下は空洞になっていたようだ。地上までは2階建ての家くらいの高さだろうか。見上げると、オレが落っこちた穴からぼろぼろと崩れていっているのが分かる。

「ユータ?!どこだ?!」

「ユータ~!!」

しまった、オレが悲鳴をあげたもんだから…。ラキたちも落ちたら大変だ。

「だーいじょうぶーー!!…シロ、急いで上がれる?」

『大丈夫だよ~』

シロは勢いよく走り出すと、らせんを描くように壁を登って地上へ飛び出した。

「シロ!ユータは?」

『あのね、穴が開いて落っこちたけど、なんともないよ。崩れてきてるから、近づいちゃダメ』

「穴…?もしかしてタカラオシエが示した場所って…」

ホゥ!ホホゥ!ホホゥ!

見上げればせわしなく鳴きながら落ち着かない様子のタカラオシエ。



「これは…こんな所に縦穴が…見つからないはずです。どうですか?下りられそうですか?」

「いけるだろう、早く助けださんと穴が崩れるかもしれん」

「そうですね…でも、何があるか探さなければ」

どうやら上ではオレを助け出そうとしてくれているようだ。でも、土魔法で階段を作っていけば、自力で上がれるんじゃないかな…

「ユータくん!無事?怪我は?」

「大丈夫~!オレ、自分で上がれると思うよー」

提案してみたけど、どうやら商人さんたちはこの穴の中を探索したいようで、下りてくるそう。

ほどなくして、ぱさりとロープが投げ入れられ、するするとセージさんが下りてきた。

「おお…結構深いな。すげーわくわくする!おーい!大丈夫だ!」

逆光になってみえないけれど、天井の穴からはタクトたちがこちらを覗き込んでいるようだ。


天井の崩落は、縦穴に沿ってぽっかりと口を開けたところで止まったものの、ザラザラと周囲の壁も一部崩れ出し、やや不安定な様相だ。

次いでオリーブさんが到着し、ディルさんが降下するのを見守っていたら、壁面に微かに光ったものがあった。なんだろうと目を凝らした瞬間、ディルさんのすぐ側の壁面が土煙を上げて崩れた。

「……」

「……どうも」

思わず手を離したディルさんを、見事セージさんがキャッチ。…どちらもすごく不本意そうだ。

「あら…あれ見て!」

崩れた壁の向こうに覗いたのは、さらに横へ繋がる狭い洞窟。そして、崩れた土砂の中には、さっきの光ったものが埋まっていた。あれ…この感じ、覚えがあるような。


「!!」

確認しようと一歩踏み出した所で、両手に短剣を抜いて飛びすさる。

「ユータっ!いけるかっ?!」

タクト、探知が早くなったね!

「大丈夫!まかせてっ!みんな、魔物が来るよっ!」

暗い横穴の向こうから急接近してくるのは、複数の魔物の気配。同時に気配を察知して素早く身構えたのは、さすがCランク冒険者。

「こっちも来るぞ」

上から響いた重低音の落ち着いた声は、ウッドさん。

「けっ、とんだお宝探しだぜ!」

「皆さん私たちの後ろへ集まってくださる?」

上でも魔物が接近中…あちらは冒険者の数も多いし、ウッドさんがいるから大丈夫だろう。シロは念のため上で見守っていてもらおうかな。

「ユータくん!後ろへ!」

「ありがと!でもオレ、前衛なのっ!」

それに、一番夜目が利くだろうから。言うが早いか飛び出すと、先陣きって突っ込んできた魔物の鼻面を蹴って飛び上がり、素早くとんぼを切って頭上から短剣を突き立てた。

「あっ…」

「早っ…!?」

倒した魔物はやたらと目の小さな巨大ねずみ?いや、もぐらかな?体長は自転車ほどあるけど、硬くもなければそう動きが速いわけでもない。でも、1つ言うなら…美味しくはなさそうな気がする。

「ビッグタルーパだな。いくらでも来やがれ!」

二人にとっても大した相手ではなさそう。それなら…!

「ライト!」

ドッジボールよろしく、魔力を多めに込めた光量の大きなライトを横穴に放り込んだ。カアッと明るくなった一帯に、魔物達が悲鳴をあげる。

「ユータやるじゃん!」

どうやら暗がりに特化した魔物ばかりのようだったので、これでこちらが有利に戦えるだろう。オレはタタンっと後ろへ下がって前線を退くと、さっきの土砂のところへ向かった。


「あ、やっぱり!」

土砂に半ば埋まって顔をのぞかせているのは、嫌な気配を放つ真っ黒な石。この感覚はとても覚えがあった。確か実地訓練の時にダンが持っていた…そう、魔寄せってアイテム!

オリーブさんたちは危なげなく戦闘中、地上組も同じく…なら誰にも見られないね。この魔寄せの呪いをなんとかしないと、どんどん魔物が来ちゃう。

「確か、これで大丈夫だったはず。浄化浄化~」

シュッシュッシュ~ッ!

むむっ…さすがに原石だからかな?中々手強い…。

迫り来る魔物の群れに背を向けて解呪シュッシュしている姿はとっても間抜けだけど、おかげで嫌な気配は徐々に薄れ、やがて消えた。残ったのは黒水晶みたいな黒い石…黒いけど光にかざせば透ける、不思議な石になった。

「ユータくん?どうしたの?」

「あのね、魔寄せの元があったんだよ。オレ浄化薬持ってたから浄化しちゃった!」

「えっ?呪晶石か!それで魔物が…お前、浄化薬なんて持ってたんだな!勿体ねえけど…仕方ないな」


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