第244話 罠があったらこうしましょう

「ふむ…大丈夫そうですね」

「おう、じゃ、次行ってみるか?」

ちょこちょこ出てくる魔物を倒していると、ダンジョンっていうものにも少し慣れてきた。レーダーの範囲は狭いけど、それでも敵が来る前に分かる上に、壁があるから横からの接近を気にしなくていいのはある意味楽だ。

「うん、この程度なら楽勝だね?次行こう!」

「うーん、今は大丈夫。次って?」

「下層に下りるぞ。お前らはまた真ん中からだ」

「下層…?こんな洞窟に階段があるの…?」

「んー人工物の時は階段もあるよ。でもここは自然洞窟だから…奥へ行ける場所があるはず」

―ダンジョンは、段々成長して本体を奥へ隠していくの。洞窟だったら、深く深く段々地下へ伸びていくの。

うわあ…本当に生き物っぽいんだ…ってことはオレや魔物って…ごはんなの?食べられちゃってる状態?

『主ぃ!ダンジョンはそんな活発な生き物じゃないって!ダンジョン内の魔力を集めてるだけだぞ!だから魔物を集めるし生み出すんだって!全体に魔力を行き渡らせるために繋がってるから、その繋がりを辿って階層を行き来できるんだぜ!』

得意げに語るチュー助…意外と物知りだな、さすが冒険者と一緒にいただけあるね。繋がりってダンジョン内の大動脈みたいなものかな…。とすると辿った先は心臓になるのかな?ダンジョンの心臓ってどんなものなんだろう…。


「ほら、ここだ」

「わあ…ほんとだ!」

行き止まりになった先に、滾々こんこんと光が湧き出るように淡く発光する、1畳分ほどのスペースがあった。ダンジョンの大動脈を辿る、か…やっぱりちょっと怖いなぁ。

「怖いかい?一緒に行こうか」

きゅっとセデス兄さんの手を握って身を寄せると、優しく頭を撫でてくれた。

「先行するぞ、ついて来いよ!」

「ユータ様、怖くないですよ~!先に行って怖い物がないか確認しますからね!」

カロルス様とマリーさんが手を振って光の中へ進むと、すうっと吸い込まれるように姿が消える。なんだか幻想的で、ちょっと楽しそうかもしれない。

「ユータちゃん、大丈夫よ!一瞬だから」

「転移前後は無防備になりがちです、油断はされませんよう」

二人に見送られて、オレたちも光の中へ一歩踏み出した。

「わ…」

ほんの一瞬、地面の底が抜けるような感覚のあと、何事もなく固い地面に立っていた。

「ね?大丈夫だったでしょ?ちゃんと自分で行けて、偉かったわね!」

続いて転移してきたエリーシャ様が、きゅっとオレを抱きしめてくれる。何でもないことで褒められて、オレはちょっぴり照れくさく笑った。


「あれ…なんだかさっきと違う?」

「お、よく分かったな!階層が変わると雰囲気が変わることが多いぞ!全然変わらない所もあるけどな!」

なんだか、周囲の岩の雰囲気が変わったように思うし…なんだろう、壁面や地面に変わった魔力反応のある場所がある。

「ねえ、カロルス様、それなあに?」

魔力反応のある場所を指して問いかけると、執事さんがにこりとした。

「ユータ様、さすがは妖精を見るほどの『目』ですね。すばらしい資質をお持ちです」

「へえ、なるほど…ユータ罠が分かるの?」

「罠…?罠があるの…?」

「そうです、慣れた斥候なら例え魔力を持っていなくても分かるそうですが、私はあいにくでして」

執事さんが何か詠唱をすると、魔力反応があった場所が、かすかに光を帯びた。おお…罠を見つける魔法ってあるんだ!

「これ久々だな!スモークがいたら斥候やってくれんだけどな、あいつが入るまではこれが斥候代わりだったからな」

「便利だね~!魔法使いや斥候なんていないパーティは、慎重に進むしかないんだよ」

そうなんだ…じゃあ、罠が自然と見えるのはとってもお得なんだね!

「セデス様、罠にかかっても回避できれば良いのです。お教えしたでしょう?」

「や、教わったけど……」

セデス兄さんの微妙な表情を見るに、マリーさんが言うのはどうやら一般向けではないらしい。

「ふむ、ユータ様に罠を見せて差し上げては?実際に目にしないと、恐ろしさも分からないでしょう」

「おう、そうだな。マリー、頼めるか?」

「!承知しました。ユータ様、見ててくださいねー!罠があってもこうするといいのですよ!」

マリーさんは語尾にハートが飛びそうなくらいウキウキしながら先行していく。

「マリーったらユータちゃんの前だからって張り切っちゃって…うふふ!」

「ここってそういう所だっけ…あの、ダンジョンの罠って結構致命的なんだけど…」

そうなの?!マリーさん大丈夫?…すごく大丈夫そうではあるけども…。


「はいっ!」

スタスタ歩いて行くと、淡く光る床を思いっきり踏んだマリーさん。

ぼこっ!

「うわあっ!?」

突如マリーさんを中心にガパリとキレイな穴が…落とし穴?!

タッ!トン…

「次っ!」

マリーさん?何を蹴って飛び上がったの…??まるで空中を蹴るような動作で、ごく自然に無事な床に戻ってくると、そのまま次の罠へ。

ぐわっと落ちてくる岩を蹴り飛ばし、ギュンッと突き出すトゲをなぎ倒し、シュッと飛び出す矢なんか、もはや虫を払うように払いのけている。

「…………」

「……す、すごいね」

罠の多さもさることながら、全ての罠を無効化していく戦車のようなマリーさん。セデス兄さんの遠い目が切ない。


「もういいぞ、他の冒険者がいたら困る」

「ユータ様、どうでした?」

「マリーさんって本当にすごいね!ほんとにほんとにすごかった…」

ぎゅうっと抱きしめた身体は、やっぱり華奢で…一体どうなってるんだろう。本当に、もうそれしか言うことはない。Aランクになったら、みんなこんなことができるんだろうか…。

「カロルス様も大丈夫でしょうけど、私は無理ですよ。身体能力が違いますからねぇ…ただの魔法使いには荷が重いです」

「てめーだってぶち切れて周辺の罠全部ぶっ飛ばしたこと……すみません」

一瞬ひやっとした風が吹いた気がした。


「ユータ、普通はこうはいかないからね…罠って怖いんだよ。普通に歩いていてあんなに引っかかることはないけどさ」

確かに…床も壁も全部の罠にかかりに行ったもんね。ずうっとあんな風に罠があるのかと思ったけど、罠が多い場所っていうのは限られるみたいで、たまに密集しているところがある。その代わり、罠が多い所は魔物が少ないみたい。

「ダンジョンって、罠を作ったりするんだね…」

「うん?違うぞ?罠を作るのは魔物だ。だからそいつが増えるとダンジョンは罠だらけになるな!」

ええ~そうなんだ!そのはた迷惑な魔物は、体長30センチくらいのトラッパーっていう魔物らしい。そんな罠だらけのダンジョンは嫌だなぁ…マリーさんたちじゃなきゃ無理じゃないかな。

『でも、ゆうただってシロに乗って、ラピスが迎撃、私がシールド張ったら特攻できるんじゃないかしら?』

そう…かなぁ?でもオレはそんな怖いことやらないよ!シロ、期待に満ちた念を送ってもダメだからね!



「たあっ!やっ!」

ダンジョンの中は、狭ければ狭いほど小さなオレに有利なようだ。壁も天井も足場にできるし、狭い通路に現れた大きな魔物なんか、格好の的になる。

「きゃ~!ユータちゃんカッコいいわ~!セデスも素敵よお~!!」

「美しいですっ!お二人とも見事な戦闘ですっ!」

真剣に戦ってるんだけど…どうも緊張感のない応援に気が抜けちゃう。

「もう…やめてよ…他の冒険者に見つかったら…」

セデス兄さんはげんなりしつつ、立ち上がった熊みたいな魔物を斬り伏せた。

「ユータ様、魔法は使われないのですか?」

ぎくっ…バレちゃった。どうしても剣の方が手っ取り早くて…咄嗟に魔法を使うって案外難しい。だって何使おうかなって考えるでしょう?剣ならあんまり迷ったりしないけど…。

「ふふ、それは羨ましい。普通はそんなに選択肢がありませんからね」

正直に話したら、そう言って笑われた。そっか…たくさん魔法が使える人って少ないんだっけ。

「ユータ様も、得意魔法を作られるといいですよ。私なら…」

ドシュッ!

「これですね。咄嗟に使うものを決めておくと対応しやすいですよ」

通路の角から現れた魔物は、顔を出すか出さないかの瞬間に倒れ伏した。早っ…!多分、使ったのはアイスアローかな?無数の氷の矢が、魔物を貫いていた。


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