第245話 攻撃魔法ニガテ疑惑

オレの魔法…何がいいかな?咄嗟に使うもの…発動が早くないといけないよね。

「ユータ様が得意なものはありますか?」

「うーん…土魔法は得意だけど…ちょっと違う気がして…」

土魔法で得意なのは、もの作り方面だから…とっさにお茶碗を作っても仕方ない。あとは生命魔法も攻撃に向いてないし…考えてみると、オレって得意な攻撃魔法がないかも。

「あまり魔法を使った戦闘もされていないでしょう?ご自分の傾向も分かりませんし、次から意識して魔法を使ってはいかがです?」

「そっか…うん、ありがとう!」

にこっとしたオレに、執事さんもそっと微笑んでくれた。

「…あんな好々爺みたいな顔しながらこれだもんね…」

前方には氷の矢に射貫かれた魔物がごろごろしていた。執事さん…会話の傍ら、何気なく瞬殺していたらしい。紅茶でも淹れてくれそうな雰囲気で放たれる魔法…これもポーカーフェイスってやつかな…。

「涼しい顔しやがって、こえーヤツだよな…」

こそこそ交わされる言葉に、ちょっと周囲の温度が下がった気がして、二人はささっと顔を逸らした。


「おう、楽だな」

今度は執事さんと二人で先頭に立って歩く。遠距離で迎撃できる魔法使いが先頭にいると、魔物は発見した瞬間に瞬殺状態だ。後ろのメンバーは身構える必要すらなく、カロルス様は楽だと言いつつ退屈そうだ。

「魔法使いは後衛が普通って言うけど、こうすると他のパーティも楽に進めるんじゃないの?」

「ユータ様、普通の魔法使いは詠唱が必要ですし、力や体力もありませんので、遠くで瞬殺できればいいですが、仕留めきれなければ一気に形勢不利になってしまいます。詠唱中の魔法使いなんてただの一般人ですからね」

「そうなの…魔法使いももっと鍛えたらいいのにね」

「そうです。少なくとも邪魔にならない程度に動けなければ、上のランクでは戦えないのですけどね…そういった訓練を嫌う者が多くて困ります」

ああ、だから魔法使いがいるパーティが少ないっていうのもあるのかな?実力のないパーティに実力の無い魔法使いだと、まず魔法使いがやられちゃう。


「やっ!」

お試しも兼ねて火、水、風、土、雷、氷…色々使いつつ魔法で迎撃していくけれど、これといって使いやすいと言える魔法はない。使いにくいものもないけれど。そもそもオレが習ったのはどれも初期の魔法だし…。

「しかし本当に全て同じように扱えるのですね…この初期魔法で仕留められるとは…素晴らしいですよ。あとはスタイルと好みの問題ですから、ゆっくりやっていきましょう」

執事さんはそう言ってくれるけど、オレの適正が生命魔法なら、もしかしてあまり攻撃に向いていないのかも…でも、オレ自身は召喚士なんだから、むしろ召喚士として、ラピスたちのサポートにまわる戦い方を身につけないといけないかも。


上の階では虫ばっかりだったけど、この階では虫と動物っぽい魔物両方出てくる。ちなみにカロルス様たちは魔物素材はいらないと言うので、片っ端から収納に入れている。ラキが喜びそうだ…今度会ったときにいい素材がないか聞いてみよう。


「あ…他の人がいるよ」

「おや、では我らは後ろへ下がりましょうか」

現在ダンジョンに入って3階層目に下りようかというところで、レーダーがはじめて人の存在を捉えた。もっと人がたくさんいるのかと思っていたけど、中が広いこともあってあんまり会わないんだね。

「ここは人が少ないから選んだのよ。ユータちゃんとゆっくりできるでしょう?」

「それに、こんなメンバーだしね…他の人にあんまり見られたくないし…」

確かに。さっきのマリーさん特攻とか見られたらマズいよねってオレでも思う。

「ユータ様、ダンジョン内に限らず他のパーティに遭遇したときはご挨拶と、威圧もしておくといいですよ。決して無条件に信用だけはしないで下さい」

「その通りです。お可愛らしいユータ様を狙う輩もおります、先手を打ってぶちのめしてもよろしいかと」

よろしくないよ!出会い頭にぶちのめしたらただの暴漢だよ!執事さんも…そんなことしてたの?!普通に仲良くしたらいいのに…。

「ま、まあそこまでせんでもいいが、気をつけるに越したことはないぞ。気の良いやつも多いが、冒険者を装った盗賊もいるし、下級のやつらはガラの悪いのがいるからな。特にダンジョンは悪事が見つかりにくいから気をつけろ」

「それとね、獲物の取り合いでトラブルが多いから、戦闘中はむやみに加勢したり近づかずに離れるんだよ。疑われて攻撃されたら困るからね」

悪いことをする人はどこにでもいるもんね…それにこちらにその気がなくても疑われると厄介だ。オレたちは子どもパーティだから特に気をつけないと。


「あーちょっと待ってなきゃいけないね」

階層移動の場所付近まで来ると、5人の冒険者が戦闘しているところだった。うわ~他の人の戦闘シーン!見たい!じりじりと前へ出るオレに、苦笑したカロルス様がヒョイと肩へ担ぎ上げてくれた。

「あらー最下層まで行くにはちょっーっと荷が重いんじゃないかしら?」

「そうですね、あれでは無理だと思います」

背後から酷評されているけど、3体の熊っぽい魔物を相手取って、冒険者さんたちは一生懸命だ。さっき戦った熊と同じように見えるけど、冒険者さんが戦っている熊は、なんだかとても強そうに思える。そう言うと、カロルス様はしーっと唇に手を当てた。

「ちげーよ、熊が強いんじゃなくて、あいつらが弱いんだよ……お前よりもな」

ぐい、と俺の頭を近づけて囁かれた台詞に、きょとんとする。そうなの?あんなに強そうな格好をしてるのに…実は弱いの?!…あんまり見た目から揃えると、こういうときちょっとカッコ悪いかもしれない…。オレは、実力に見合った装備を選ぼうってしみじみ思った。


ちょっと時間はかかったけど、無事に戦闘を終えた5人。

「よお、悪かったな!……っと、貴族様?こんな所に?子どもとメイドまで連れて…?」

どかりと通路の脇で座り込んで、どうやら休憩するらしい。気さくに声をかけてから、セデス兄さんとエリーシャ様を見て驚いたようだ。

「おう、おつかれ!気にすんな、問題ないからよ!」

「しかし…戦えるのは二人だろう?あんたは強そうだけど、3階層で全員を守れるのか?おい、ちょっと待てよ、子どもが危ねえ…同行しようか?」

「問題ねえよ!じゃ、な!」

カロルス様が軽く手を振ったので、オレもにこっと笑ってバイバイした。オレのことを心配してくれたんだね、いい人たちだ。

「ユータはキミ達より強いよ?って言っちゃう?」

セデス兄さんがいたずらっぽく言うので、慌てて「しぃっ!」と人差し指を唇に当てた。

「さ、行きましょう。あの人達が追いかけて来そうだもの。ユータちゃん、次は私とお手々繋いでね」

「エリーシャ様、ここは何階層まであるの?」

「ここは10階層までよ。でも、そこまでは今日中に行くのは無理じゃないかしら?5階層あたりまで行けばダンジョンにも慣れるでしょうし、その辺りを目指しましょうね」

ちょっぴり残念だけど、初ダンジョン踏破は、せっかくだから自分たちの力で成し遂げたいし、『希望の光』で行ける時まで取っておこう。



「わ、寒っ!」

再び光る床を通って、3階層へ到達。足下がしっかりすると同時に、ぶるっと身体が震えた。洞窟の中はずっとひんやりしていたけど、3階層になると、さらに気温が下がったみたい。お外は暑かったのに、吐く息が白くなる寒さだ。所々キラキラしているのは氷だろうか。事前に渡されていた防寒着を収納から出すと、着込んでから出発だ。

「3階層抜けたら休憩するか!ここは寒いからとっとと抜けようぜ」

どうやら寒いのはこの階層だけらしい。

「ここはね~寒いし魔物は群れるし、めんどくさいらしいよ」

そうなんだ!群れの魔物に襲われるって辛いな…3階層の通路は1,2階層より狭くて、戦闘に向いているとは言い難い。魔法ならあまり問題はないし、今回はオレとセデス兄さんが先頭、フォローに執事さん。

「ゆ、ユータ?当てないでね…?あの威力で当てられたら…僕、死んじゃうよ…?」

そんなこと言わないで!怖くなっちゃう…。今回は前衛後衛に分かれた訓練も兼ねているので、セデス兄さんが突っ込み、オレが魔法で援護する方針だ。セデス兄さんの動きは速いし、当たるかもと思ったら怖くて攻撃できないかも…後衛って意外と難しい。

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