第236話 成長
「…っはぁ!」
彼の小さな体には、まだ大きすぎる長剣。軽いバックステップで最初の攻撃をかわすと、左下から両手で振り上げるように一閃…!まるでテニスのバックハンドのようだ。
―ギャギッ!?
完全に侮っていた獲物からの致死の一撃に、先頭のゴブリンが呆気なく倒れ伏す。タクトは右手一本でフォロースルーしつつ、剣に引っ張られるように素早く一回転。正面へ向き直ると同時に二体目へ突きを放った。
「ラキ!」
「おっけ~!」
ガッ!
蹴りを放って、貫いた二体目のゴブリンから剣を取り戻すと、サイドから来た三体目を真横に薙いだ。
「―アースニードル!」
同時に、起き上がろうともがく二体目へラキの魔法が止めを指した。
「うし!」
「やったね~!」
「すごいね!」
タクトが嬉しげに振り返って、駆け寄ったオレたちと勝利のハイタッチ!…あれ?でもオレ何もしてないような…。
「2匹ほとんど同時だったから、無理かな~と思ったのに~!なんかユータみたいだったよ~」
「オレ?そうなの?」
「へへっ!そうだろ、だってユータの真似してるからな!」
どこがオレなのかと思ったら、くるくる回る所を真似しているらしい。隙ができちゃうから、あまり褒められたものじゃないんだけど、短剣のオレと違って長剣のタクトはまだ筋力がついていかない。だから遠心力を止めずにあえて回ることで、むしろ隙をなくして次の攻撃に持って行きやすくしているらしい。確かに子どもの身体で長剣を操るにはその方が効率がいいんだろうか…。
「…うっそー」
「3体を…は、はえぇよ…」
「…驚異…」
驚いた表情の先輩たちに、ひとまず合格点はもらえたかとホッとする。
「どうどう?!俺けっこう戦えるでしょ?」
にかっ!と満面の笑みを浮かべたタクトが、きらきらした瞳で3人を見つめた。
「けっこうってレベルじゃないわよ…たかがゴブリンでも、複数の相手は難しいのよ?3体を瞬殺って…」
「魔法使いも…すごい」
「ラキ、お前おっとりしてるから魔法なんて間に合えわねーんじゃとかそもそも戦闘無理なんじゃとか思ってたけど!発動早いしタイミングばっちりだし…やべえな!」
「なんか僕褒められてる気がしない~」
―ユータはもっとすごいの!ユータも褒めて欲しいの!
ラピスが憤慨しているが、オレ今回何もしてないからね…褒めようがないよ。
『あなたは目立たないぐらいでちょうどいいのよ。今日はバッチリじゃない』
モモ…それはそれで褒められてないよ…。
「俺ら一緒に来る意味あった…?」
「タダ飯食らい…」
「そ…そんな?!だって…ほら、獲物が少なかったから!だからユータくんだってあぶれちゃったわけだし…」
「ユータは俺より強いからな!あいつは一人パーティだから別ものとして考えていーんだ!」
「それに、ユータは多分道すがら採取で活躍してるよ~?お昼に出た野草も採取したやつだよ~?ねえ?」
タクト、ひどい…オレもちゃんとパーティメンバーだからね?!ラキに促されて採取していた色々なものを並べつつ、頬を膨らませる。
草原で採ったのはお昼ご飯用だったからほとんど食べちゃったけど、森に入ってからは珍しいものがたくさんあったから、とても楽しく採取していた。あの『金になる植物』『金にならない植物』はオレの愛読書!ティアの助けを借りるけど、植物採取能力はなかなかのものなんだよ!
「いつの間に…」
「いつっ!?いつ採ってたの?!もしかしてアレ?ちょこちょこあちこち歩き回って微笑ましいんだからもー…なんって私が考えていた…アレ?!」
「マジかよ…こいつもあちこち興味引かれちゃってまだまだ子どもだなー危ねーからちゃんと言っとかないとなーなんて!そんなことを考えていた俺が…俺が間違っていたのか!」
ガクゥ!と膝をついた二人。いちいちオーバーリアクションで楽しい二人だ…きっと、表情にもリアクションにも乏しいリリアナの分をパーティで補っているんだろう…。
「それで…討伐はできたけど、帰る?ゴブリン3体の討伐報酬じゃ…結構寂しいよな」
ちょっと苦笑いしたタクト。ゴブリンはちっちゃな魔石があるだけで、素材はないし討伐報酬はとっても安い。そんじょそこらの魔物より知性的だし、案外簡単な獲物ではないんだけど…数が多いからギルドとしても報酬が出せないんだろうね。
「いや!俺らもなんか探すぞ!な?!」
「ちみっ子が討伐と採取してるのに私たちが獲物ゼロって…ない!それはないよ!!」
「…私は帰ってもいいけど」
リリアナは気乗りしない様子だったけど、その意見はまるっと無視されていた。確かに『草原の牙』は獲物なしでオレたちのために1日過ごしたことになっちゃうもんね…何かお礼ができたらいいんだけど、お金は受け取ってくれないだろうし、ゴブリンの討伐報酬なんて子どものお小遣い程度だから、譲っても…。
「そうだ!じゃあ、オレ索敵担当する!ちょっとしたお礼になる?」
「なる!」
「えーマジで?!ラッキー!」
「いやちょっとあんた達!それでいいの?!ううんっ!もちろん異論はないんだけどっ!」
ひゃっほう!と喜んでもらえてオレも嬉しい。ゴブリンならあちこちにいるし、森はいろんな獲物が豊富だから獲物に困りはしないだろう。
「アニキ、じゃあ俺も討伐手伝う!ソロで入れてもらう時の訓練にもなるだろ?」
「僕も~!おかげで森での戦闘が安全にこなせたし、お礼になれば~!」
「あ…あなた達…なんてイイコっ!!」
ルッコが感涙にむせびながらオレたち3人を、まとめてぎゅうぅ~っと抱きしめた。剣を振るために鍛えた身体は、しっかりと引き締まって見えたけど、思いの外やわっとして驚いた。体系的にセデス兄さんを想像していたのに…やっぱり女性と男性は違うんだな。そう言えば最初の出会いからヤクス村へ帰ったとき、足の止まってしまうオレを抱っこしてくれたのはルッコだったね。
あれからそんなに長い年月は経っていないけど…ほら、見て。オレの身長も随分伸びたでしょう?あの時と比べたら、随分とオレは大きくなったよ。ちょっとは頼もしくなったかな?
「お?どうしたユータ、にこにこして。…ははーん、さてはこいつませガキだな?!隅に置けんやつめ!」
「……去れ!ユータが汚れる!」
「おおおお前っ!なんで弓を構えるっ!?俺が何したってんだよー!」
オレのほっぺにすりすりしていたルッコが、呆れた目をした。
「ユータくんと自分を同じものだと思わないでほしいわー」
「…ユータも俺たちも、ちゃんとアニキと同じ男だよな…」
「まあそうなんだけどね~。特にユータはそういうのニブイよね…まだ小さいからかな」
妙に大人ぶった二人がオレを見て、訳知り顔で顔を見合わせた…。オレもちゃんと男ですけど?!今…今まさに大きくなったと思ってたんですけど?!
「ユータ!こっち来い!」
ガバッとオレの胴に逞しい腕が巻き付いて、ぐんと引き寄せられた。宙を浮いた身体がドン、とニースの固い身体にぶつかる。
「さ、さーて探索に行こうぜ!ユータはオレが抱っこしてやるよ!」
「抱っこしたら戦えなくない…?オレ歩けるよ?」
「しーっ!いいんだ!この方が(俺が)安全だからな!いいな?!」
うーん…安全かなぁ…。どうしてもオレを下ろそうとしないニースに、仕方なく抱っこされて歩く。
「無念…」
背後でリリアナの呟きが聞こえた気がした。
「あっちにゴブリン2体、こっちは…動物っぽい魔物。」
「いやー相変わらず索敵最高だわ。ユータ、お前オレらのパーティに入らねえ?」
「勝手に勧誘しちゃだめ~!引き抜き反対~!」
「オレは『希望の光』の一員だもん!ニースたちも索敵できる人を探したらいいんじゃないの?魔法使いも必要でしょう?」
『草原の牙』の面々は剣士と弓士で前衛後衛に分かれてはいるけど、やっぱり魔法使いがいないと今後困ると思うんだ。ルッコは生活便利な程度の魔法は使えるけど…戦闘で使える魔法使いや回復術師って上位のパーティ目指すなら必須だと思うんだ。
「お前ね、そんな簡単に見つかったら苦労しねーわ」
「魔法使いは剣士より少ないから、あんまり売れ残らないのよ~!残った人はちょっと問題があるっていうかぁ…」
「性格が最悪」
「ま、まあそんな感じ。エリート意識が強いって言うのかしら?―パーティに入ってやらんでもない…感謝せよ愚民ども!―って感じなのよ」
「そこまでは言ってなかったと思うぜ…」
それは確かに嫌だ…うちのクラスの魔法使い組はそんな人にならないよう言っておこう…。
「それでさ、アニキたちどっち行くの?ゴブリン?もしくは…謎の魔物?!」
そわそわしたタクトがしびれを切らしてニースの服を引っ張った。
タクトがどっちに行きたいかハッキリ分かるよ…。謎って…普通の魔物だよ?それでもゴブリンよりは違う魔物を仕留めたいのであろう…きらきらした瞳からその気持ちがビシバシ伝わってきた。
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