第237話 ラキの判断
タクトのキラキラ光線と寂しい懐事情に負けて、案の定「謎の魔物」の方へ向かうことになったオレたち。
「行ってはみるけどな、森の中は危険な魔物も多いから慎重に近づくぞ。無理なやつならそっと退散するからな?」
「「「はーい」」」
「いい、もし手に負えない魔物と戦闘になったとき、私たちは食い止める役、あなたたちは救援を呼ぶ役よ?間違えないでね」
真剣な声音に、オレたちも真剣に頷いた。
「手に負えないと思ったら、助けを呼びに行くよ~」
「そうね、ラキくんは冷静だからそういう時頼れそうね!」
「誰かとは違う」
「じゃあなんで俺をリーダーにするんだよ?!俺はイヤだっつったろ?!」
「私はイヤだから」
「私もイヤだもん~!」
魔物に近づくにつれ、賑やかな3人のおしゃべりもなりを潜め、呼吸さえ抑えた慎重な歩みに、緊張感が高まった。
「…!ニース待って、魔物が増えたよ。3体同じ場所にいる!」
「3体…それが何かってところだな…近くまで行けば俺が偵察に行く」
ささやきで会話を交わし、もうしばらく進んだところで、急に周囲が騒がしくなった。
キィーー!キィイ-!!
どうやらその3体の魔物同士が争いはじめたらしく、なかなか派手な物音と鳴き声をたてていた。
もうかなり近い…オレたちが藪に身を潜めると、頷いたニースが一人先行していく。
(なんだろう…鳴き声だとワイルドボアかな~?)
(ワイルドボアなら手頃な獲物だよな!)
(お肉が美味しいやつだ!)
一応こそこそ会話しているけど、ガサバキと顔を寄せないと聞こえないほどの騒音だ。なかなか力の強そうな魔物だな…。
そろそろと進んでいたニースが立ち止まって、藪の奥を覗き込む…と、顔色を変えて飛びすさって戻ってくる!
その時、大騒ぎしていた魔物の音が、ピタリと止まった。気付かれた…?!
「チィッ……逃げろ!ブルーホーンだ!」
「3体…?!」
「くっ…引き留める!さあ走って!」
ニースの表情を見るやいなや、サッと迎撃モードに入った二人。オレたちは応援を呼ぶ役と言われたけど…
「ブルーホーン!Dランク!速い、逃げ切れない!戦闘態勢~!」
「「わかった!」」
ラキの顔がぐっと引き締まる。リーダーの判断に従い、オレたちもサッと陣形を組む。強敵相手ならオレとタクトが前衛、ラキが後衛!
ドッ!と目の前の藪が爆発したようにはじけ飛んで、奥から大きな獣が姿を現わした。
ゴァア、キィイー!
見た目はワイルドボアっていうイノシシの魔物に似ているけど、ひとまわり大きくて青っぽいツノが三本生えていた。うわあ…鼻が良さそうだ…これは逃げても見つかるんじゃないかな…。
禍々しい瞳がギョロリとこちらを映し、猛々しい雄叫びを上げた。
「くそ…お前ら後ろへまわれ!隙を見て逃げろ!見つからないようにな」
獲物が逃げないと見て3体が悠々と姿を見せた。シロと同じくらいの大きさだけど、重さは倍以上ありそうだ。ニースたちが陣営を崩さずオレたちの前へ立つ。
「1体なら勝てる?!」
「おう、相手したことあるぜ!安心しな!」
真剣な表情で問いかけたラキをちらっと見て、ニースはにかっと笑った。
「…わかった~!」
すうっと息を吸い込んだラキが、オレたちを見て、リーダーの目で指示を出す。
「ユータ、真ん中お願い~!僕とタクトは右端。大丈夫、勝てるよ!左は…任せて大丈夫だよね~?!」
オレとタクトが信頼を込めて、にこっと笑う。
「「おっけーリーダー!」」
「やめて!前へ出ちゃだめよ!」
「お前ら何言ってる!!ゴブリンなんかと違うぞ?!…くそっ!」
バッと持ち場についたオレたちに、ニースたちの余裕のない声がかかる。ごめんね、でも、うちのリーダーの采配はなかなかのものだよ?慎重派の彼がそう言うなら、オレたちは勝てるってことだ。
ゴアアァ!
前に出てきたオレが美味しそうに見えたのか、ブルーホーンがいきり立って突進してきた。
「しまった…ユータ!!」
重量級の攻撃は、受ければ致命傷だけど、そんな見え透いた攻撃に当たるはずもなく…。
スッとかわし様に太い首を切りつける!
「わ…硬いっ」
チュー助の方はザクッといったものの、普通の短剣では毛皮を貫けない。
ブキイィイ!!
傷つけられて怒り狂うブルーホーン。ブンブンとツノを振りはじめたので一旦距離をとって他の2体の様子をうかがった。
ドゴォン!
隣では突進してきたブルーホーンが、ちょうどラキの土壁を突き破ったところだった…。
でも…残念、うちのラキがそんな甘いわけがない。
プギイィイ!
突き破ったのは薄い土壁。その向こうには、杭を生やした分厚い壁…為す術もなく突っ込んだブルーホーンが、見事に貫かれて悲鳴をあげた。
「っしゃあああ!」
水をまとった剣が、渾身の力で振り抜かれ、太い首を中程まで分断する…!タクト、あんなに炎を使うって言ってたのに、きちんと実践では得意なものを選んでいる…ちゃんと考えてるんだな。
「よし、あっちは大丈夫だね」
―ブタさんもゴブリンもそう変わりないの。ラキたちでも倒せるの。
そりゃあラピスにとったら変わりないかも知れないけど…オレは苦笑いすると、再び突っ込んで来たブルーホーンに向き直った。
『単純な攻撃は防ぎやすいわね』
オレと接触するかと思われた瞬間、出現したシールドに激突するブルーホーン。ふらりと傾ぐ身体を立て直した頃には、そこにオレの姿はない。
「やあっ!!」
ブルーホーンの背中に着地したオレは、裂帛の気合いで短剣を振り抜いた…!
しっかりと魔力を通した短剣は、今度はまるで野菜でも切るようにスパッと首を分断する。
どうっと倒れたブルーホーンは、もう二度と動かなかった。
「助かった…マジで」
「ダメかと思ったー」
「九死に一生」
そつなく3体目を屠った3人が、へなっと座り込んだ。
「ごめんなさい~。逃げても追いつかれるし、Dランクの魔物複数だとCランク扱いでしょう~?危ないかなと思って~。」
「でも勝てると思ったし、ちゃんと慎重にやったぞ!」
荒い息をしながら、胡乱げな目でこちらを見る3人。
「そりゃ危ないよ、危なかったですよ…私たち火力がないし一撃が軽いのよね…重量級と相性悪いったら…」
「ゴーレムとか最悪。全滅しかけた。今回も多分3体はキツイ」
「でもよ、お前ら何だよ…強すぎだろぉ?!ちゃんと見られなかったけどさ…ユータお前一人で倒してねえ?!」
「オレは一人じゃないよ!ラピスや召喚獣がいるから」
「いやいや…そういうのを世間では一人でって言うんだ…」
ラピスは活躍できなくてちょっと拗ねてるけど、あまり派手なのを彼らに見せたくないからね…。
『ねえねえ、これ美味しいお肉だよ!はやく持って帰ろう!お肉悪くなっちゃう!』
さっきからシロがブルーホーンの周りをウロウロして落ち着かない。今にもつまみ食いしてしまいそうだ。
「ねえ、これっていい獲物?」
尋ねたオレに、3人はいい笑顔を向けた。
「「「最高!」」」
みんなで手分けしてブルーホーンのツノとヒヅメを外し、あとはオレの収納へ。どんだけ入るんだよ?!ってツッコミを受けたけど、ここはスルーだ。元Aランクの貴族だから、いい収納袋もってるんだよってことで。
「うおー!これでランクアップできるかもな?!」
「でもさーやっぱ火力不足を痛感~!私も魔法剣、目指してみようかな…」
「決定力不足…」
3人はそれぞれ思う所があったようだ…ニースは置いといて。
『おっにく!おっにく!おーいしいよぉ♪』
「これ絶対素敵!とか言われるやつでしょ!見直したわ!なーんてな!」
るんるんでお肉の歌を歌うシロと、スキップしながら妄想を膨らませるニース。似たようなご機嫌二人だけど、シロに向けられる視線と、ニースに向けられる視線の温度差が激しかった。
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