第111話 兵士さんと訓練2
「ユータ、どう?辛くないかい?」
どうやらメニューを概ねこなせたようで、遠くで見守っていたセデス兄さんがやってきた。
「ぜんぜん!大丈夫だよ!」
それを聞いて肩を落とす若い兵士さんたち。ペアでの訓練を終えたら再び基礎的な練習、走り込みなどの体力作り。なんだか部活動みたいでオレはとっても楽しい。
「ふふ、これは大人の兵士達の訓練メニューだよ?どう?ユータが普通じゃないってよく分かったんじゃない?」
「そっか……学校いったら、きをつけないといけない?」
「そうだね、まあたまにうちの家族みたいな規格外もいるから、魔法に比べたらこのくらい大丈夫かなと思うけど。ただ、相手が自分と同じようにできるとは思わないことだね、怪我させてしまうよ。」
なるほど……確かに相手がカロルス様やセデス兄さんのつもりでいたら大事故になってしまうね。カロルス様なんて当たらないから全力で木剣振ってるし…。A級って本当に少ないらしいから、学校の先生たちがA級のわけないよね。思い切ってやったら大変なことになるところだ。
「今日、これからは対多人数の戦闘訓練になるけど、一度見ておくかい?ユータは狙われることが多そうだから、これを経験しておいた方がいいと思うんだ。」
「うん!」
セデス兄さんに抱えられて屋内に入ると、簡素な闘技場のようなスペースがあった。土がむき出しのグラウンドを囲むように、立ち上がった壁とその上に階段状になったスペースがある。座席はないけど閲覧席かな。
「あまり外部に知られたくない訓練とか、試合形式の練習なんかはここでするんだよ。多人数が動く訓練はこういう所がないと見えないしね。」
確かに上から見ることが出来たら、全体の把握ができるし隊列の訓練なんかにも良さそうだ。
最前列でわくわくしながら観戦させてもらう。対多人数だから、1対5~6人の形式で行うようだ。闘技場内で5つのグループに分かれていた。
「あ!タジルさんだ!がんばってー!」
思わず知った顔に手を振ると、赤い顔で手を振り返したタジルさんが、周りの兵士さんたちに小突かれていた。兵士さんたち、仲が良さそうだ。
「…始めっ!」
リーダー兵さんの号令とともに、一斉に一人に襲いかかる暴漢役。思わず手に汗握ってしまうけど、慣れたものなのか、打ち払ったり飛びすさったり、各々初撃をなんなくクリアすると、乱戦に突入した。
「すごーい!」
「うん、がんばってるね。」
中でもタジルさんは一際目を引いた。とても安定して数人を捌いている。それも、動き回らず、どうやら自分の位置より後ろへ暴漢役を入れないことを第一にしているようだ。他の一人役の人は、動き回って各個撃破しているので、タジルさんの戦い方は異質に写った。
「あれはね、ユータを守っているんだよ。」
「えっ?……あっ!」
そうか、タジルさんはオレの馬車を守っていた時を想定しているのか……なんだか泣きそうになった。二度と、繰り返さないという悲痛なほど強い決意が滲んでいるようで。
剣だけを使って、数人から守り抜くって本当に難しいことだ。オレもいずれ誰かを守るときのために、しっかりと学ばなければいけない。そして、絶対に自分の身を守らなければいけない……オレに繋がる人達を、不幸にしないために。
とうとう、タジルさんが6人の暴漢役を撃破した。引かず、進まず、彼のいるラインには鉄壁の防御ができていた。
「わあー!すごい!」
カッコイイよ!鉄壁の防御!!興奮して両手を振ったオレに、彼は照れくさそうに手を挙げた。
「……僕だってユータを守れるからね?」
ちょっと拗ねたセデス兄さんは、なんだか子どもっぽい。のほほんとしているようで、意外と負けず嫌いなんだもんなぁ。
「うん!セデス兄さん強いもんね!でもね、オレだって強くなってみんなを守ってあげるから!セデス兄さんも守ってあげるからね!」
「ふふっ!そうか、ユータが守ってくれるのか~楽しみだけど、もうちょっと守らせて欲しいなぁ。」
今はこんな小さいけど、そのうち立派な男になって、どんな脅威からもオレの大好きな人達をちゃんと守れるようになるんだ。
オレの脳裏には、あの時の崩れる山が、迫り来る土砂が、こちらへ駆け寄るみんなの姿が浮かんだ。オレだって、タジルさんみたいに変わっていくんだ。動くこともできず、何もかもを手放すのはもう嫌だ。人や、魔物だけじゃない、せっかくやり直せる機会なんだ、あらゆる脅威を退けられる力が欲しい。
「いつも守ってくれてありがとう。いつか、オレもみんなを守るためにがんばる。強く、なりたいな……。」
「あんまり、無理をしないんだよ……?」
切実な願いを聞いて、セデス兄さんは困った顔で小さなオレを抱きしめた。
「たあ!」「やー!」「とうー!」
訓練を終え、セデス兄さんとお昼を食べてお部屋に戻ると、妖精トリオが騒いでいた。そういえば妖精さんたちがいることをすっかり忘れていたよ。
「あれ?みんな何してるの?」
「くんれん!」「かっこいい?」「やー!とおー!だよ!」
手に小枝を持って振り回しているのはまるきり小学生のチャンバラで、なんとも微笑ましい。
「危なくてかなわん……妖精が剣を使ってどうするのじゃ……。」
「妖精は剣を使わないの?」
「こんなナリで剣がなんの役に立つのじゃ……。ヒトや魔物と大きさが違いすぎるわい。」
「でも、魔物はすごく大きいものもいるよ?ヒトだってそれに比べたら小さいよ?」
「ヒトの努力と不可能に挑戦する姿勢は感嘆に値するわい。妖精には強力な魔法があるからの、わざわざ威力の弱い剣を極めていこうなんてやつはおらんのじゃ。」
そうなんだ……ヒトは魔力が弱かったから色々発展したのかも知れないね。
すっかり「くんれん」に夢中な妖精トリオはそっとしておいて、オレはさっそく調合をやってみたい!調理場でやって匂いとかすると怒られそうだから、道具だけ借りてこよう!
「とりあえずやってみるから、そこで見ててね!」
気が乗らない様子のチル爺におねがいすると、メモを見ながら調合をはじめる。
えーっとまずは滅菌!各種容器を洗う……でもここでお水流すのもなぁ。そうか、作業台から作ればいいんだ!ラピスに頼んで庭の土を拝借すると、魔法でよいしょっと流し台付き作業台テーブルを設置する。排水先は別タンクだ。
「お主…始まる前からそれか……。」
滅菌はどうしよう?高温高圧滅菌ってあったよね……でもどうやったら圧力かけられるのか分からないなぁ。とりあえず菌がいなくなればいいんでしょ?
うーんとしばらく考えて思いついた!あの蝶々みたいにしたらいいんじゃない?
しゅわわわ……
集中したオレの両手からこぼれ落ちていく、質量のある霧のような光。
「対象は細菌、アメーバ、ウイルス…極小の異物……かな。」
イメージしたのは白血球、そしてその貪食作用だ。ウイルスでも何でもドンと来い!なずいぶん有能白血球だ。淡い光が容器を包むと、さほど時間もかからず滅菌が完了した。これは便利だ!異物も対象にしているから、多分汚れも落ちるし、これはいい魔法ができたね~!
「な、なんじゃそれ!怖っ!それ怖っ!」
「何も怖くないよ?ほら、これと一緒。」
そう言ってふわっと1匹の回復蝶々を生み出してみせる。
「うおお……疑似生命……!!!」
チル爺が蝶々を追いかけて行ってしまった…ちゃんと見ててって言ったのに……。
まあいいか、難しいことはなさそうだしね。
よし、次は薬草もきれいに……あれ、これも滅菌魔法で?大丈夫かなぁ?異物の判断が難しそうだし薬効変わっちゃったら怖いな。
「うーーーん優しく洗う、優しく・・・。」
あ、そうだ!効果があるのかは分からないけど、あれやってみよう!
容器に薬草と水を入れると、マイクロバブル発生!お風呂入る時に時々やるんだよ。マイクロバブルの時も、ぼこぼこ大きな泡にする時もあるんだけど、マイクロバブルだとしゅわしゅわして気持ちいいんだ。ぼこぼこする泡も、お鍋に入ってるみたいで好きなんだけどね。
「なんか気持ちよさそうだね。温泉にしてあげよう。」
今日はオレもお風呂でしゅわしゅわしよう!
容器の中で薬草を軽く揺すると、泥などの汚れは大分落ちたみたいだ。
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すみません!このお話が抜けてました!2019/7/14追加しました!
教えて下さってありがとうございます!
111話が二つになってしまったけど…もう全部修正するのは無理…
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