第206話 お風呂にする?ごはんにする?
「ユータちゃーーん!セデスー!ただいまー!!」
ばぁん!と玄関扉を開け放って大声をあげるのは、もちろんエリーシャ様。なんでオレがいるって分かったんだろう?あとカロルス様も呼んであげてね?
「エリーシャ様!おかえり~!」
ばふっと一足飛びに飛びついたら、軽々と持ち上げられてすりすりしてくれる。エリーシャ様のほっぺは、カロルス様と違ってすべすべだ。
「んん~これこれ!すべすべもちもち!この感触、たまらないわ!!」
どうやらオレのほっぺもすべすべらしい…まだまだ子ども肌だなぁ。
「執事さん!おかえり-!」
執事さんにも抱っこしてもらって、ぎゅっとはしてくれない彼に、オレが代わりにぎゅうっとする。
「…ただいま戻りました。お変わりございませんか?」
執事さんが優しい顔だ。道中の盗賊も、なんてことはなかったんだろう。
「ふふ、ユータちゃん、ラピスをこっちに寄越していたでしょう?あとね、ビックリすることがあったのよ?ユータちゃんが口添えしてくれた…ってわけじゃないわよね?」
口添え?きょとんとするオレを見て、エリーシャ様はどこか納得した顔をしている。それにしても、ラピスがついて行ってたのバレてたんだ…さすがだね。
「おう、おかえり。苦労掛けたな!それで、どうだった?」
「お疲れ様~!その様子だといい結果…かな?」
下りてきたカロルス様とセデス兄さんに問われ、エリーシャ様はにっこりと満面の笑みを作った。
「後で話すわね!とりあえず休憩よ~久しぶりの長旅は疲れたわ!」
「エリーシャ様、お風呂準備できてるよ!」
ラピス部隊のおかげで、おおよその到着時間が分かるから、お疲れのエリーシャ様のために色々準備しておいたんだ。大喜びで飛んでいったエリーシャ様を見送って、オレは厨房で軽食の続きを作ろう。
「お前…珍しく館で何かしてると思ったら…」
「僕、こんな奥さんがほしいな…」
「か、かわいいー!!」
「これを…食べてしまうと言うのですかーっ?!」
ゆったりとお風呂で寛いだエリーシャ様は、元気いっぱいだ。生命魔法入りのお風呂は、とっても効果があるからね!
きっとこのあと紅茶を飲みながらお話するのだろうと思ったので、つまみながら食べられるようなもので、エリーシャ様が喜んでくれそうなものを用意した。かわいいもの好きのマリーさんが、絶対に手を着けるなと目を爛々とさせているのは誤算だったけど…。
今回作ったのはカナッペ!一口大に薄くスライスして、カリッと焼いたパンに、色とりどりな具材を載せてある。簡単だけど、パーティ料理にぴったりのオシャレな料理だよね!
「えっと…マリーさんもどうぞ?せっかくなので、食べてね?」
「ああ…そんな…こんなかわいいものを食べるだなんて…」
「そうは言っても…食べなきゃカビがはえちゃうだけだよ?」
「それはダメです!許しません!!」
意を決したマリーさんが、華奢な指でそっとつまむと、うっとり眺めはじめた。
マリーさんのけん制で、手を出せなかったカロルス様とセデス兄さんが、これ幸いと両手でひとつずつ取っていく…そんなにがつがつ食べるモノじゃないから!ジフに伝えてあるのでおかわりはできるけど…これ、軽食だよ?そんなに食べたら晩ご飯……食べられなくなったりはしないか。
「…で、どうだったんだ?」
次はどれを食べようかと忙しく目線を彷徨わせながら、カロルス様が尋ねる。
「まず、天使教については問題なさそうよ。元々冒険者たちの中で広まった噂が発端だし、たまたまここに遺跡があっただけだから、私たちが関与したわけではない……ってことになってるわ」
「僕たちの関与しかないけどね。いや、ユータの関与か…」
う…何もかもハッキリ告げなかったのに、どうしてこう次々バレてしまうのだろうか…。
「ふむ、それで、やはりもうひとつは難しいか…?まさかいきなり危害を加えようなんて輩はいなかったか?ぼちぼちでも受け入れる器が広がっていくといいと思ったが…」
「いいえ!大成功よ。…なんたって、『妖精の導き』があったもの!」
「なんだと?!まさか…」
一斉にオレにと視線が集まった。何?どういうこと??
「ユータちゃんのおかげではあるけど…多分、ユータちゃんが仕込んだのではないのよね?」
「?妖精の導きってなに??」
「この国にはね、そういう伝記が色々と残っているのよ。妖精の話を聞ける王様が、助言を得て災害に立ち向かったり、国の分岐点となるような出来事があった時に、妖精の光に導かれたり。勇者様のおはなしにも出てきたでしょう?」
困惑顔のオレに、エリーシャ様が説明してくれた。確かに、勇者に助言をくれるのはいつも妖精だったっけ。妖精って結構重要なポジションにいるんだな…。
「そもそも、この国の王様は妖精と関わりが深いのよ?妖精を見て、話ができる初代国王様が建てた国だから。」
「そうなんだ…もしかしてチル爺たちが?!」
―そうなの。ラピスがお話に言ったら、来てくれるって言ったの。
わあ…チル爺たち、ありがとう!!今度お酒でもプレゼントしなきゃ!
「それで…王様は妖精を見て決断してくれたの?」
「そうね!威張り散らしてた反対派のちんまりした姿、見せてあげたかったわ!」
良かった…チル爺たちのおかげで、流血沙汰なく物事が進んだようだ。
「あとは…調査団が編成されるから、ヴァンパイアたちに許可をもらわないといけないんだけど…。」
「でも、あそこは隠れ里だよ?こっちに来てもらったらダメかな?こっちで生活したい人がいないか聞いてみる?」
「そうね…調査団もいきなりヴァンパイアの里に転移するのは尻込みするでしょうし。」
「ユータ、お前に色々と負担がかかるが…大丈夫か?」
「うん!だってオレがお願いしたんだもの。」
色々と変わっていくのはエネルギーのいることだけど、きっとプラスの方向に進んでいると思うと、嬉しくなってくる。
「ユータ、ご機嫌だね~」
「そう?上手くいったことがあったからね!」
どうやらぼろぼろになったタクトを回復しつつ、にこにこしていたらしい。
「よっしゃ!タクトふっかーつ!行くぜー!!」
―いい心意気なの!みごころがあるの!
鬼教官、どこかで聞きかじった台詞を使っているらしい。多分、「見所」って言いたいのだろう。
タクトは意外と努力家だ…こと剣術に関しては。鬼教官との相性が抜群で、見ているこっちが辛くなるよ。おかげでタクトの実力はめきめき上がって、頼もしい限りだ。
「次、ユータ!やろうぜ!」
「タクト、元気だね…。」
口は元気だが、やろうぜ!って…横たわった人が言う台詞じゃないと思うよ。仕方なくまた回復して、今度はオレを相手に対戦だ。こうやって相手をしていると、タクトの上達ぶりがよく分かる。
「くっっっそぉ!やっぱ当たらねえっ!!」
オレは避けるの得意だもの…そうそう当たらない、よっ!
振るわれた剣を避けざまに腕を掴むと、そこを支点にダンスのようにするりと懐へ飛び込む!
「は~い勝負あり~。」
ラキの審判で突きつけた得物を戻すと、タクトがばたりと仰向けにひっくりかえった。
「あーあ。全然じゃん…俺、強くなってんのかな…。」
「タクトは強くなってるよ!新米兵士さんと戦ったら勝てるかも!」
「ちぇ…まだ新米兵士か…。」
でも、あの人たちはロクサレンの兵士だから、多分強い方の人達だよ?
「俺、お前達を守る立場のはずなのに…。」
「ユータは一人パーティだから、タクトが守るのは僕だけでいいんだよ。」
「お…そうか!なるほどなー!」
タクト、納得しないでよ…。
いよいよ依頼ポイント数もランクアップ目前となり、オレたちは秘密基地で特訓に勤しんでいる。
「ほら、ファイアならこのくらい。」
ラキが杖をもってぶつぶつ唱えると、たき火くらいの炎が上がった。そう、オレは試験で変に注目を浴びすぎないよう、ちょうどいい魔法の特訓だ!
オレも杖を構えると、ぶつぶつ唱えてみせる。
「ぎおんしょうじゃのかねのこえ、しょぎょうむじょうのひびきありっ!」
ぼうっ!っと、ちょうどいいくらいの炎があがった。よし!このくらい、だね!
「うん、いい感じだね!なんて言ってるのかすごく気になるけど~」
「お、オレの国の呪文だから!」
あんなに色々な種類の呪文を覚えるのはめんどくさい!外国の呪文ってことで誤魔化そう作戦だ。
疑わしげな視線から目をそらして、今度は一人で奮闘しているタクトを見やる。タクトは魔法剣士に憧れて頑張っているのだけど…なかなかうまくはいってないようだ。
「せっかく魔力増えてるのに…なんで使えねえんだ…。」
エビビの召喚で日々魔力を浪費しているおかげで、タクトは順調に魔力量が伸びている。ただ、普通に魔法を使うのは…何て言うか…下手なんだ。だからこその魔法剣士らしいけど…。
「纏う炎!火の精霊の御名において、魔力を捧げん!」
呪文を唱えて発動させるのでは、魔法と同じだもんね…タクトはそのあたりが不器用だから…難しそうだ。
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