第196話 お肉貯金
シロがご機嫌で持って帰ってきた獲物は、シロの身体より大きな牛っぽい魔物、シルバーバックブルっていうらしい。街中でよく見かけるお肉はレッドバックブル、それよりひとまわり大きくて、立派なツノが猛々しい、強そうな牛さんだ。
『この牛さんね、美味しいお肉の匂いがしたの!向こうの森にいたよ!』
「シロ、森って…どこまで行ってきたの~。」
「この辺り草原しかないぜ…。」
「こ、これどうしよう…。二人とも、いる?」
「「いらない!!」」
ですよね~。丸ごとはいらないよね…ジフに解体してもらおう…。
『おっにく!おっにく!ハンバーグぅ!』
ルンルンなシロに乗って街へ戻ると、さっきまでと門番さんが違う。
「あれ?さっきまでの門番さんは?」
「ああ、あいつはなんか『犬が!ブルが!こどもが!』って訳分からないことわめいてたから帰らせたんだ。あいつも連勤が続いて疲れてたからなぁ…。」
「そそそっそうなんだ!?お、お大事にね?!」
「おう、ありがとな!」
門番さんに手を振って、じっとりした二人の視線から目をそらす。
「まだ初日なのに~。」
「先が思いやられるぜー!」
くっ…タクトにまで言われるなんて…。
「あら、もういいの?薬草採れた?」
「採れました~薬草採るの、僕ら得意なんです~。」
ラキが誤魔化しながら取り出す薬草の量に、目を丸くするジョージさん。このくらいならイケる!って相談した量だったんだけど…やっぱり普通より多いもんね。
「す、すごいじゃない!君たち薬草のこと、よく勉強してるのね!えらいわ~こんなに一度に採ってこられる冒険者は少ないのよ!しかも処理もいいし間違いもない!もし臨時の薬草採取依頼があればお願いしようかしら!」
少し色を付けてもらった報酬は、一般的な薬草採取依頼に比べたら多いのだろうけど…毎日これだけじゃ貯金していくのは中々厳しいなって感じだ。
「えへへ、初仕事成功!だね。お金もらっちゃった!」
「ほぼユータの活躍なんだけどね~。」
「どんどん依頼受けてこーぜ!早くランク上げないと討伐できねーし!」
タクトは戦いたくて仕方ないようだ。でも、実力が伴わないと危なくて仕方ない…ちょっとラピスが帰ってきたら訓練のレベルを上げて貰おうか。シロはつい手加減するから、訓練の相手としてはラピスとモモの方が向いている。オレの回復魔法のことも二人に伝えたし、訓練で何かあっても大丈夫!……多分。
* * * * *
「ジフ~!これ解体してー!」
『美味しいお肉ー!』
「おう…って?!どうしたんだよソイツは?!最高級品種丸ごとじゃねえか!しかも文句なしの鮮度…!野郎どもっ!手ぇ貸せ!!」
うん、すぐに収納に入れたから…まだ温かいくらいだ。バッと集合した荒くれ…もとい料理人たちが、よってたかって処理し始める。
「とりあえず片っ端からお前の収納に突っ込め!鮮度が良けりゃ何にでも使える!熟成なんかは後で考える!とりあえず突っ込め突っ込め!!」
「え!ま、待って!わ、わわ…!!」
どんどん押しつけられる肉の塊を片っ端から収納へ放り込んでいく。スープ用とシロのおやつ用に、残った骨も回収して、大きな大腿骨をシロにあげた。
『おっきい骨ー!!嬉しい!美味しい!』
うわーフェンリルすごい…。もっとカシカシして楽しむかと思ったら、バリバリ噛み砕いてるよ…。
「ふーっ…いい肉だ。後で分け前くれよ?皮やツノはそっちに置いてある。…で、これどうしたんだ?」
「これは…シロがとってきたの…。」
「なんだと…お前、いい目してるじゃねえか!こりゃ一級品だぞ。またなんか採ってきたら頼むわ。解体はしてやるから!」
『ホント!?シロ、いい目?ありがと!!』
多分シロの場合、いいのは鼻だと思うけどね。解体をお任せできるのは嬉しいな!大きな牛さんのお肉はすごい量になったので、ジフの取り分と、オレたち3人の分と分けて収納しておく。ラキとタクトには、そんなにいらないって言われるのが目に見えてるので、お肉屋さんで買う程度の分量にしておいた。残りはパーティのお肉貯金…貯肉?だね!
「お前が2、3人厨房にほしいな…その収納便利すぎるぜ…。」
鮮度の落ちない収納は料理人垂涎の品だもん、これは本当にチル爺に感謝だね。
「でもまぁ、こいつが2人も3人もいたら…トラブルは何倍だ?!そいつはまずい。」
せっかく得意になっていたのに……ジフは一言多いと思う。
この高級肉はどうやって食べようかな?いいお肉はあれこれ手を加えるより、そのまま焼くのが一番美味しいよね!まずは絶対ステーキ!ステーキに満足したら…そうだ、すき焼きなんかどう?卵の衛生状態が気になるけど…浄化魔法の白血球くんでなんとかなりそうな気がする。万が一お腹壊したら…うん、回復しよう。
「ユータ、高級肉とってきてくれたんだって~?うわー今夜の食事が楽しみだな!ユータもせっかくなんだから食べて行きなよ?」
「とってきたのはシロなんだけどね。うーん…一旦学校に戻って、夕食の時に戻ってきてもいい?あんまり学校を留守にしてると変に思われちゃう。」
「おや、ユータにも少し自覚が芽生えてきたかな?それが変だって感じられるのは大きな進歩だよ!」
大げさに両手を広げて感動するセデス兄さんに、頬を膨らませる。オレだってそのくらい分かります-!
「ふふっ!お顔がまん丸になってるよ!」
ほっぺをぶすっと突かれて、ぼひゅっと空気が抜ける。大笑いするセデス兄さん…オレ、怒ってるんですけど?!
「もうセデス兄さんにはお肉あげないから!」
「ええっ!?…ユータちゃ~んご機嫌直して~!」
転移の練習にまた付き合う事を条件に許してあげると、オレは一旦学校へ戻る。こんなに早く解体がすむとは思ってなかったので、食べられるのは明日だと思っていたんだけどね。
部屋に戻ると、珍しくラキとアレックスさん、テンチョーさんが揃っていた。
「よっ!冒険者仮登録できたんだってな!おめでとうー!」
「今年の1年は大勢登録できたそうだな、随分出来がいいようだ。」
「ありがとう!テンチョーさんたちも1年生で仮登録したんでしょ?」
「まーね!俺って優秀だし!」
「どのくらいでランク上がったの~?やっぱり大変~?」
「2年になるかならないか、ぐらいじゃなかったかな?ランク上がったのはパーティの中で俺だけだったよ!」
「私のパーティはみんなでランク上げたぞ。ただ、FからEになったのは私だけだったが…。数をこなすのは大変と言えば大変だが、やることは雑用だからな。面倒がらずにコツコツやれば、誰にでも出来ることなんだ。」
思わずラキと顔を見合わせる…。うわーウチのパーティにもランク上げられなさそうな人が若干1名…。
「……討伐行くためには頑張るよ、きっと…。」
「コツコツ…できるかな~?」
オレたちだけランクアップしてタクトと冒険に行けないなんてイヤだよ?お尻をひっぱたいてでもやっていただこう。なんならラピス先生のスパルタ教室にしてもいい。
「よっし!じゃあ同室のよしみだ、冒険者の心得伝授、いきますか!俺たちの経験を聞けるってなかなか貴重よ?次からお金とるよ?」
「心得伝授ってなあに?」
「1年生が仮登録に成功したらな、同室の先輩が色々と経験を聞かせてやるって伝統がある…らしいぞ。」
「そうなの?わあ~聞きたい!」
「聞きたい~!」
「よしっ!こっち来い!」
先輩二人のベッドにお邪魔すると、きらきらした瞳を向けるオレとラキ。先輩二人も少し得意そうに語ってくれる。冒険者になって困ったこと、必要だったこと、役に立ったこと、失敗したこと……中には、先輩たちがさらに上の先輩から聞いた話もあり、それは伝統と言うに相応しい、とても貴重な知識の伝授だった。
真剣に聞いていたら、夕食の時間をすっかり忘れてしまっていたけれど…。
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間違えて同じ話続けて投稿してました!すみません!!
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