第195話 冒険者(仮)

そっか、ラキも二つ…結構みんな色々と登録するものなんだな!

「じゃあオレも剣士と魔法使いと回復術師と召喚士で登録してもいいかな!」

「……うん、もう少し絞ろうか~。主職業は召喚士なんだよね?あと回復術師なら、多少の治癒ができるくらいかなって思ってもらえるだろうから、まあいいかな。剣士も…タクトみたいなのがいるからね、見栄張って登録したんだなって思われるぐらいかな…。多分、ある意味誤解してくれると思うけど…本格的に冒険者として活動しだしたら、そのうちばれるよ~。でも、どうしてそんなに隠しておくの?普通は力を示していくものだよ?」

「だってオレまだ4歳だし…ロクサレン家に迷惑がかかったら困ると思って…。」

「ふうん?有名になるのって迷惑かなぁ?普通は喜んでくれるんじゃない~?」

あれ…?そうか…みんなが心配するのはオレが頼りないからか…。執事さんも言ってたな、侮られてちょっかいを出されるくらいなら、実力を示していく…それも手かもしれない。少しずつ実力をつけて、ランクを上げて、堂々と胸を張って生きられる方が、ロクサレンのみんなにとって嬉しい事じゃないかな。

「そっか……オレ、頑張る!今はまだ隠しながらだけど、みんなに心配されないぐらい強くなって、全部隠さずに生きていけるようにする!」

「う…うん…ほどほどにね、バランスが大切だと思うよ~?」

「うん!バランス、だね!」

ラキの不安げな視線をよそに、オレはやる気をみなぎらせるのだった。



「うおー!いよいよ!いよいよだぜ!」

タクトが目をきらきらさせながら、オレたちをぐいぐい押して学校を出る。

「楽しみだね!」

「ホントだね~!ね、何か依頼見て帰ろうよ~!」

今日、いよいよ仮登録の証をもらって、ギルドへ登録しに行くんだ!!ちなみに今年の1年生は優秀で意欲もあるらしく、過去最高の仮登録数になったらしい。喜ばしいことだけど、それだけ依頼の争奪戦も激しくなるって事だ。


「あら…?あらあらあらぁ?!」

「ひっ?!」

ギルドに入った途端、シャカシャカと接近してきた美人さん。タクトはすっかりジョージさんのことを忘れていたらしく、ビクッとしてラキの後ろに回り込んでいる。

「天使ちゃーん!と、お友達!」

シロと変わり身の術で場所を変わると、両手を広げて突撃してきたジョージさんが、まふっとシロに抱きついた。

「ウォウ!」

「わっ?!おっきなわんちゃ…わんちゃん…?」

「ジョージさんこんにちは!これはシロっていうの!大きな犬でしょ?かわいいよ~!」

『ふふっ!ぼく、犬だよ!よろしくね!』

しっぽをふりふり、ぺろぺろと人懐っこいフェンリルにジョージさんは混乱している…。

「こんにちは、僕たち仮登録に来たんですけど~。」

ラキがリーダーらしく前へ出た。

「えっ?そうなの??もう登録?さっきも1年生が来てたのよね…なんだか今年の子は豊作ねぇ…。まさか天使ちゃんも登録するなんて…大丈夫?」

「うん!大丈夫だよ。シロもいるし!それとね、オレユータって言うの。天使ちゃんって女の子みたいでイヤだなあ。」

「まあまあっ!きゅーんとしちゃうっ!そう、そうなのね!君はもう男の子なのねっ!!分かったわ、ユータちゃんっ!それとタクト君とラキ君ね!」

オレは最初から男の子ですけど!せっかくオレと天使教が離れたのに、ここでそんな呼び方されちゃ堪らない。…どうしてオレだけ君で呼ばれないのか納得いかないけど、まあいいか。


「タクト、召喚士って書いちゃダメだよ~?」

「分かってる分かってる!」

「ユータ、できた?見せてみて?」

「もうちょっと…できた!」

ギルドの登録用紙を書くだけなのに、ラキはとても不安そうだ。入念にオレとタクトの用紙をチェックしている。

「タクト…結局まだ魔剣士って言えないでしょ?できるようになってから書きなよ…。」

「もうすぐできるはずなんだよ!」

「じゃあもうすぐ出来てから、書き直せばいいよ。」

「ちぇー。」

ラキの添削を経て、仮登録の手続きをすませると、ジョージさんはカード状の木の板を3枚渡してくれた。

「はい、仮登録のカードよ、控えはあるけどなくさないでね。なくしたらちゃんと言うのよ?説明は学校できちんと聞いてきたかしら?じゃあ、ランクアップ目指して頑張ってね!」

「「「はいっ!」」」


3人はによによとしながらギルドの休憩スペースへ移動した。

「見ろよ、タクトって書いてあるぜ!」

「うん!ユータって書いてある!」

「ふふっ、嬉しいね。僕たち冒険者だよ~!」

オレたちはえへへ、と頬が緩むのを止められない。

『ユータ、嬉しいの?よかったね!嬉しいね!!』

シロはちっとも分かってないけど、とっても喜んでぴょんぴょんしている。ありがと!でも大人しくしてね…ギルドの床がミシミシいってるから!

『それで、いつまでもニヤけてないで依頼を探さないといけないんじゃない?ほら、また1年生が来てるわよ。』

まふんまふんと揺れるモモが教えてくれる。

「ホントだ!ねえねえ、依頼見に行こっか!」

「あっそうだな!討伐討伐!」

「討伐は無理だって~…。」


やっぱりこの時間になると、めぼしい依頼はないようで、オレたちが受けられるのはお掃除や街中の荷物運び、あとはいつでもOKの薬草採りくらいだ。

「せっかくだからパーティで受ける依頼がいいね!」

「外行かなきゃ冒険者って感じしないしな!」

「じゃあ…薬草採りに決まりだね~?」

オレたちの初仕事は薬草採りに決定!意気揚々と門へ向かった。



「ちょっと、君たち危ないよ!どうしたの?大人の人は?」

門を出ようとした所で、門番さんに止められた。

「僕たち、仮登録した冒険者です~!」

「薬草採りにいくんだよ!」

「おっちゃん!早く通してくれよ!」

「そうか、君たちは仮登録してきたんだな。でも弟を連れて行っちゃダメだよ?」

弟…?気付いた二人の視線がオレに集まる。

「…違うよ!!オレも冒険者!!ほら!」

頬を膨らませて怒るオレに、二人が腹を抱えて笑っている。

「んん…?そんなちっこいのにか…?本当に大丈夫なのか?その犬がいればなんとかなりそうだが…。」


絶対に門の付近から離れないようにと念を押されつつ、オレたち…主にオレは、やっと門の外に出ることができた。門の所からすごーく見てる門番さんが心配するので、オレはシロに乗ったまま、道すがら薬草を摘む。

「ピピッ!ピピッ!!」

普段大人しいティアが張り切っちゃって、薬草を狩り尽くす勢いで指示してくるので、大忙しだ。門の付近の薬草なんてほとんどないだろうと思ったけど、意外とあるもんだね。

「ユータ…集めるの早すぎるよ…。」

「俺まだ3束しか見つけられないぞ!」

「タクト、それ薬草じゃないの混ざってる…。」

オレには薬草探知機ティアさんがいるから、薬草の依頼なら完璧だ。でもティアのおかげでオレ自身も結構見つけるの上手くなってるんだよ…先にティアが見つけちゃうから活躍できないけど…。

「このくらいで十分?」

「十分すぎるよ~!ほとんどユータが採ってるけど…そうだ、報酬の分配ってこれからどうしよっか~?」

「お、そうだな!冒険者らしい話題だな!」


オレたちは薬草も集まったので、外壁近くの草原でシートを敷いて、のんびりとおやつタイム。甘いパウンドケーキには、果物の皮をつけ込んだ紅茶を、よく冷やしていただく。

「あーうまー!!」

「ホントに美味しい~!」

『私この紅茶好き-!また淹れてね!』

『俺様は紅茶も甘い方がいい!でもケーキうまーい!』

シロはぱくっと一口で食べると、遊びに行ってしまった。さっきから門番さんにガン見されているのが気になるけど、やっぱりお外でのんびり食べるのっていいよね!


「それで、報酬の取り分、決めておいた方がケンカしないと思うから、最初に決めておこうよ~!僕たちの実力じゃ、今のところダントツでユータが稼いじゃう形になると思うんだけど…ユータが半分、オレたちがその半分を分けるって形はどう?もっとユータに渡す方がいいと思うんだけど、僕、計算が難しくて…。」

「俺なんでもいい!でも剣買ったりしたいもんな!ちょっとは欲しい!」

「えーオレだけ多いのってなんかイヤだな!みんなで分け分けして良くない?」

「お前それでいいのか?薬草なんて見ろよ、お前9割採ってんだぞ?戦闘とか料理とかお前一人でもいいぐらいだし。」

「そうなんだよね~しかも色んな職業持ってるから何人分も活躍できるもん…パーティがイヤになったりしない?」

「全然!だってオレ、みんなと冒険したいから…報酬はあんまり気にしてなかったよ。お金が欲しいときはソロで活動したらいいんじゃない?」

「そう…?ありがとう~!でも、さすがにどうかと思うし…僕たちの分からパーティ貯金にするのはどう?」

「それでいいぞ!パーティのお金いるもんな!」

「それならオレの分からも出すよ!」

多分、オレは自由に外に出て行けたら、お金を稼ぐのは難しくないんだ。薬草にしろ、魔石にしろ、手に入れられるから…問題はそれらをどんどん買い取ってもらうことが難しいことだよね。子どもがそんなにたくさん持ち込んでたら怪しすぎる…。それもやっぱり実力が伴えば解決していく問題だろう。



『ゆーたーー!これ、ハンバーグにして-!』

「あ、シロ…おかえ……ええっ?!」

「うわーっ!スゲー!シロ何持って帰ってんの!?」

「わわっ?!それシルバーバックブル…高級肉だよ~!!どこで見つけてきたの~?!」

ちょっ…隠して!ほら!早くっ!!門番さんが腰抜かしてるからっ!


……ふう。

オレは大慌てで大きな獲物を収納に隠すと、額の汗を拭った。


「…いや、ユータ、それ無理があるだろ。バッチリ見られてたじゃん…。」

「しかもあのブルが入る収納袋って…めちゃくちゃ高性能じゃない~。」




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