第152話 3人の企み

「どうしよう?!早くカロルス様に伝えに行かなきゃ!」

―今から行くの?

「行きたいけど……オレ約束あるんだ!それにダンのパパさんに万が一見付かったらまずいよ!そうだ、アリスに事情を話して…。」

―いいけど、アリスはカロルスさんにどうやって伝えるの?

そうだった!アリスの言葉はカロルス様に伝わらない…オレが行くしかないか……。


『ここで!俺様登場!!』

しゃきーんと無駄なポージングで割って入るチュー助。

「えっ…なに?どうしたの?」

『なにじゃないの!俺様の出番でしょぉー!』

むにむにむに!っとほっぺをつつかれて腹が立つ。

「今いそがしいの!チュー助と遊べないの!!」

『ひどっ!俺様の方が年上なんですけどー!?子ども扱いー!?』

『ちゃっちゃと用件を言わないからよ!ゆうた、チュー助なら人と話ができるわ。ただ、フェアリーサークルで連れて行けるかどうかだけど…。』

あっ!そうか、チュー助だけは普通に人と話せるんだ!どうしてかは知らないけど…。

―チュー助は『物』だからラピスが連れて行けるの。

『…うんそう……俺様ただの短剣…だから。』

「そっか…!!それは頼りになるなぁ!チュー助おねがいできる?!」


短く柔らかな毛並みをなでなでしてお願いしてみる。

へちょっとなったおひげとお耳がしゅぴっと持ち上がり、しっぽがぴんっと真っ直ぐになった。

『アイアイキャプテン!!俺様頼りになる男!』

シャシャシャシャキーーンっと短剣二刀流の技をエアでキめる。ネズミじゃなかったら格好良かったかも知れない。




「おいおいおい!なんだよ高価な薬のお礼って!ユータだな?!ユータがしでかしたんだろ?あの野郎…何だってんだ今度は!だからお前が見に行ってないと行けねえんだって!!」

「何で俺が!どーせバレんだからお前らが見に行ったって一緒だろうが!」

「俺らが行ったら他のヤツらに目立つだろうが!俺ら領主一行だぞ!」

「知らねーよ!どっちにしたって俺は関係ないだろうが!」

「カロルス様、とりあえずいつまでも待たせるわけにもいきません。さっさと行ってきて下さい。」

「俺が行ってボロが出たらどうするんだ!グレイ、お前が行けばいいと思うぞ!」

「私は執事です!!早く行かないとエリーシャ様がお怒りですよ?」

「うっ……。」

「きゅきゅっ!」

「うん?アリス、鳴くなんて珍しいな、どうした?」


『じゃじゃーん!俺様が来てやった-!!』

―うるさいの!静かにするの!バレたらダメって言ってたのに忘れたの?


もう見慣れたフェアリーサークルの光。ちょうどいいところにユータ!と思ったら…ラピスと…こいつはなんだ??立って歩くねずみ??今こいつがしゃべったか?

何やら急に萎れてションボリした様子だが…。

「ラピス殿、これは一体…?ユータ様はどちらに?」

「きゅっ!」

『そう!俺様こういう時のために来た優秀な助っ人!忠介!!主は来ないぜ、約束あるんだとよ!代わりに話のできる俺様が来たってわけだ!』

「………まあいい。お前はユータの仲間ってことでいいんだな。それで?」

『物わかりのいいヤツだ!そう、俺様は仲間!!』

「早く説明してもらえますかな。」

『あっこの人怖い。だからー主があの人の息子を救ったんだけどー、魔寄せなんてもんを持ってやがったから、我らの規格外な主がシュシュッと解呪したわけ!でもって―。』


「―大体の事情は分かりました、色々聞きたいことはありますが。カロルス様もよろしいですね?」

「お、おう…まあなんとか話を合わせりゃいいんだな!にしてもあの野郎はちっとも自重してやがらねえ…。」




「ユータ!遅かったな!」

「ごめんね!ちょっとバタバタしちゃった。」

「大丈夫だよ~。」

今日は3人で待ち合わせ。ちょっと内密に色々と計画を立てなければいけない。

「それで?めぼしい場所は見つかった?」

「おう!ちょっと治安は悪いけどな、裏通りの方にいいとこあったんだ!」

「こっちだよ~!」

二人に案内されて裏通りを進む。だんだんと人がまばらになり、あるのは怪しげな店や崩れかかった廃屋。さらに進むと、開墾しようとした跡地だろうか、数棟の山小屋みたいな廃屋があり、荒れた土地が広がる場所に着いた。

「へえ…確かにここなら良さそうだね!」

「ここまで来たら、人がいないからガラの悪い人も来ないよ~!」

「で、どこにする?」


早く早くと急かすタクトに促されるまま、オレ達は目立たない小屋を選んでそっと中に入った。

「わ~崩れそうで怖いね~!」

「ホントに崩れちゃうかもしれないから…モモ!」

『ええ、シールド!』

「……本当にシールド張ってる…スライムが……。」

タクトにはモモのこと言ってあるのに、驚愕の目でモモを見ている。やっぱりスライムがシールド張るのは珍しいのかな?


「よし、じゃあ取りかかってくれ!」

タクトはまるで監督だ。腕組みして厳しい視線でオレ達の作業を見つめている。

「あ、そこに椅子とテーブルがいい!こっちは簡易ベッドにしようぜ!」

はいはい。監督の指示通りにオレが土魔法で部屋を作っていき、ラキが職人芸を披露する。家具の装飾や形を整えるだけだけども、オレほど魔力が多くないので休み休み頑張ってくれている。


「ふう~。ユータ、君はどのぐらい魔力があるんだろうね…ちょっとおかしいよ。」

「そう?メリーメリー先生と同じぐらいって言ってたね!」

「先生より多いんじゃねえの?そんな気がするぜ!」

「森人の先生より多いってもう人じゃなくない~?」

二人は勝手なことを言いつつ出来たてのテーブルセットで寛いでいる。オレは小屋の内部をそのまま土で覆うように形取り、小屋の崩壊を防ぎつつ外観は廃屋に見えるようにした。


「よーし、とりあえずの形は完成だね!」

「よっしゃーオレ達の秘密基地ー!!」

「秘密基地~!」

やっほう!3人でハイタッチを交わして、狭い秘密基地内を駆け回る。もう外側と中身は全くの別物だ。ボロボロだった中身は一掃して、頑丈な土や石で作られたがらんどうの部屋。あるのはぽつんと置かれたテーブルセットと固いベッド。なんとも殺風景だけど、オレ達にはどんな城よりも素敵な内装に思えた。前々から街はずれに秘密の小屋がほしいなって思っていて、ぽろっと二人に話しちゃったんだ。そもそも気兼ねなくフェアリーサークルで移動するための小屋のつもりだったんだけど、いつの間にかノリノリの二人のおかげで秘密基地になってしまった。二人にはフェアリーサークルのこと言ってもいいかなぁ?そのうち秘密だってことを忘れて色々やってしまいそうだから、二人にはなるべく打ち明けたいと思ってるんだけど…。


「なあなあ!冒険者やりだしたらここで作戦会議してさ、おやつとか持ってきてさ!」

「売らない素材とかここで保管できたらいいよね!僕の作業スペース作ってくれる?ここを工房にして獲ってきたばっかりの素材を好きなだけ加工して…!」

「オレの召喚獣たちも連れてきてさ!そうだ、ここで秘密の特訓とかしちゃったりするのもいいな!こっそり強くなるの!」

「「それいい!!」」


やっぱり秘密特訓はいいよね!学校でやってるのはみんながいるし秘密であって秘密じゃないからね。オレ達3人パーティの秘密特訓、いいじゃない!

「うーん、でもこのスペースで特訓は難しいよね…。」

「あのさ、ユータって優秀なポンコツで規格外じゃん?もしかして地下空間とか…作れちゃったりしてー?」

「うわ~タクトそんなこと言ったら……。」


「おおっ!それナイスアイディア!!」


「あ~~やっぱり。」

「げー……できちゃうんだ…。」




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