第150話 土魔法職人

「ユータくん……ここは任せてって言いたいけど…うん、君はすごい魔法の才能があるもんね。君ができると思うことをしてくれたらいいよ、無理はしないでね!ちゃんと先生がみんなを守るからね!」

先生はいつものように華やかな笑顔を浮かべた。筋骨逞しい冒険者の中に混じる、子どもみたいな先生。でも、その小さな背中は誰よりも頼もしく思えた。


オレたちが走って戻った方向からは、既に魔物の一派が到達し、戦闘が始まった。小さな魔物たちなので苦戦はしないが取りこぼしが怖い。そのためそちらへそちらへと冒険者が集まってしまう…そうすると他が手薄になるんですけど…。でも彼らはあちこちから魔物が向かってきていることを知らない。やっぱりあの作戦でいこう!

「先生!魔物があちこちから来てるってあの人が言ってた!オレ、壁でここを囲むね!」

「えっ!?囲まれてるの?!う、うん…土壁を作ってくれるのね!助かるわ!」


よし、許可をもらった!

「みんな、土の壁でここを囲むよ!びっくりしないでね?」

「えっ…囲む?」

ぺたっと地面に手をつくと、オレお得意の土魔法工作だ!オレ達生徒の周囲を囲む壁…というか屋根のない部屋を作って、そこから細い廊下を延ばす。廊下には冒険者が戦いやすいよう一部広いスペースも作ってと…。

イメージを固めつつ魔力を流す。

ズズズズッ!!

まるで地面の下を魚が泳ぐように、オレの描いた部屋を形取って土が盛り上がっていく。


「うわ、うわ、うわあっ!」

「なっ?!なんだこれ!?」

「ゆゆゆユータくんっ!?何してるのかなっ!?」


壁を作るってちゃんと言ったよ?冒険者と先生が慌てふためいているけど、あんまり動くとはじきとばしそうだからじっとしてほしい。ドドドッと波のように生える土壁で、ついでに魔物を吹っ飛ばしながらオレたちの要塞……じゃなくて土壁が完成だ。

細く長い廊下を通ってちょっとした広間があり、その後ろにまた廊下があってオレたちのいる部屋に到達する。

「先生!ここに入って!冒険者さんも入って!」


ぽかんとしていた先生たちが慌てて駆け込んでくる。魔物も我先にと駆け込んでくるのでとりあえず入り口は閉めちゃうね。

「………。」

「……助かった?」

「ユータくん……魔力量多いのは知ってたけど…大丈夫?えっと…器用、だね……。」

先生はどことなく呆然とした様子でオレを撫でてくれた。


「あのね、今入り口を閉めてるけど、これじゃ出られないし壁を登ってきたりすると思うから、どんどん倒さなきゃいけないの。先生たちここの広間に陣取ったら戦いやすいんじゃない?そろそろ入り口を開けるよ?ここから廊下は一直線になってるから、先生の魔法が使いやすいでしょ?真っ直ぐに魔物が並んでたら便利かなって思ったんだ。」

「あ……これ、この形なら私一人で守り切れるよ……土魔法ってこんなことができたんだ…こんなことできたら地形関係ないじゃん…すごい…。」

「じゃあ、オレたちお部屋で待ってるね!」

「う、うん……救援信号飛ばしたから、応援も来ると思うわ…もう大丈夫よ。…うん、後は任せてちょうだい!ユータくん…ありがとう!!」


徐々に現状を把握してきたのか、先生は安堵の表情を浮かべて大きな瞳に涙をためた。先生、まだ魔物いっぱいいるよ?これからだよ!

「じゃあ、いりぐち開けるよっ!えいっ!」

入り口を塞いでいた土壁が崩れると同時に、壁に取り付いていた魔物がなだれ込んできた。

「引きつけてから雷を打つわ!打ち漏らしがあれば頼むわね!」

「了解!」

先生の余裕の表情に、冒険者たちの顔も明るくなる。ここは大丈夫そうだね。




「ユータ、お前相変わらずむちゃくちゃやるなあ…。」

「どうして?土壁だったらラキもできるよ?」

「僕ができる壁はベッドぐらいの範囲だよ~こんな…要塞はできないからね!」

「そう?オレ、魔力だけは多いからね。」

「魔力が多かったらできるもんか…??」

そりゃあできると思うよ?ただの壁だし。周囲が囲まれたことで安全と思えたのか、クラスのみんな少し肩の力を抜いた様子だ。この部屋は念のため屋根代わりにモモがシールドを張っている。


「これ…ユータがやったの?こんなことできるんだ…。」

「君はすごいな!!驚いた……。」

「お前、オレが街の外行くときは一緒に来てくれよな?」

班の3人もこんな状況でさすがに青ざめていたけど、もう復活したみたいだ。そうだ、ごはんがまだだったね!お腹が空いてたら元気も出ないよ。




「サンダー!どうよっ!何枚抜き?私ってカッコいいわ!!」

「なあ先生……。」

「……なんでしょう?」

「すっげーいい匂いが後ろから漂ってくる気がしてならねえんだけど……。」

「…………気のせいです。」

「そ、そうかな……。」

気のせいに決まってる!魔物の群れに襲われながら呑気に昼ご飯食べる1年生がどこにいるというのか?!頭の中では、はーいここに!と元気に返事をしたかわいい黒髪の生徒が浮かんだけれど。

私のごはん…ねえ、残ってるよね?!

先生はちょっぴり泣きそうな気持ちで何度目かの雷撃を放った。



「これうまーー!!」

「おいしいっ!!」

「はいはいどんどん揚げていくよー!雑炊は各自でよそってね!」

せっかく準備していたごはんがお預けのままなのは勿体ない。どうせ暇なんだし今のうちにごはん食べちゃおう!そんなこんなで給食係をやっている。温め直した雑炊と、二度揚げした唐揚げ。唐揚げは足りなくなりそうだったから、先生たちが倒したホーンマウスを何体かこっそり拝借してきた。先生のサンダーが直撃したやつは消し炭になってたけど…。


「なあ、オレら魔物に囲まれてたと思うんだけど。んっ!これめっちゃうめー!!」

「これでいいのかな~。あつっ!おいし~!」

釈然としない顔をしながら頬ばるラキとタクト。いらないなら食べなくていいのだよ?



既に呪いの作用は打ち消してあるので、呪いの効果に誘われた魔物が全部引き寄せられたら、それで打ち止めだ。徐々に数を減らしていった魔物、最後の1匹が倒されたのを確認して、ゆっくりと廊下部分の土壁を崩していく。

「えっ?壁が…!!」

「先生、もう大丈夫そうだから壁は片付けておくね!みんながビックリするからお部屋だけまだ置いておくよ。」

「そ、そう?あっ…私のごはん?!……じゃなくって…みんな無事?!大丈夫?」


「おー先生!これめっちゃうまいよ!大丈夫、先生のあるから!」

「ホントっ!?やったー!」

冒険者さんたちのじっとりした視線を物ともせずにオレたちの輪に入った先生が、バクバクと食事を貪った。いっぱい魔法使ったからお腹も空くよね~!


冒険者さんたちにもちゃんと残してあるから!そのよだれ拭いて!!

「う、うめぇ…!!」

「野外でこんなうめえもん食えるなんて…!!」

泣かんばかりに喜んでがっつく様子に、作ったかいがあったとオレは満足げに頷いた。



「ねえ先生、人が近づいてくる………ってティアが言ってるみたいだよ?」

「人?何かしら……?ねえユータくん、これってどうやって作ってるの?私にも教えてほしいなっ!」


「おおぉーーい!!どこッスかー!!無事ッスかあーー!!」

ほどなく聞こえてくる大声。あ…この声?

「なんッスか…これは!?こんなもの以前まではなかっ……??」


「……。」

「………。」

「マッシュ先生!こんにちはーどうしたの?」

ひょいと部屋を覗き込んだマッシュ先生。大きなお口で唐揚げを頬ばったところで、バチっと目が合ったらしいメリーメリー先生。

「……救援信号受けて来たんスけど……。」


もぐもぐもぐ…ごっくん。


「あっ……あのっ…これは違うのっ!誤解なのっ……!」


先生はサッと自分のお皿を背後に隠した。



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